過払い金と債務整理の違いについて 

過払い金と債務整理は別の手続きですが、債務整理の途中で過払い金の有無が分かることはあります。過払い金は「不当利得の返還手続き」であり、債務整理は「借金の減額や免除をしてもらう手続き」です。過払い金請求だけを行う場合、ブラックリストに載ることはありません。過払い金が発生している可能性が高い人の特徴や、過払い金返還請求をする際の流れについても概説します。

過払い金と債務整理の違いは?

過払い金は、過去に返済した借金のうち支払い過ぎた利息のことで、業者に求めれば返還されます。他方、債務整理は、現在借金が苦しい人が借金の減額もしくは免除をする手続きです。両者は別の手続きですが、債務整理の最中に過払い金を発見して業者に請求するケースはあります。

(1)過払い金の性質

①返金手続き
②過去に自分がした借金に関わる
③業者が得た不当な利得を返してもらう

(2)債務整理の性質

①借金の減額・免除の手続き
②現在、自分がしている借金に関わる
③借金の契約自体は正当だが、業者に減額や免除をしてもらう

①返金手続きと借金の減額・免除の手続き

まず、過払い金の性質は「返金手続き」である点が重要です。過払い金の返還請求は「不当利得返還請求」と言って、法律の規定よりも多い額を払い過ぎていた場合、法律違反の分を返してもらえるという権利です。

かつて、日本では「グレーゾーン金利」と言って、利息制限法の上限を超える違法な金利であっても、出資法の範囲内であれば、利息を受け取れる運用になっていました。このグレーゾーン金利で過去にお金を借り、返済していた消費者は、利息制限法の上限よりも多く支払った分を業者に要求して返してもらえるようになりました。

これに対し、債務整理は、現在背負っている借金が苦しい場合に、業者との交渉や法律上の手続きにより、「借金を減額ないしは免除」してもらう手続きです。この場合、業者の側に落ち度はなく、消費者の都合で借金の返済を減らす(もしくは帳消しにする)ことになります。

②過去か現在か

過払い金は過去に契約した借金の一部のみが対象となりますが、債務整理の対象は現在存在する借金の一部または全部が対象です。

グレーゾーン金利は2010年6月には法律の改正によって解消され、これ以降に新規にお金を借りた場合は、過払い金は発生していません。よって、過払い金を請求できる可能性があるのは2010年6月以前に契約した借金になります。

また、過払い金は最後に借金を返済した日から10年で時効にかかるので、既に返済請求が不可能になっているケースもあります。

これに対し、債務整理の対象は、現在返済している借金や、クレジットカードの支払いなどの債務になります。

③契約内容の正当性

過払い金は、利息制限法違反の金利を受け取っていた企業に対してのみ請求でき、法律上は「不当利得返還請求」と言います。つまり、過払い金を返してもらうことは、消費者の正当な権利なのです。

これに対し、債務整理は、借金の契約(金銭消費貸借契約)は有効に成立しており、お金を貸した業者に法律上の落ち度はないものの、お金を借りた人の事情で減額や免除をしてもらいます。業者側に負担や犠牲を強いるため、特に個人再生や自己破産においては、「債権者平等の原則」と言った業者側に配慮したルールが設定されています。

債務整理をすると過払い金の有無が分かる

過払い金請求と債務整理は別の手続きですが、債務整理を弁護士に依頼すると、過払い金の有無と金額が分かります。なぜなら、債務整理をする際は、現在の借金及び、過払い金が発生している可能性がある過去の借金の正確な金額を割り出す作業をするからです。

債務整理を弁護士に依頼して、過払い金があることが分かった場合は、過払い金請求を弁護士が行います。その金額が多ければ、現在の借金返済分に補填でき、債務整理による借金減額をせずに済むかもしれません。

また、過払い金の額が借金の一部を相殺する程度であっても、現在の借金負担を軽減できますので、心当たりのある人は調査をされたほうが良いでしょう。

もちろん、現在特に借金に困っていない人でも、弁護士に依頼して、もしくはご自分で過払い金の調査を行うことは可能です。

過払い金返還請求でブラックリストに登録される?

過払い金請求をしても原則としてブラックリストには登録されません。しかし、債務整理の一環として行い、過払い金額が借金の一部を相殺する程度だった場合は、ブラックリスト入りします。

現在借金をしていない人が過払い金を請求しても、不利益を被ることはありませんのでご安心ください。

【信用情報機関とブラックリスト入り】

信用情報機関とは、個人のお金の貸し借りを記録する機関で、日本に3社あります。日本の銀行等や消費者金融、クレジットカード会社等は必ずいずれかの信用情報機関に加盟しています。

新たな借金の申し込みやクレジットカードの作成などの際には、各企業は信用情報機関の記録を参照して審査を行います。この信用情報機関の記録に返済の遅延などの事故情報が載ってしまうことを「ブラックリスト入り」と言います。

一般的によく利用される債務整理である「任意整理」「個人再生」「自己破産」は、いずれもブラックリスト入りします。ただし、信用情報機関の記録は一定期間(5~7年)経つと削除されるため、この期間の経過を待てば再び借金やクレジットカードの作成・利用が可能になります。

【過払い金請求はブラックリスト入りしない】

過払い金は、お金を貸す側の企業が利息制限法に違反していたために発生したお金で、これを返してもらうことは消費者の正当な権利です。そのため、信用情報機関に不利な記録として残らないようになっています。

以前は過払い金請求を行うと「契約見直し」という記録が登録されることがありましたが、2010年4月に廃止されました。

ただし、過払い金請求をした直接の相手方である企業の顧客情報には残るので、当該企業相手に新たな借金をすることや、カードを利用し続けることは難しいと考えてください。それ以外の企業に関しては全く影響はありません。

【債務整理の一環として過払い金を清算した場合】

①過払い金が借金より多いケース

例えば、A社に80万円の借金があり、調査の結果A社に100万円の過払い金があることが判明したケースです。

この場合、A社に対して現在負っている80万円の負債を差し引いて、20万円を返すよう請求することが可能です。

この場合、過払い金請求によりブラックリスト入りすることはありません。

②借金が過払い金より多いケース

例えば、A社に80万円の借金があり、調査の結果A社に50万円の過払い金があることが判明したケースです。

この場合、A社に対して現在負っている80万円の借金と50万円の過払い金を相殺して、借金残高を30万円にするよう求めることが可能です。

この場合、借金の負担軽減は可能ですが、任意整理をしたことになり、ブラックリスト入りします。

借金が苦しくて任意整理をしたい場合は問題ないのですが、現在特に借金の支払いに困っていない場合は、ブラックリスト入りにより信用情報に傷がつくことになるので、過払い金請求は弁護士と相談の上慎重に行ってください。

過払い金が発生している可能性が高い人の特徴

過払い金が発生している可能性が高い人としては、2010年6月以前に消費者金融やクレジットカード会社のキャッシング枠を利用したことがある人で、グレーゾーン金利でお金を借りており、最後に返済した日から10年経過していない人です。

(1)2010年6月以前に借金をしている

かつて、日本では借金の金利の上限を「利息制限法」と「出資法」の二つの法律が規制しており、それぞれ別の利率が設定されていました。この上限利率が統一されたのが2010年6月で、過払い金が発生しているのはそれ以前の契約に限られます。

もっとも、2006年にグレーゾーン金利に関する裁判例が出て以降、各消費者金融やクレジットカード会社は上限金利の引き下げを行っており、2006年~2007年ごろまでには適法な利率になっているケースがほとんどです。

とはいえ、2008年以降であっても、従前の金利による契約のまま取引がされたケースも考えられます。2010年6月までに借金をしていた場合は、過去に支払っていた金利が適正であったか一度調査されると良いでしょう。

(2)消費者金融やクレジットカード会社のキャッシング枠を利用したことがある

グレーゾーン金利でお金を貸していたのは、主に消費者金融と、クレジットカード会社のキャッシング枠になります。

銀行や信用金庫からの借金や銀行カードローン、住宅ローン、奨学金などは、昔から適法な金利でお金を貸していたので、過払い金は発生していません。

また、クレジットカードも、ショッピング枠のみ利用していたのであれば、過払い金は発生していません。ショッピング枠の利用は法律上「立て替え払い」という扱いになり、借金ではないので、過払い金の対象にならないのです。

クレジットカードについては、キャッシング枠を利用したことがある人のみが対象になります。

(3)グレーゾーン金利でお金を借りていた

グレーゾーン金利とは、利息制限法の上限を超えており、出資法の範囲内である金利です。具体的には以下のようになっています。

【利息制限法の上限金利】

元本が10万円未満…年20%
元本が10万円以上100万円未満…年18%
元本が100万円以上…年15%

【出資法】

元本にかかわらず、年29.2%

例えば、50万円を借りていたのに年利が25%であった場合、グレーゾーン金利でお金を借りています。この場合、現実に返済した金額から、元本と、適法に受けとれる18%の利息分を差し引いた残りを過払い金として返還請求できます。

注意が必要なのは、全ての消費者金融やクレジットカード会社がグレーゾーン金利でお金を貸していたわけではないことです。例えばオリックスやモビット、ダイレクトワンなどの業者は適法な金利でお金を貸しつけていました。

大手の業者であれば、グレーゾーン金利でお金を貸していたかどうかはネット検索で分かるでしょう。中小の業者に関しては、弁護士に調査を依頼したほうが確実です。

(4)最後に返済した日から10年経過していない

過払い金の時効は最後に取引をした日から10年とされています。2010年6月以前の借金であっても、既に完済から10年以上経過し、その後特に取引もない場合、時効により過払い金は請求できないと考えられます。

ただし、その業者とその後も継続的な取引があった場合、時効期間を過ぎていても過払い金が請求できるケースがあります。心当たりがある人は弁護士に相談してください。

過払い金返還請求をする際の流れ

過払い金請求を考えている場合は、まず弁護士に調査を依頼されることをお勧めします。過払い金請求は自分でも行うことができますが、弁護士に依頼することには様々なメリットがあります。以下に具体的に紹介します。

(1)弁護士に調査を依頼

弁護士に依頼すれば、過払い金の有無や額を調査してくれます。借りた金融機関の名前や借りた額、契約した時期などが正確にわからなくても、調査は可能です。また、相手企業が倒産していて過払い金が請求できないケースなども教えてくれます。

(2)弁護士が業者に受任通知を発し、取引履歴を取り寄せる

弁護士に正式に依頼をすると、弁護士は相手企業に受任通知を発するとともに、過去の取引履歴の開示を請求します。この受任通知を出した後は、以後、弁護士が窓口となり、依頼者が業者と直接やりとりすることはなくなります。

弁護士に依頼しなくても、本人が問い合わせて取引履歴を取り寄せることは可能ですが、一般的に、弁護士を通じるよりも時間がかかるとされています。特に時効が迫っている場合は、弁護士に依頼して取り寄せてもらうことをお勧めします。

(3)取引履歴から過払い金の額を調査

業者から取引履歴が届いたら、弁護士が法定利率に従って引き直し計算を行い、正確な過払い金の金額を確定します。過払い金の算出は、長期の取引があった場合などは法律知識も必要になるので、自分で行うより弁護士に頼んだ方が確実です。

(4)返還請求

引き直し計算で確定した過払い金を業者に請求します。過払い金の請求方法は、任意での交渉と訴訟とがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、弁護士と相談して適切な方法を選択します。その後は、依頼者は特にやることなく、弁護士から状況報告を受けながら結果を待つことになります。

 

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑