債務整理と任意整理の違いとは メリットとデメリット

任意整理と債務整理の違いについて解説します。債務整理は法的な借金解決の手続きの総称で、任意整理は債務整理の一種です。任意整理とそれ以外の債務整理との違い、任意整理のメリットとデメリット、任意整理が向いている人と向いていない人、任意整理ができない場合の対処法についてまとめました。

任意整理と債務整理の違いとは

債務整理とは、借金問題を法的に解決するための手続きの総称をいい、任意整理は、債務整理の一種です。債務整理にはいくつか種類がありますが、任意整理はもっともよく行われている方法で、借金解決方法の中でもっとも社会的影響が少ないというメリットがあります。

なお「債務」とは、この場合はお金を支払う義務のことで、債務者とは借金をした人のことを指します。債務を軽減したり、ゼロにしたりする手続きなので「債務整理」と呼ばれています。

逆に、お金を受け取る権利があることを「債権」と言い、お金を返してもらえる立場の人を債権者と呼びます。

債務整理で一般的にとられる手続きは以下の3つです。

(1)任意整理

裁判所を通さず、私的に債権者と交渉して利息の減額や返済計画の見直しを行います。本人だけでも任意整理は可能ですが、債権者は相手が本人だと強気に出てきて、債権者のペースで話し合いが進む場合が多く、注意が必要です。

法律の専門家が間に入ることで、債権者も強引に話を進めることはできなくなり、債務者にとって有利に交渉を進めることができます。また、弁護士に依頼すれば、債務者が直接債権者と交渉しなくて済みます。

(2)個人再生

裁判所で手続きをして、借金総額を5分の1~10分の1程度に大幅に減額できます(※減額の幅は借金の額や持っている財産によって異なります)。また、「住宅ローン特則」を利用すると、ローン返済中のマイホームを手放さずに手続きが可能です。ただし、債務整理の中でも特に必要書類が多く時間もかかり、煩雑な手続きとされています。

(3)自己破産

借金をゼロにできる最も強力な手続きです。その代わり、家財道具などを除く一定の金額以上の財産は裁判所によって換価処分されるため、手放さなくてはなりません。財産を換価したお金は債権者に配当されます。借金額が高すぎるケースや、失業して収入がない場合などは、自己破産が唯一の選択肢になります。

任意整理のメリットとデメリット

任意整理の最大のメリットは、裁判所を通さないため、減額交渉の相手を選べたり、同居の家族にもバレずに手続きが可能など、社会的な影響が少なく借金を減らせるところです。デメリットは、借金の減額幅が他の債務整理に比べて少ないところです。以下に、任意整理のメリットとデメリットをまとめました。

【メリット】

(1)減額交渉の相手方を選べる

任意整理は、債務整理の中で唯一、借金を減額する相手先を選択できます。例えば、消費者金融やカード会社などの借金のみを対象として、特定の債権者は相手先から外すことが可能です。

「勤め先や恩人からの借金は全額払いたい」「連帯保証人がついている借金は任意整理の対象から除外したい」と言った希望に沿うことが可能です。債務者の実情に合わせて減額の対象となる債務を選べるため、社会的影響を最小限に抑えることができます。

これに対し、個人再生や自己破産は、全ての債権者を手続きに参加させなくてはなりません。

(2) 勤め先や同居の家族にもバレずに手続きできる

任意整理では、勤め先はもちろん、希望すれば同居の家族にもバレずに借金問題を解決できます。弁護士に相談する際に希望を伝えておけば、連絡の際に法律事務所の封筒を使わないなど、バレないように取り計らいます。

個人再生や自己破産の場合、勤め先や、同居していない家族に知られる可能性は低いのですが、世帯全体の家計簿を含む多くの書類の作成などがあるので、同居の家族にもバレずに全て手続きを行うのは難しいでしょう。

(3)面倒な書類作成・収集や手続きがほとんどない

裁判所を通す手続きの場合、申立書の作成や家計簿の作成、住民票の写しや給料明細など、多くの必要書類を準備しなくてはなりません。しかし、弁護士に依頼して任意整理を行う場合、面倒な書類作成や手続きはほとんどなく、必要がある場合でも弁護士が代行してくれます。

(4)財産を手放さずに済む

任意整理であれば、不動産や骨とう品、宝石など高価な財産を手元に残しつつ、借金負担を減らすことができます。

これに対し、個人再生は、財産を手放さなくて済みますが、財産の金額によっては借金の減額幅が少なくなります。自己破産の場合は、高価な財産は手放すことになります。

(5)借金をした理由は不問

例えば、ギャンブル、風俗、浪費、オンラインゲームの高額課金などの借金であっても、弁護士との相談や債権者との交渉で不利になることはありません。

個人再生も基本的に借金の理由は問われません。自己破産の際は「免責不許可事由」と言って、借金が免除されなくなるケースがあります。

(6)債権者からの連絡や督促が止まる

任意整理を正式に弁護士に依頼すると、弁護士は「受任通知」を各債権者に発し、これを受け取った各債権者は、以後、債務者に直接連絡を取ったり、督促をしたりすることができなくなります。既に借金を滞納しているのであれば、精神的な負担になる督促を止められ、大きなメリットになります。

これは、全ての債務整理に共通するメリットです。

【デメリット】

(1)借金の減額幅が少ない

最大のデメリットは、個人再生や自己破産に比べて借金があまり減額されないことです。任意整理で減額できる借金は、基本的に、これから支払う利息分のカットにとどまることが多く、元本まで踏み込んで返済額を減らすことは原則としてできません。

この点、個人再生の場合は借金を元本も含めて大幅に減額できます。さらに、自己破産の場合は、どれほど高額の借金でも全てゼロにできます。

例外的に、任意整理でも、債務者がまとまったお金を工面可能で一括返済ができる場合、債権者と交渉して借金の元本まで減額できる可能性があります。詳しくは弁護士にお尋ねください。

(2)減額後の借金は原則3~5年かけて返済しなくてはならない

任意整理で借金を減額した場合、残った借金は3~5年程度の分割払いで返済しなくてはなりません。返済に10年もかけるような和解は出来ないので、ご自身の経済力で3~5年で返済できるか、慎重に判断する必要があります。

個人再生の場合も、借金自体は大きく減りますが、減額後の借金を3~5年かけて支払わなくてはなりません。自己破産の場合は、すべての借金の返済義務が無くなるので、手続きが終われば借金から解放されます。

(3)債権者が和解に応じない場合がある

任意整理はあくまで私的な話し合いで借金を減額する手段なので、債権者が和解に応じてくれない場合は、個人再生や自己破産などの裁判所を通じた手続きを取ることになります。

あまりに交渉が長引くと、債権者が訴訟を起こしてくるおそれがあり、任意整理の主要なデメリットの一つです。

これに対し、個人再生は手続きの種類によっては債権者の同意なく借金を減額可能です。また、自己破産も債権者の同意は必要ありません。

(4)信用情報がブラックリスト入りする

任意整理をすると、信用情報がブラックリスト入りし、一定期間新たな借り入れや分割払い、クレジットカードの利用・作成が難しくなります。これは全ての債務整理に共通するデメリットで、任意整理の場合は借金完済後5年間はブラックリストに入っています。

任意整理対象とした債権者だけではなく、すべての合法的な金融機関やカード会社等で借り入れなどができなくなりますので、注意してください。

その理由は、信用情報機関という、個人のお金の貸し借りの記録を保管する機関に任意整理の情報が記録されるからです。もっとも、情報は厳しく管理され、また所定の期間が過ぎれば削除される仕組みになっています。

5年待てば、再び借金や、クレジットカードの利用ができるようになります。

(5)税金は減額できない

支払いが苦しい主な債務が税金の場合、弁護士が間に立って行政と交渉することは出来ません。債務者本人が、税務署や地方公共団体の窓口に行き、支払いの猶予や分割払いが出来ないか相談する必要があります。

これは、任意整理に限らずすべての債務整理に共通するデメリットです。裁判所などの公の機関は税金で動いているので、借金を免除するのと同じ仕組みでは免除されないようになっているからです。

任意整理が向いている人

任意整理は裁判所を通さない私的な手続きのため、「話を大きくせずにできるだけ内密に借金を減らしたい」という人にピッタリです。また、借金額が比較的少ない人や、連帯保証人に迷惑をかけたくない人にも向いています。

任意整理は、以下のような人が向いています。

  • 定期的かつ将来にわたる収入がある(アルバイトや非正規雇用でもOK)
  • 借金の元本のみであれば3~5年の分割払いで返済できる
  • 家族にも内緒で借金を減らしたい
  • 連帯保証人に迷惑をかけたくない
  • 面倒な手続きは嫌だ
  • 守りたい家や財産がある
  • ギャンブルや浪費による借金である

任意整理が向いていない人

任意整理はあまり大幅な借金減額が出来ない手続きのため、借金が膨らんで現在の収入ではとても払いきれない方や、病気などで働けない方には向いていません。また、税金の支払いに困っている場合も、税金は減額できないので任意整理には向いていません。

以下のような人は、個人再生や自己破産も検討してみてください。

  • 収入が無い、もしくはあってもギリギリの生活である
  • 借金の元本が3~5年の分割払いではとても返済できない
  • 手続きが面倒でもしっかり借金を減らしたい
  • 連帯保証人のいる借金や、勤め先からの借金などが無い
  • 債権者が和解に応じてくれなさそう

任意整理ができない場合はどうするべき?

任意整理で解決できない、もしくは任意整理をしてもあまりメリットが無い場合は、以下の方法があります。

収入が無い、もしくは生活していくのがやっとの場合

収入が無くては、任意整理はもちろん、個人再生も難しいので、とれる選択としては自己破産になります。ただし、自己破産は財産が処分されるなどのデメリットがあるので、弁護士と相談して慎重に行いましょう。

借金の金額が大きい場合

任意整理での解決を望んでいても、借金の金額が収入額に照らしてとても高額な場合、弁護士から他の債務整理を進められることがあります。

基本的には、ローン付きのマイホームや財産を守りたい場合は個人再生、財産が特にない場合は自己破産が有力です。しかし、どちらの手続きにも特徴や条件があり、どちらが適切かの診断は弁護士に相談されることをお勧めします。

税金が主な債務の場合

生活が苦しく、税金が払えなくて苦しんでいる場合、まずは税務署や地方公共団体に相談してください。病気など、中長期的に税金が支払えない事情がある場合、生活保護を受給することで税金の支払いが免除されます。

信用情報をブラックリスト入りさせたくない場合

任意整理を含むすべての債務整理は、信用情報がブラックリスト入りしてしまうので、これを避けたい場合は、家計の見直しや、家族や親族からお金を借りたり、持っている財産を処分したりするなど、基本的な金策でしのぐことになります。

ただし、2010年6月以前に契約した借金に過払い金が発生している場合は、ブラックリスト入りせずに借金をなくせる可能性があります。過払い金の有無は、弁護士に調査を依頼すれば確認できますので、心あたりがある方は一度調査されることをお勧めします。

任意整理、債務整理は弁護士へ相談を

任意整理を行う場合は、債務整理の経験豊富な弁護士に相談しましょう。任意整理が難しい場合は、個人再生や自己破産によって借金負担を減らす、もしくは完全になくすことも可能です。

債務整理を行うことで、現実に借金を減らす効果のほか、一人で思い悩んでいたことを専門家に打ち明けることで、心や頭の整理がつき、未来を前向きに検討できるようになります。

離婚や家族間のトラブルなど複雑な事情が絡むケースでも、真剣に問題を解決する気持ちがあれば、必ず解決方法が見つかりますので、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。近年は、債務整理に関する相談は、多くの法律相談所が無料で受け付けています。

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑