自己破産すると健康保険や生命保険はどうなる?
自己破産すると健康保険や生命保険がどう取り扱われるのか解説します。健康保険は自己破産をしても加入し続けることになり、健康保険料を滞納していた場合、自己破産とは関係なく滞納処分の対象になります。健康保険料が支払えない場合や、生命保険や子供の学資保険その他の保険の扱い、保険契約を維持したい場合の対処法などについてまとめました。
目次
自己破産した場合でも健康保険は加入し続けられる

自己破産をしても、公的な医療保険である健康保険や国民健康保険などの社会保険には引き続き加入することができます。その代わりに保険料は今まで通り払い続けなくてはなりません。
自己破産には、借金を帳消しにできる「免責」という制度があり、一般的な借金や債務はこれにより返済義務を免れます。しかし、税金や健康保険などの社会保険料は免責の対象外であり、自己破産をしても支払い続けなくてはなりません。税金や社会保険料など、返済義務が無くならない債権のことを「非免責債権」と言います。
たまに「自己破産をすれば税金や社会保険料も納めなくてよくなる」と思っている方がいますが、それは誤解で、自己破産をしても税金や社会保険料の負担から逃れることはできません。公的な医療保険である健康保険等は全ての国民が加入しなくてはならず、自己破産をした人も例外ではないからです。
社会保険料を支払わなくてはならない代わりに、今まで通り健康保険や国民健康保険等に加入し続けることができ、病気になれば医療サービスを受けられます。
つまり、自己破産をするかどうかは、健康保険には関係がありません。
ただし、生活が苦しく、自己破産と同時に生活保護受給を検討している場合は、事情が異なります。生活保護を受給すると、健康保険に加入できなくなります。その代わり、医療費は所定の手続きを取ることで無料になります。
健康保険を滞納している場合はどうなるのか?
自己破産手続をしているかどうかにかかわらず、健康保険の保険料を滞納している場合は、いずれ「滞納処分」がとられ、財産の差し押さえが行われます。
【一般的な借金と税金・社会保険料の違い】
(1)一般的な借金
一般的な借金を滞納している場合は、自己破産を弁護士に依頼すると、各債権者に「受任通知」が発せられます。これが届くと、以後債権者は債務者と直接連絡を取ることができなくなり、督促がストップします。
また、債権者が、既に借金の債権に基づいて差押えを行っていた場合、破産手続が開始すると差し押さえの効果は中断します。その後、無事に免責許可決定が出れば差し押さえの効力は失われます。
(2)税金や社会保険料
税金や社会保険料は、自己破産とは無関係であるため、手続きの進行にかかわらず滞納していれば督促状が届きます。督促状に記載された納付期限までに滞納金を支払えば、問題はありません。
しかし、納付期限までに納付しなかった場合、延滞金が発生します。また、「財産調査」と言って、徴収機関の職員が自宅や職場にやって来て財産や財務状況の聞き取り調査などを行う可能性があります。徴収機関は、滞納者の了承を得ずに財産調査を行うことが法律上認められているのです。この際、職場に社会保険料等を滞納していることがバレてしまうでしょう。
財産調査の結果、銀行預金、不動産、給与など、差し押さえ可能な財産があった場合は、差し押さえ予告通知が発送されます。その後、延滞金を含む社会保険料分の財産が実際に差し押さえられます。この差押えは自己破産をしても中断できません。
税金や社会保険料の徴収機関は、裁判所を通じず直接、滞納者の財産を差し押さえる権限があり、民間の債権者の差し押さえより動きが速いことには注意が必要です。
健康保険などの社会保険料が支払えない場合の対応方法
健康保険は、病気やけがの際に医療サービスを受けるために重要なので、可能な限り優先して支払いましょう。以下に、支払いが苦しい場合の対処法を紹介します。
(1)他の借金より税金・社会保険料の支払いを優先する
通常の借金は自己破産すると免責によりゼロにできますが、税金や社会保険料の支払いは免れることができません。また、通常の借金の場合、特定の相手にだけ優先して支払うと「偏頗(へんぱ)弁済」と言って、自己破産手続上問題になります。しかし、税金や社会保険料は優先して支払っても問題になりません。
そのため、お金が入った場合は他の借金に優先して税金や社会保険料を支払い、できるだけ滞納しないようにしましょう。
(2)対応する行政機関の窓口に相談する
税金や社会保険料がどうしても支払えない場合、徴収機関に相談して納税の猶予や分割払いなどができないか聞いてみましょう。
滞納している方は、「行政機関に連絡しても怒られるだけ」と思っている方も多いのですが、早めに窓口に行き、今すぐには支払いが難しいことと、支払う意思があることを率直に告げて相談すれば、柔軟な対応をしてもらえることが多いのです。
納税の猶予や分割払いには条件があるので、必ずしも当てはまるとは限りませんが、積極的に相談することで対応策を考えてもらえます。
ただし、滞納の状況が悪質な場合や、既に差し押さえが決定してしまった後に相談に行っても対応できないことがあるので、できるだけ早めに相談に行きましょう。
(3)自己破産などの債務整理を行う
税金や社会保険料自体は減額できなくても、他の借金の支払い負担を減免することにより、支払いやすくすることはできます。債務整理とは、借金問題解決のための法的な手続きのことで、任意整理、個人再生、自己破産と言った種類があります。
法律の専門家に相談して、ご自身の状況にあった債務整理をされることをお勧めします。
(4)生活保護受給を検討する
当面の間支払えないだけではなく、病気などの事情があってすぐには収入を増やせない場合、生活保護の受給を検討してください。生活保護を受けている間は、健康保険料は支払わずに済みますし、税金も基本的に支払いが免除されます。
生活保護の受給には審査があるため、必ず受けられるわけではありませんが、本当に生活に困窮している場合は、ためらわずにお住まいの地域にある福祉事務所に相談してください。
生命保険の扱いはどうなる?
自己破産をすると、20万円以上の解約返戻金がある生命保険は原則として解約されます。他方で、掛け捨て型の生命保険であれば解約されません。生命保険以外の保険についても、貯蓄型で、20万円以上の解約返戻金が発生しているものは解約されます。
(1)貯蓄型の生命保険の場合
貯蓄型の生命保険は、解約すると解約返戻金が戻ってくるため、「財産」とみなされます。20万円を超える解約返戻金がある生命保険に入っている場合、自己破産をすると、破産管財人によって解約させられます。解約返戻金は債権者に配当されるため、破産者本人が受け取ることはできません。
ただし、解約返戻金の額が20万円以下の場合は、保険の解約が不要となるケースが多いようです。この場合、自己破産をしても今まで通り生命保険に加入し続けることができます。
生命保険に複数加入している場合は、全ての解約返戻金の合計が20万円以下であれば、解約しなくて済む可能性があります。
もっとも、解約返戻金の取り扱いについては、各裁判所によっても運用が異なる場合があるので、事前に弁護士に確認してください。
(2)掛け捨て型の生命保険の場合
掛け捨て型の生命保険に関しては、債権者にとって解約するメリットがないため、解約されません。今まで通り加入し続けることができます。
(3)家族名義の生命保険の場合
破産手続きにより解約される可能性があるのは、解約返戻金の請求権者が破産者本人である場合のみです。家族が掛け金を払い、解約返戻金の受け取りも家族になっている生命保険の場合、本人が自己破産をしても解約対象にはなりません。
子どもの学資保険はどうなるのか?
生命保険に限らず、自動車保険や火災保険、子供の学資保険といった性質の保険でも、貯蓄型で解約返戻金があるものについては、自己破産をすると原則として解約されます。
ただし、生命保険と同様、複数の保険の解約返戻金の合計額が20万円以下の場合は、自己破産をしても解約されないケースがあります。
全ての貯蓄型の保険の解約返戻金が20万円を超えてしまうと、原則として全ての保険が解約されます。
具体的な運用方法は裁判所によって異なるので、ご自身の保険が解約対象となるかどうかは、あらかじめ弁護士にお問い合わせください。
生命保険を解約したくない場合の対処方法
生命保険やその他の保険は、一度解約すると従前の条件では再契約が難しいため、以下の方法で契約を維持できないか検討しましょう。
(1)自由財産の拡張を申し立てる
自由財産とは、自己破産しても手元に残せる財産のことを言います。通常、20万円を超える解約返戻金がある保険は解約されますが、自由財産の拡張を裁判所に申し立て、認められれば、契約を維持することができます。
自由財産の拡張は、破産手続開始決定から1か月以内に限り、裁判所に申し立てることができます。この申し立てが認められるためには、保険の解約返戻金に相当する額を、「破産財団」に組み入れる必要があるのが一般的です。破産財団とは、破産管財人が管理・処分し、債権者に配当する財産のことを言います。
自由財産の拡張が認められるかどうかは裁判所によっても異なるため、保険契約の維持を希望する場合、事前に弁護士に相談してください。
(2)破産管財人と話し合う
破産手続開始決定から1か月を過ぎていても、破産管財人と話し合って、解約返戻金に相当する額を支払うことを条件に、保険契約を維持できるケースがあります。基本的には自由財産の拡張と同じ基準で判断されることが多いようです。
(3)生命保険の受取人が介入権を行使する
生命保険については、受取人に「介入権」という権利があり、これを行使することで保険の解約を阻止できます。具体的には、受取人が保険契約者である破産者の同意を得て、解約返戻金に相当する額を破産管財人に支払い、その旨を保険会社に通知します。これにより、保険契約の解除をせずに済みます。
(4)自己破産以外の債務整理を行う
自己破産をすると、解約返戻金のある保険は原則として処分されますが、任意整理や個人再生と言った他の債務整理であれば、財産が処分されないので、手元に残せます。
保険契約に限らず、どうしても手放したくない財産がある場合は、自己破産以外の債務整理を検討されることをお勧めします。
・任意整理
弁護士が債権者と私的に交渉して、利息の減額や返済計画の見直しをする手続きです。債権者に債務整理の中で最も社会的影響が少なく、希望すれば同居の家族にも黙ったまま手続きすることも可能です。ただし、借金の元本を減額することは原則としてできず、借金の金額が多すぎる場合は向いていません。
・個人再生
裁判所を通した手続きで、元本を含めた借金総額を大幅に減額できます。自己破産の場合、財産の処分と、免責されるまでは一部の職業に関する資格制限が発生しますが、個人再生にはそのような制限もありません。その代わり、債務整理の中でも特に手続きが複雑で手間がかかるため、専門家の協力が欠かせません。
自己破産すべきかどうか迷った場合は弁護士に相談を
自己破産をしても健康保険には影響はなく、引き続き医療サービスを受けることができます。他方で、貯蓄型の生命保険で解約返戻金のあるものについては、解約されてしまうのが一般的です。もっとも、解約せずに済む可能性もあるので、生命保険契約を維持したい場合は、事前に必ず弁護士に相談してください。
自己破産は借金をゼロにできる強力な手続きですが、その反面、一定額以上の財産が処分されるというデメリットも伴います。ご自身の収入や支出の状況によっては、自己破産ではなく、任意整理や個人再生によって財産を守ったほうがよいケースもあります。
自己破産、任意整理、個人再生、いずれにもメリットとデメリットがあり、ご自身とって最適な債務整理を選ぶためには、債務整理の経験が豊富な弁護士に依頼するのが最善です。とはいえ、司法制度改革で弁護士が増えたため、「どこに相談すれば良い弁護士に対応してもらえるのかわからない」という方も多いことでしょう。
現実の知り合いで、良い弁護士の口コミがあればそれがベストです。しかし、そうしたつてがない場合は、近年では、債務整理に関しては、無料で法律相談を受け付けている事務所も多いので、複数の法律事務所に相談するのも良い方法です。相性が合うと感じられ、納得のいく回答を得られた事務所に正式に依頼することで、良い結果が得られるでしょう。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑


