過払い金が戻るまでの期間はどれくらい?
過払い金を請求してからお金が返ってくるまでの期間はどれくらいか概説します。過払い金が戻るまでの期間は4~6ヶ月が目安ですが、裁判になるとさらに3~6ヵ月以上かかる可能性があります。過払い金の返還が遅れるケースと対処方法、過払い金の返還率や和解と訴訟の違い、過払い金返還請求の時効と時効をストップする方法など、過払い金請求と期間に関してまとめました。素早く過払い金を取り戻したい方必見です。
目次
過払い金が戻るまでの期間は4~6ヶ月が目安
過払い金を請求してから実際に返金されるまでの時間は和解の場合は4~6か月程度、裁判になった場合はさらに3~6ヵ月以上かかることがあります。
過払い金返還手続きの方法は大きく分けて「和解」と「訴訟」があります。
(1)和解
相手方の金融機関や貸金業者、クレジットカード会社と私的に交渉して返還を求めます。過払い金満額の返還は難しいのですが、比較的スピーディーに過払い金が返ってきます。
(2)訴訟
過払い金を満額返してほしい場合や、和解交渉が決裂した場合に訴訟を行います。過払い金返還まで時間がかかることが特徴です。
もっとも、現実に過払い金が戻ってくるまでにかかる時間は、相手方の金融機関等の態度や、過去に返済した借金の状況によっても異なります。スンナリ返還に応じる企業もあれば、経営状態の悪化などを理由に還すのを渋り、できるだけ値切ってこようとする企業もあります。
過払い金を請求する相手が大手企業であれば、実際の返還までどのくらいかかるのか、目安の期間が分かります。弁護士に尋ねてみてください。
過払い金返還手続きの流れと期間
過払い金の返還手続きは以下のように進んでいきます。
(1)取引履歴を取り寄せる
弁護士は依頼者と正式に契約を結ぶと、「受任通知」を相手方企業に送信します。この通知には過去の取引履歴を開示するよう記載があります。
取引履歴とは、相手企業との間で、いつ、何円お金を借り入れて、どのように返済したかというデータが記載されている記録です。相手方企業は請求を受けたら開示しなくてはならない義務を負っています。
取引履歴が手元に届くまでの期間は、相手方企業にもよりますが、1~2ヶ月程度です。
(2)利息制限法引き直し計算を行う
取引履歴が届いたら、弁護士が利息制限法引き直し計算を行います。これは、過払い金がいくらあるのかを正確に計算する作業です。
具体的には、実際にグレーゾーン金利(最高29.2%)で返済した金額と、利息制限法の上限金利(15~20%)で返済した場合との差額を算出します。
過払い金の計算を間違えてしまうと、相手方企業から過払い金の返還を拒まれたり、過払い金の額が少なくなったりすることがあるため、慎重に行います。
引き直し計算は、1~2週間程かかります。
(3)金融機関等との和解交渉
正確な過払い金の金額が判明したら、相手方の金融機関等に過払い金返還請求書と引き直し計算書を送付し、返還交渉を行います。これを和解交渉と呼びます。
相手方企業と合意が成立すれば、合意書が取り交わされます。合意書に双方が署名するまでに2~3ヶ月というのが一般的な期間です。
(4)(和解できなかった場合)訴訟
和解条件の折り合いがつかず交渉決裂した場合や、満額の過払い金返還にこだわる場合は、「過払い金返還請求訴訟」を提起します。
訴訟への対応も、やはり相手企業によって異なり、訴訟上の和解に応じる企業もあれば、最後まで徹底的に争う企業もあります。訴訟になると、さらに3~6ヵ月以上かかることもあります。
(4)過払い金の振り込み
弁護士等に過払い金請求を依頼した場合は、相手方企業は弁護士等の口座に過払い金を振り込みます。弁護士等はその金額から成功報酬を差し引き、依頼者の銀行口座に振り込みます。
過払い金の返還が遅れるケースと対応方法
過払い金返還に時間がかかってしまうのは、主に以下のケースが考えられます。
(1)弁護士を介さず自分で行う
過払い金返還請求は自分で行うことが可能ですが、以下のような場面で、専門家に依頼するのに比べて時間がかかります。
・取引履歴の開示
まず、取引履歴の開示に時間がかかることがあります。過払い金の返還請求権は時効で消滅するので、特に時効間近の過払い金がある場合、企業側が取引履歴の開示を遅らせることで時効成立を狙えるからです。これに対し、専門家に依頼した場合は、本人が請求した場合よりも早めに開示されるのが一般的です。
・利息制限法引き直し計算
利息制限法引き直し計算は複雑な計算が必要です。過払い金の額を計算できるツールも出回っていますが、正確な金額が出るとは限りません。不正確な額を請求すると損をしたり、相手方企業が支払いを拒んだりするケースもあるため、正確な金額の算出には時間がかかります。
・金融機関等との交渉
相手方企業等との交渉も、自分で行うと、法律知識のない相手であることから強気に出てこられ、和解条件の折り合いがつかなかったりして、時間がかかることがあります。
こうした時間をなくし、スピーディーに過払い金返還を受けるためには、弁護士や司法書士に依頼するのが一番の方法です。もっとも、専門家にも得意分野があり、過払い金請求に不慣れな専門家に依頼すると時間がかかってしまいます。過払い金請求に実績のある弁護士等に依頼することが大切です。
(2)開示請求で必要な情報が得られなかった
金融機関等から取引履歴を開示されたものの、正確な過払い金の額が算出できないケースがあります。これは、取引履歴の保存期間が会社によって異なるため、過払い金返還の対象となる期間の取引情報が保存期間を過ぎて消えてしまっていることが原因です。
この場合、相手方企業に問い合わせができるように、手元に残っている契約書やATMの伝票などを可能な限り集める必要があります。
取引履歴が消えていても、当時返済に利用していた銀行口座の預金通帳を保管している場合は、そこから返済状況が割り出せることがあります。また、返済の引き落としを行っていた金融機関に問い合わせることで割り出せる可能性があります。
このように、取引履歴がなくとも過払い金を請求できる可能性はありますが、更なる調査が必要なため、時間がかかります。また、依頼者側にも古い書類を探し出す手間がかかることは覚悟しなければなりません。
(3)相手方企業の経営状態が悪い
経営が安定している企業の場合は、スムーズに和解が成立するケースが多いのですが、経営状態が悪い場合は、なるべく和解を先延ばしにして時間をかけ、お金を払うタイミングを遅らせようとすることがあります。
こうしたケースでも、依頼した弁護士が過払い金返還請求の経験が豊富で、ノウハウを持っていると、比較的早い時期にお金を返してもらえることがあります。
(4)訴訟を行う
過払い金の和解交渉がうまくいかない場合や、過払い金全額の返還にこだわる場合は、訴訟を起こして相手方に請求します。また、相手方企業によっては訴訟をしないと過払い金返還に応じないケースもあります。
和解の場合は、通常は相手方企業が値下げ交渉をしてきて、過払い金の全額返還はされません。他方、訴訟は時間がかかりますが、勝訴すれば、過払い金全額に加え利息まで請求することが可能です。
過払い金はどれくらい返してもらえるのか?
過払い金を弁護士を通じて和解交渉で取り返す場合、概ね8割程度の金額が戻ってきます。もっとも、満額に近い返還がされる企業から、4割程度しか戻ってこない企業まで様々ですので、詳しくは過払い金請求を依頼された弁護士にお尋ねください。ある程度有名な企業であれば、過払い金が返ってくる割合の目安もわかります。
過払い金請求を自分で行う場合は、弁護士に依頼するよりも返還率が低くなる可能性が高いです。
訴訟を行った場合、過払い金全額に加え利息まで請求できますが、和解に比べて弁護士に支払う手続費用が高くなる点は注意が必要です。もっとも、過払い金の額が高額であればあるほど、弁護士費用を差し引いても訴訟をするメリットが大きくなりますので、弁護士とよく相談されることをお勧めします。
過払い金返還請求はいつまでできる?
過払い金返還請求権は、最後に取引があった日から10年で時効にかかります。そのため、過去にした借金に過払い金がある可能性があれば、早めに専門家に相談して請求を行ったほうが良いでしょう。
過払い金返還請求権は、民法に定める「不当利得返還請求権」にあたります。
【民法703条 不当利得の返還義務】
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
金融機関等が、利息制限法の上限を超える金利でお金を貸し付け、返済を受けていた場合は、上限を超えた部分につき「法律上の原因なく」利益を受けていたことになります。従って、請求を受ければ不当利得として返還する義務を負います。
不当利得返還請求権は、最後に取引があった日から10年で時効消滅します。10年を過ぎてから請求をしても、消滅時効の要件を満たしているので、相手方企業は「時効の援用」を行ってきます。これは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張することで、時効を援用されると不当利得返還請求権を行使できなくなります。
【完済から10年経っていても過払い金が取り戻せるケース】
同じ企業と長期にわたって返済と借り入れを繰り返している場合は、以前の完済から10年以上経っていても過払い金を請求できるケースがあります。この場合は、繰り返される取引全体を「一連の取引」と捉えて、最後に取引した日から時効が進行すると考えられています。
しかしながら、「一連の取引」は法律的な判断が絡む難しい問題で、相手方企業も積極的に争ってくるため、訴訟に発展するケースが多いことが特徴です。そのため、必ず事前に過払い金請求に強い弁護士に依頼して、十分に検討したうえで過払い金請求を行いましよう。
時効をストップするには
すでに完成した時効はどうすることもできませんが、完成間近の時効については、以下の方法で一時的にストップ、ないし完全にリセットすることができます。
(1)相手方に「過払い金返還請求書」を送る
(2)裁判上の請求を行う
(1)相手方に「過払い金返還請求書」を送る
時効完成寸前の場合、相手方企業に「過払い金返還請求書」を送って催告することで、時効の進行を6ヵ月間ストップすることができます。
具体的には、郵便局のサービスである「内容証明郵便」を利用し、証拠が残るようにして過払い金の正確な額と返還を求める趣旨の文章を相手方に送付します。
(2)裁判上の請求を行う
裁判所に過払い金返還請求を申立て、認められると時効の進行は止まります。そして判決が出るとその時点で時効がリセットされ、新たな時効期間が進行を始めます。
裁判で時効をリセットするためには、主に次の方法があります。
・支払督促の申立て
裁判所を通じて、相手方企業に過払い金を支払うよう求める「支払督促」を出してもらい、過払い金の返還を求めます。ただし、受け取った相手方が2週間以内に異議を申し立てた場合は、通常訴訟に移行します。
・民事訴訟の提起
訴訟によって過払い金の返還を求めます。一般的に「裁判」と呼ばれる手続きで、請求額60万円以下の「少額訴訟」と「通常訴訟」があります。
過払い金をスムーズに返還してもらうためには弁護士に相談する
過払い金を素早く取り返したい場合は、過払い金請求の実績がある弁護士に相談し依頼するのが最善の方法です。
自分で請求する場合、取引履歴の取り寄せから引き直し計算、過払い金返還請求書の送付から相手方との交渉まで全て一人で行わなくてはなりません。不慣れな人の場合、多くの時間と手間、精神的な労力がかかります。また、相手方企業も素人相手だと思うと余計に時間をかけてくることがあります。
また、取引履歴が一部しか開示されなかった場合や、訴訟になった時のことも考えると、過払い金請求に関し実績がある弁護士に依頼することが安全・安心です。特に、過払い金の金額が多いほど、弁護士に相談するメリットが大きくなります。
過払い金には時効がありますので、心当たりがある場合は一度、早めに法律相談を受けられることをお勧めします。過払い金に関しては多くの法律事務所が無料の法律相談に応じています。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑