債務不履行とは 3つの種類と損害賠償について
債務不履行についてわかりやすく解説します。債務不履行には「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つの種類があり、それぞれに債権者から請求される内容が異なります。債務不履行においては、損害賠償が請求できる場合とできない場合があります。損害賠償が請求できる条件や、金銭債権の特則、損害賠償の時効についてなど、ポイントをまとめました。返済が難しい場合は債務整理を検討しましょう。
目次
債務不履行とは?
債務不履行とは、契約した内容に関し、債務者が約束通りの義務を果たさないことを言います。「借りたお金を返さない」とか、「商品を引き渡したのにお金を支払わない」といったケースが代表例です。
「債務」とは、約束した義務のことで、例えば、お金を借りたときは、期日までに返す義務を負います。義務を負っている人のことを債務者と言います。
反対に、「債権」とは、約束通りに義務を果たしてもらう権利を持っていることで、お金を貸した人は債権者となります。
債務不履行は、当事者間に契約がある場合に発生します。例えば、道を歩いていて交通事故に遭った場合のように、契約関係のない相手方とのトラブルについては、債務不履行は発生しません。
契約は口頭の約束でも成立しますし、取引の慣行から契約が発生するケースもあります。法律上なにが債務に当たるかは、契約書に書かれた内容だけではなく、個々の契約内容を法的に検討することで明らかになります。
約束通り義務を果たせなくとも、やむを得ない場合は債務不履行とならないことがあります。例えば、期日までに商品を納品する約束をしていたが、大災害で道路が寸断されて納品できなかった場合などです。
もっとも、お金を借りた場合は、やむを得ない事情でお金を返せなくても、返済義務はなくなりません。
債務不履行について知り、どんな場合に債務不履行になるか理解することで、現実に起きたトラブルに適切に対応できるようになります。
債務不履行の種類
債務不履行は、民法412条および413条に定めがあり、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3種類に分類されます。
(1) 履行遅滞
履行遅滞とは、期日や期限を定めた債務について、履行が遅れることです。例えば、お金を借りて、2024年7月1日までに返してくれと言われたのに、期限を過ぎても返済しなかった場合は、履行遅滞となります。
特に「いつ支払うか」を定めず約束したときは、債権者から支払ってくれと請求されたときから履行遅滞の責任を負います。
【民法412条 履行期と履行遅滞】
債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
(2)履行不能
債務の履行が不可能になることを履行不能と言います。例えば、引き渡し予定だった商品が一点ものの油絵で、引渡し前に火事で焼失してしまった場合が考えられます。
しかし、同じような絵でも、量産可能なアートパネルだった場合、燃えなかった他のパネルを引き渡すことができるので、履行不能とはなりません。
【民法412条の2 履行不能】
債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
(3)不完全履行
不完全履行とは、例えば宅配ピザで、マルゲリータを注文したのに、ジェノベーゼが届いた場合のように、履行はされたものの、約束とは違った内容だった場合です。
債務不履行になったらどうなるのか?
債務不履行になった場合、債権者から以下の請求をされることが考えられます。
(1)債務を完全に履行するよう求められる
(2)債務を一括請求される
(3)契約を解除される
(4)損害賠償を請求される
(5)強制執行をされる
上記のどの請求をされるかは、契約の内容や、債務不履行の性質、債権者の考え方によっても異なります。例えば、一点ものの絵を引き渡し前に焼失してしまった場合は、(1)の完全な履行を求められることはありませんし、損害賠償の請求は、債権者に損害が発生していなければ請求できません。
(1)債務を完全に履行するよう求められる
多くのケースでは、「約束通り履行してください」と請求されるのが一般的でしょう。借金をして返済が滞っている場合は返済を促されますし、宅配ピザの間違いであれば注文した通りのピザを作り直して配達するよう求められます。
(2)債務を一括請求される
金銭債権の場合、例えば、60万円の借金を毎月3万円ずつ返済していたケースにおいて、返済が滞ると未払いの借金全てを一括で返済するよう求められることがあります。
借金を、約束通りの期日までは返済しなくていいという債務者側のメリットを「期限の利益」と言いますが、債務不履行によりこの期限の利益が無くなることがあります。
(3)契約を解除される
例えば、ボールペンを100本、期日までに納品してくれと頼んだのに、期日を過ぎてもいつまでも納品する気配がない場合、他の業者に同等の品質のボールペンを100本納品してもらったほうが良いと判断するとことがあります。
この場合、債権者は債務者に履行を求める催告を行い、催告した期間内に履行が無ければ、債務者の同意なしに強制的に契約を解除することができます。
また、履行不能の場合や、債務者が債務を履行することを明確に拒否している場合は、催告をしなくても契約の解除が可能です。
契約の解除の際は、内容証明郵便にて、「契約を解除します」という趣旨の文書を送ってきます。
(4)損害賠償を請求される
債務不履行により債権者に損害が発生した場合は、損害賠償を請求されることがあります。
例えば、イベントまでに限定デザインのボールペンを100本、製造して納品するよう依頼したのに、イベント当日に間に合わず、販売できれば完売の見込みだった場合、ボールペンを販売できなかった利益は「履行されていれば得られたはずの利益」として損害賠償の対象になります。
(5)強制執行をされる
債務者が債務の履行を拒み続けた場合、債権者は裁判所を通した手続きにより強制執行を行うことがあります。強制執行とは、給与や預貯金、不動産などの財産を差し押さえて債権を強制的に回収する手続きです。
裁判所を通して強制執行を受けた場合、給与であれば4分の1が差し押さえの対象となります。
債務不履行により損害賠償が発生する場合は?
債務不履行による損害賠償は民法415条に定めがあり、全ての債務不履行で発生するわけではなく、下記の条件を満たすことで発生します。
(1)当事者間で契約が成立している
(2)債務の本旨に従った履行をしないこと
(3)損害の発生
(1)当事者間で契約が成立している
債務不履行で損害賠償責任が発生するためには、当事者間で何らかの契約が成立していることが必要です。契約が無い場合でも、何らかの損害が発生している場合は、不法行為に基づく損害賠償を請求できることがありますが、要件が異なります。
(2)債務の本旨に従った履行をしないこと
損害賠償請求をするためには、債務の本旨に従った履行がされなかったことが必要です。「債務の本旨に従った履行」とは、債務の本来の趣旨に従った弁済行為のことで、契約の内容や関連法令、取引慣習から決まります。
(3)損害の発生
損害賠償請求をするためには、債務の本旨に従った履行がされないだけではなく、債権者に損害が発生したことが条件になります。債務不履行があっても、損害が発生していない場合は、契約の解除などは可能ですが、賠償請求はできません。
損害発生と債務不履行との間には因果関係がなくてはなりません。それも、何らかの関係があるというだけではなく、債務不履行によって損害が発生したことが相当と言える範囲であることが必要になります。
【民法415条 債務不履行による損害賠償】
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
金銭債務の損害賠償は「遅延損害金」になる
借金の返済、売買代金の支払いなどと言った金銭債務の履行が約束通り行われなかった場合は、遅延損害金の請求が、損害賠償の請求に当たります。金銭債務の債務不履行による遅延損害金については、「履行不能にならない」「債権者は損害の発生の証明が不要」「不可抗力でも債務が無くならない」という重要なポイントがあります。
(1) 履行不能にならない
金銭債務については、履行不能にはならず、履行遅滞になると考えられています。手元にお金が無くても、労働や金策などでお金を調達してきて支払うことが可能と考えられているからです。支払いをしない限り遅延損害金は発生し続けます。
(2) 債権者は損害の発生の証明が不要
また、遅延損害金の請求にあたっては、債権者は「損害が発生したこと」を証明する必要がありません。期日を過ぎても支払いがされない事実があれば遅延損害金を請求できます。
(3) 不可抗力でも債務が無くならない
天災や病気、疾病など、やむを得ない事情で支払いができない場合でも、遅延損害金はなくなりません。
【民法419条 金銭債務の特則】
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
遅延損害金の金額
遅延損害金は、相手方との契約で決められており、契約書で確認できます。利率は年14.6%~20%が一般的です。仮に、遅延損害金の取り決めがない場合、支払期限の翌日から年3%の遅延損害金が発生することが法律上決められています。
債務不履行の損害賠償請求権は時効にかかる
2020年4月に施行された改正民法では、債務不履行の損害賠償請求権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年で消滅します。
通常は、損害が発生した時点で「行使できることを知った」とされますので、損害の発生から5年が経過した時点で消滅時効にかかります。
仮に、債務不履行の事実が存在しても、債権者が損害発生から5年以上経ってから請求してきた場合、債務者は「時効の援用」を行うことで、債務の返済を免れることができます。
時効の援用とは、「自分は時効の利益を受けます」と相手方に意思表示をすることで、内容証明郵便で債権者に送付します。
なお、民法は2020年4月に改正になっており、時効制度は大きく変わりました。改正前の民法では、消滅時効の期間は原則として10年でしたが、職業別の短期消滅時効や、商事消滅時効など、契約によってさまざまな時効期間が存在していました。
ご自身に消滅時効の適用があるかどうかは、法律家の無料相談などで事前に確認されることをお勧めします。
返済が難しい場合は債務整理を検討する
借金その他の金銭債務の支払いが苦しい場合は、借金額を軽減または帳消しにすることができる債務整理を検討されることをお勧めします。
債務整理とは、法律上認められた借金負担軽減ないし消滅の手続きで、一般的には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類の手続きが良く用いられます。
債務不履行の中でも金銭債務は、天災や病気などのやむを得ない事情によっても遅延損害金が無くなりません。しかし、弁護士が債権者と私的に交渉する「任意整理」では、借金の利息や遅延損害金をカットできる可能性があります。
「個人再生」ならば、ローン付きの住宅等の財産を手元に残しつつ、借金総額を大きく減額することができます。
「自己破産」の場合、借金がゼロになります。ただし、不動産など、一定額以上の財産は裁判所により換価処分されます。
いずれの手続きをとる場合でも、弁護士に正式に依頼すれば借金の督促をストップできますので、既に金銭債務の支払いが滞っている方は、早めに専門家に相談されることをお勧めします。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑