過払い金請求の詐欺やトラブルの事例と避けるポイント

過払い金の詐欺やトラブルについて、代表的な手口と被害に遭わない方法についてまとめました。過払い金請求は数多くの広告や勧誘が出回っていますが、一部の悪質な団体や専門家には注意が必要です。悪質な団体・専門家の特徴と、過払い金詐欺やトラブルを避ける方法、被害に遭った際の対処法、信頼できる弁護士選びの方法について概説します。

過払い金請求の詐欺とは

過払い金請求をして詐欺に遭うケースとしては、大きく分けて二つの類型があります。

(1)弁護士や司法書士以外の者に金銭をだまし取られる
(2)悪質な弁護士や司法書士に依頼し、お金を着服される

過払い金請求とは、過去に返済した借金のうち、利息制限法の上限金利を超えて支払った利息について、金融機関等に請求して返還してもらう手続きのことです。

過払い金請求の相談や手続き代行は弁護士もしくは認定司法書士しかできません。しかしながら、弁護士や司法書士ではないのに「過払い金請求ができます、お金が返ってきますよ」と持ち掛けてくるケースや、弁護士や司法書士を騙る詐欺も存在します。

そして、非常に残念ながら、資格のある弁護士や司法書士に相談したのに、着手金を着服されるケースや、事件を放置されて時効期間が成立し、過払い金が返ってこなくなるケースがあります。

こうした詐欺や、悪質な有資格者に引っかからないようにするためには、過払い金請求を依頼する際に相手をよく見定めることが大切です。

(1)弁護士か認定司法書士であることを確認する
(2)紹介業者やNPO・NGOの広告に注意
(3)しつこい宣伝・勧誘は要注意
(4)実際に専門家と面談し、説明に不信な点が無いか確認する

こうしたポイントを守ることで、詐欺に引っかかってお金や時間を失うリスクを減らすことができます。

過払い金詐欺のよくある手口

過払い金詐欺の代表的な手口を5つご紹介します。

(1)弁護士や司法書士ではない者が「過払い金を請求できます」と勧誘してくる

過払い金の法律相談や、過払い金請求代行は弁護士や認定司法書士にしかできません。しかし、「私たちは過払い金手続き代行が可能なNGOです、このケースでは過払い金が返ってきます」などと、もっともらしい肩書や理屈を並べて過払い金請求をするよう勧誘してくるケースがあります。

また、弁護士や司法書士を名乗っていても、実際は資格のない者が勧誘してきて、着手金をだまし取ろうとする場合もあります。

こうした詐欺の事例では、電話や手紙、チラシなどを使い、相手方から積極的に「過払い金請求をしましょう」と誘ってくることが特徴です。

「過払い金が返還されますのでATMで返還手続きをしてください」と言った電話や手紙、チラシは間違いなく詐欺ですので、絶対に従わないようにしましょう。

こうした詐欺に遭った場合、現実に金銭被害が出る前に手続きをストップしても、電話番号や住所、口座番号などの個人情報が犯罪組織に流出してしまうことがあります。

(2)相談だけのつもりが、勝手に過払い金請求されていた

過払い金の有無や正確な金額が知りたいと、弁護士事務所や司法書士事務所に法律相談をしたら、正式な契約をしたつもりはないのに、相談内容をもとに過払い金請求の手続きを勝手に進め、報酬を請求するケースもみられます。

過払い金請求の相手方が、現在も取引のある金融機関やクレジットカード会社の場合、過払い金請求をすることにより借入ができなくなる可能性が高いのです。したがって、過払い金請求を行う場合は、事前に公共料金等の引き落とし先を変更したり、クレジットカードの利用額をゼロにしたりしておくなどの対応が必要です。

きちんとした法律事務所等であれば、こうした点についても事前に説明がありますが、悪質な相手に頼んでしまうと、相談や説明もなく勝手に請求を進められてしまうことがあります。

(3)過払い金請求を放置され、請求権が時効消滅した

資格のある法律事務所や司法書士事務所に相談して依頼したのに、過払い金請求を放置されて時効が成立した、あるいは相手企業が倒産して請求できなくなった、というケースもみられます。

過払い金請求事件は、法律の専門家にとっては、企業同士の訴訟事件などと比較すると受け取れる報酬は多くありません。他に顧問先の企業などからの事件があって立て込んでいると、過払い金を請求する仕事が後回しになったり、放置されたりすることがあります。

中には、後回しどころか、着手金を受け取って以降、実際の請求を一切行わない悪質な弁護士や司法書士もいます。

過払い金請求権は、最後に取引があった日から10年経つと時効が成立して過払い金を取り戻せなくなります。また、放置されている間に相手方企業の経営状態が悪化して過払い金の返還を渋るようになったり、最悪の場合は倒産したりしてお金が返ってこなくなるケースもあります。

過払い金請求を専門家に依頼した後も、任せっきりにするのではなく、しばらく音沙汰がないと思ったらこちらから進行状態を問い合わせましょう。それでも動きが無い場合は、所属している弁護士会や司法書士会に苦情を出すなどの対応が必要になります。

(4)過払い金を着服された

弁護士や司法書士が、相手方企業と和解した金額、もしくは裁判で認められた金額よりも少ない金額を依頼者に報告し、差額を着服するケースがあります。

中には、過払い金請求の相手方企業からの借金は完済していたはずなのに、「よく調べたら借金が残っていました」とうそをつき、ありもしない借金の金額を過払い金から差し引いて着服する事例も存在します。

企業から過払い金を受け取っているのに、「これまで未払いだった借金と過払い金を相殺すると、返還金が発生しませんでした」などと言って、全額懐に入れてしまうケースも存在します。

「弁護士や司法書士は難しい試験をクリアした社会的地位の高い職業」というイメージがあるので、つい信用してしまいますが、ごく一部とはいえ悪質な人もいます。肩書だけで信用せず、言動に違和感がないかをチェックしてください。

(5)貸金業者と弁護士・司法書士が手を組んでいた

貸金業者と弁護士・司法書士が以前からつながっていて、過払い金の返還額を大幅に減らす代わりに、スピーディーに返還される約束になっているケースです。

貸金業者にとっては返還するお金が少なくて済み、弁護士にとっては難しい交渉もなく素早く事件を終わらせられるため、大量の案件を処理できます。

勿論、依頼者にとっては、素早い返還にはつながるものの、金額的には大幅に損をします。

過払い金詐欺のトラブルに巻き込まれないために

過払い金トラブルに遭わないためには、事前に、信頼できる専門家かどうかをチェックしてください。悪質な弁護士や司法書士にはいくつかの特徴があり、当てはまる専門家を避けることでトラブルを回避できます。

(1)弁護士か認定司法書士であることを確認する

いかに過払い金について詳しく、もっともらしい肩書や経歴をアピールされたとしても、弁護士や司法書士資格のない人物や団体が過払い金の相談や代行をすることはできません。過払い金勧誘を受けたら、弁護士や司法書士資格があるかを必ず聞いてください。

弁護士であれば、日本弁護士連合会の公式サイトで、現在弁護士登録をしているすべての弁護士の基本情報が検索可能です。氏名や性別、所属弁護士会といった情報から、事務所の住所や連絡先などを調べることができます。

司法書士であれば、日本司法書士連合会や各地の司法書士会の公式サイトで確認することができます。こうした公的な情報源より、法律事務所や司法書士事務所が実際に存在するか、活動履歴があるかなどを確認してください。

また、司法書士は、「認定司法書士」でなければ過払い金の相談を受けることはできないので、その点も確認をとってください。

(2)紹介業者やNPO・NGOの広告に注意

非営利組織であるNPOやNGOを名乗り、「過払い金に強い弁護士や司法書士などの紹介を行っている、非営利団体なので費用が安く、信頼性も高い」と言って勧誘してくる団体には注意が必要です。同様のサービスをうたう民間企業にも気を付けてください。

このような企業や団体は、広告や勧誘で過払い金請求の相談者を集め、手数料をとって弁護士・司法書士に紹介しています。結果として、手数料や仲介料が上乗せされた分、手続費用は高額になります。

犯罪組織が関与しているケースもあるので、こうしたサービスは利用しないようにしましょう。

(3)しつこい宣伝・勧誘は要注意

法律事務所や司法書士事務所も近年は多くの広告を出すようになっており、それ自体は悪いことではありませんが、一部の悪質な業者も積極的に広告・宣伝を打っています。特に、問い合わせた後に毎日のように勧誘がきたり、「いま請求しないと請求権が無くなります!」
と煽ってきたりするパターンは注意が必要です。

過払い金には時効があり、早めに動かないと請求権が消滅する可能性があることは事実です。専門家に、行動を急かすような言い方をされても、それだけをもって悪質な専門家ということはできません。

しかし、「慎重に考えたい」と申し出ても、強引に、その場での即決を促すような専門家には気を付けてください。実力のある専門家であれば、強引に勧誘しなくとも依頼が入ってきます。

(4)実際に専門家と面談し、説明に不信な点が無いか確認する

まず、法律相談を申し込んだのに、対応がスタッフや事務員ばかりで、弁護士や司法書士本人が出てこないケースは危険です。必ず一度は専門家本人に会って話をしましょう。

また、専門家本人と面談できても、趣旨がよくわからないまま書面やタブレット端末などに署名させられそうになった場合や、報酬に関する説明が不明瞭ないし疑問が残り、説明を求めてもごまかされるような場合は、その専門家には依頼をしないほうが良いでしょう。

弁護士や司法書士は法律の専門家ですから、依頼人の疑問には明瞭に答えるべき立場にあります。たとえ悪質ではなくとも、質問にクリーンな回答ができない専門家の手腕には疑問があるため、依頼しないほうが安全です。

過払い金詐欺に遭った際の対処法

過払い金返還請求詐欺に遭った場合は、まず、警察に相談してください。既に正式に依頼している場合は、代理人変更や弁護士会や司法書士会に懲戒請求をするといった方法があります。

(1)身近な人、警察署、金融機関に相談する

「過払い金を返還しますのでATMを操作してください」と言ったタイプの詐欺の場合は、すくにお金を振り込もうとせず、事実関係を確認するとともに、家族など身近な人や、近くの交番・警察署、金融機関に相談してください。

お金を振り込んでしまった場合は、ただちに警察や金融機関に連絡して、振り込んだ口座の利用停止を求めてください。

(2)弁護士や司法書士を変更する

法律相談の段階で気になることがあった場合、別の法律事務所等に相談しなおすことは全く問題ありません。また、契約を結んで正式に依頼した場合であっても、相手方企業と和解をしていなければ別の司法書士や弁護士に代理人を変更できます。

時間が経ったのに手続きが進んでいる様子がない等、気になる点があれば、代理人変更を検討してください。

(3)弁護士会や司法書士会に懲戒請求をする

正式な資格がある弁護士や司法書士が悪質な行為をした場合、当該専門家が所属している司法書士会や弁護士会に相談し、懲戒請求を行うことが可能です。

弁護士会や司法書士会の判断によって、除名や退去命令、業務停止、戒告などの処分が科せられることがあります。

信頼できる弁護士に相談しましょう

信頼できる弁護士や司法書士の特徴としては、以下が挙げられます。

(1)過払い金対応をスタッフや事務員任せにせず、一度は相談者と面談する
(2)強引に話を進めず、依頼者の了解を得て進める
(3)手続きの流れや報酬の仕組み等の説明が明確であり、質問には親切に答える
(4)過払い金請求のメリットだけではなく、リスクや注意点についても説明がある

一番安心なのは、家族などよく知っている人から弁護士や司法書士を紹介してもらうパターンです。現実の知り合いの口コミで評判が良ければ、まず詐欺に遭う可能性はありません。

とはいえ、弁護士や司法書士であっても、必ずしも過払い金請求を得意としているわけではありません。医者に消化器や耳鼻科といった得意分野があるように、弁護士や司法書士にも専門があります。企業法務が得意な弁護士に過払い金返還を依頼しても、必ずしも良い成果が出るとは限りません。

つてがない場合は、実際に専門家に会って、雰囲気や態度、説明の内容から、信頼が置ける人物かどうかを判断するのが良いでしょう。過払い金請求の実績があり、前述したポイントを踏まえてチェックすれば、信頼のおける専門家に依頼できるでしょう。

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑