自己破産すると土地は処分される?処分の流れと手元に残るケース
自己破産をした場合、自分が所有する土地は裁判所によって処分される可能性が高いです。また、土地に抵当権がついている場合は、債権者が抵当権を実行するため、土地を手放すことになります。例外的に、価値の低い土地や競売にかけても売れなかった地は手元に残ることがあります。土地を共有している場合や、任意売却にかける場合の注意点についても概説します。
目次
自己破産した場合、所有する土地は失う可能性が高い
自己破産をした場合、自分が所有権を持つ土地は裁判所によって処分され換価される可能性が高いです。土地のローンが残っていた場合は、一般的には債権者が抵当権を設定しているので、抵当権の実行により土地を手放すことになるでしょう。
例外的に、山奥の土地など価値が低い土地や、競売にかけても買い手がつかなかった土地は手元に残せることがあります。
(1)土地のローンが残っている場合(土地に抵当権がついている場合)
土地を購入する際に住宅ローンなどを組んだ場合、通常は、土地に債権者の抵当権が設定されます。
抵当権とは、お金を借りた人が返済不能になった場合に、不動産を強制的に売却して、お金を回収できる権利のことです。「土地を担保に入れる」などと言いますが、この担保の種類の一つです。
通常、自己破産をすると、債権者は平等に取り扱われるため、他の債権者に先駆けて財産を差し押さえることはできません。
しかし、不動産に抵当権を設定している場合は、破産手続きの進行に関係なく直接債務者に対して権利を行使し、回収することが認められています。このような権利のことを「別除権」と言います。
【破産法第65条(別除権)】
別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
2 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。
抵当権を持っている債権者は、裁判所に担保不動産競売を申し立てることにより、土地をお金に換えて、ローンの未払い分を回収できます。
なお、土地のローンは完済していても、事業資金など別の借金のために土地に抵当権を設定している場合も同様に、債権者により抵当権が実行されます。
いずれにせよ、所有している土地に抵当権が設定されていて、その債権者からの借金が完済していない場合は、土地を手放すことになる可能性が高いのです。
なお、不動産を競売にかけるよりも、買い手を探して売った方が高く売れることが多いので、競売にかけずに売ることもあります。これを任意売却と言います。
(2)ローンを完済した土地の場合(土地に抵当権がついていない場合)
抵当権が設定されていない土地については、自己破産すると、原則として債務者の財産として破産管財人に換価され処分されてしまいます。
自己破産手続をとると、裁判所は債権者が持っている一定額以上の財産を換価して、債権者に配当します。一定額とは、東京地裁の基準では20万円を超える財産を指します。ただし、株式など、評価額が20万円未満であっても換価される財産もありますので、注意が必要です。土地は大概の場合は20万円以上の価値があるので、処分対象になります。
手続きの流れを具体的に説明すると、破産を申立てた人が財産を持っていた場合、「管財事件」という種類の手続きとなり、破産管財人が選任されます。破産管財人は、破産者の債務や財産を調査し、管理し、処分する権限を持っています。破産管財人が処分対象とする財産を「破産財団」と言います。
自己破産すると、借金が帳消しになります。これは債務者にはありがたいのですが、債権者からすれば正当に貸したお金が返ってこず、損失を被ります。この損失を少しでも埋め合わせるために、破産者に財産がある場合は処分され、債権者に配当されるのです。
財産の換価や配当を破産者本人が行うと、財産隠しや不当な処分をするリスクがありますので、破産手続きに長けた第三者である破産管財人が担当するのです。
したがって、土地のローンがない場合でも、自己破産をすると通常は破産管財人によって土地を処分されてしまうのです。
土地を複数人で所有している場合
相続で得た土地など、債務者が他の人と土地を共有している場合、債務者が持っている共有持分のみが破産手続の対象となります。
もっとも、共有持分のみでは売却が困難なケースもあります。この場合、破産管財人は共有者に対して、共有物分割請求を行うことがあります。
共有物分割請求は民法256条に定めがあり、複数人で共有している物や土地に対し、共有者はいつでも共有物の分割を求めることができるとされています。
破産管財人が共有物分割請求を行った場合、以下のいずれかの方法で土地が分割され、破産管財人の所有となった分は処分されます。
(1)現物分割
土地を分筆し、破産管財人と共有者がそれぞれ土地を取得します。
(2)換価分割
土地を売却し、その代金を破産管財人と共有者が分け合います。
(3)代償分割
破産管財人又は共有者のどちらかが土地を取得する代わりに、他方に対して土地のお金を支払います。
いずれにせよ、他の共有者に影響が出るので注意が必要です。
自己破産しても土地を残せるケース
自己破産をすると、ほとんどの場合は土地を手放さなくてはなりませんが、(1)土地の価格が低い場合、(2)債務者が土地の所有権者ではない場合、(3)破産管財人が売却できなかった場合、の3つのケースでは、その土地を所有し続けることができます。
(1)土地の価格が低い
山林や農地など、元々の土地の価値が低くて買い手がつく見込みがない場合、最初から破産管財人が裁判所の許可を得たうえで破産財団から放棄する場合があります。換価処分できないのであれば、破産財団に含めていても意味がないからです。
破産財団から放棄された土地は、債務者が従前どおり所有することができます。
また、申立ての時点で売却不可能な土地であることが明らかな場合で、土地のほかに大きな財産が無ければ、同時廃止事件になります。
同時廃止事件は、破産管財人が選任されない簡易な手続きで、裁判所費用や手続きにかかる期間が少なくなるので、債務者にとっては有利になります。
(2)債務者が土地の所有権者ではない
実際に土地を利用しているのは債務者であっても、土地の名義は他人のものであるケースです。他人からただで借りている土地である場合は、破産管財人による処分の対象にはならず、引き続き土地を利用することができる場合があります。土地の賃料の支払いをしている場合は、借地権が処分の対象になります。
(3)破産管財人が売却できなかった
土地が一定の財産的価値を有していても、買い手がつかないケースもあります。
破産管財人が様々な工夫をして売却を試み、それでも買い手がつかないときは、破産財団から放棄され、破産者はその土地を所有することが可能になります。その代わりに、破産者から任意でいくらかの金銭を財団に組み入れるよう求められることがあります。
ただし、土地に一定の価値がある場合、所有しているだけでそれなりの金額の固定資産税がかかります。自己破産しても税金の支払いは免除されないため、固定資産税の支払いに苦慮することになるかもしれません。
土地を残したい場合の債務整理の方法
借金が苦しいが土地を手元に残したいという場合、自己破産以外の債務整理を選択するのが第一の方策になります。
債務整理とは、法律的に認められた借金の減免手続きです。一般的な債務整理方法としては、自己破産のほかに任意整理と個人再生があります。
(1)任意整理
任意整理は、弁護士を通じて債権者と交渉し、利息などをカットしてもらう手続きです。債務者の財産は処分されないため、土地を守ることができます。ただし、任意整理は大幅な減額が難しく、借金の元本は原則として返済しなくてはならないため、借金問題が比較的軽いケースに限られます。
(2)個人再生
個人再生は、裁判所を通して借金総額を5分の1~10分の1ほどに大幅に減額できる手続きです。
個人再生には「住宅ローン特則」という制度があり、これを利用すれば、住宅ローン以外の借金を圧縮しつつ、マイホームに住み続けることができます。住宅ローン自体は全て返済しなければなりませんが、返済計画の見直しは可能です。住宅ローンで購入した土地建物であれば、抵当権がついていても手元に残せます。
また、抵当権のついていない土地であれば、個人再生には財産を処分する手続きがないので、手元に残せる可能性があります。ただし、この場合、土地の価格によっては借金の減額幅が少なくなることがあるので注意が必要です。
自己破産で土地が競売にかけられた後の流れ
競売の際は、本来の不動産価格の5~6割程度の価格で入札がスタートし、売却できなければさらに2~3割程値下げしてやり直します。この流れは最大3回まで繰り返されます。
(1)期間入札
土地の競売は、一般的には「期間入札」で行います。期間入札は、以下の流れで進みます。
①裁判所が1週間以上1か月以内の範囲で競売の入札期間を定めます。
②事前に競売情報が一定期間掲載されます。
③入札期間内に入札を受け付けます。
③開札日に開札され、最も高額で入札した人が落札者となり、不動産の所有権を得ます。期間入札で買い手がつかなかった場合、特別入札となります。
(2)特別入札
特別入札では、早い者勝ちで、入札価格に関係なく最も早く入札した人が落札します。仮に同時に入札した人がいた場合はくじ引きになります。入札価格は裁判所が設定した「売却基準価額」を上回っていなくてはなりません。
(3)価格の見直し
特別入札でも売れなかった場合は、裁判所が売却基準価額を2〜3割引き下げ、再び期間入札を行います。それでも買い手がつかなかった場合は、再び特別入札を行います。
(4) (1)から(3)を3回繰り返す
上記の流れを3回繰り返しても売れなかった場合は、裁判所が売れる見込みがないと判断し、競売が取り消しになります。
競売で売れない土地はどういったものか
土地を競売にかけても買い手がつかないケースの具体例を紹介します。
- 複数の共有者がおり権利関係が複雑
- 元ガソリンスタンド
- 心霊スポットなどいわくつき
- 交通の便や周辺環境が悪い
- 市街化調整区域で収益化しづらい
元ガソリンスタンドについては、ガソリンには特定有害物質が含まれるとされ、土壌汚染の懸念から売れないことがあります。
特にこうしたマイナス点がなくとも、タイミングによっては売れないこともあり得ます。
自己破産するときの不動産に関する注意点
自己破産の際は、土地を所有したまま手続きを開始するよりも、あらかじめ任意売却をしたほうが競売よりも高く売れる可能性があります。ただし、注意点もあるので、必ず事前に弁護士に任意売却について相談し、アドバイスを受けましょう。以下に任意売却のメリットとデメリットをご紹介します。
【任意売却のメリット】
(1)競売よりも高く売れる
競売では市場価格の5~6割程度の価格で売却されることが多いのですが、任意売却の場合は市場価格の8~9割程度で売れることがあります。残りの借金を返済してもお金が余った場合、生活費や自己破産費用、引っ越し代などの支払いに充てられます。
(2)同時廃止になる
土地のほかに大きな財産を持っていない場合、土地を手放してしまえば、自己破産手続の種類が管財事件ではなく同時廃止になる可能性が高まります。管財事件では最低でも20万円以上かかる裁判所費用が、同時廃止では2万円ほどとかなり安くなり、手続期間も短縮できます。
【任意売却のデメリット】
(1)抵当権者(債権者)の許可が必要
土地を任意売却するには抵当権を持っている債権者の許可が必要です。債権者が任意売却に難色を示す場合もあるので、弁護士を間に立てて交渉するのが望ましいと言えます。
(2)財産隠しを疑われる場合がある
破産手続開始前に土地を売却すると、裁判所に適切な売買であったか疑われるおそれがあります。また、売却で得たお金の残りを生活費や自己破産費用等の必要な出費以外に使った場合も問題視されることがあります。こちらも、事前に必ず弁護士に助言を受けましょう。
(3)破産手続開始決定後は破産者が任意売却できない
自己破産開始決定後は、破産管財人の判断によって任意売却されるケースもありますが、破産管財人が指定した不動産企業での売却になり、必ずしも破産者の希望する結果にならないかもしれません。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑