自己破産の予納金について 支払えないときの対処法
自己破産の予納金について概説します。予納金とは自己破産手続のため裁判所に納める費用のことで、手続きの種類によって金額は異なります。同時廃止の場合は2万円程度、管財事件の場合は20~50万円以上と大きな開きがあります。自己破産の予納金の相場や、支払う時期、予納金が支払えない場合の対処方法、生活保護受給中の場合の予納金についてまとめました。
目次
自己破産の予納金とは?
自己破産の予納金とは、自己破産の際に裁判所に納める費用のことで、自己破産手続の種類によって金額が異なります。2種類の手続きのうち、「同時廃止」であれば2万円程度、「管財事件」であれば20万円~50万円と大きな差があります。
自己破産する際は経済的に困っているので、裁判費用もできるだけ安く済ませたいですよね。ご自身のケースの場合、2種類の自己破産手続のうちどちらになるかは、大まかな目安があります。(※東京地方裁判所の場合)
(1)20万円以上する財産を持っておらず、債権債務関係もシンプルな場合→【同時廃止】
(2)20万円以上する財産があったり、個人事業主だったり、ギャンブルや浪費が原因の借金など、裁判所が詳しく調査する必要がある場合→【管財事件】
同時廃止と管財事件の振り分け基準は、各裁判所によっても異なりますので、詳しくは弁護士にお尋ねください。
②の管財事件になった場合は、「破産管財人」という破産の専門家が裁判所によって選ばれ、財産の管理や処分、債権者への配当、調査などを行います。この破産管財人に報酬を支払う必要があるので、予納金が高額になるのです。
しかし、「そんなお金は出せない」と心配しなくても大丈夫です。管財事件となる見込みで、予納金が用意できない場合でも、裁判所に分割払いを相談したり、法律事務所や法テラスの制度を活用したりすることで、お金が無くとも自己破産をすることができます。
予納金の種類
予納金には、①手続手数料、②官報手数料、③郵便切手代、④引継ぎ予納金の4種類があります。このうち、①~③は同時廃止でも管財事件でも支払うのですが、④については管財事件となった場合のみ支払うことになっています。
以下は東京地裁に申し立てる際の予納金について説明します。金額は裁判所によっても異なるので、東京地裁以外に申し立てる場合は、おおよその目安として参考にしてください。
①手続手数料
個人自己破産及び免責申立ての手続き費用は1,500円となっています。収入印紙1,500円分を購入し、申立書に貼り付けて納付します。
②官報広告費
自己破産手続をすると、官報という国が発行する機関誌に住所や氏名が掲載されます。債権者に自己破産したことを告知する目的で行われ、掲載を拒むことはできません。
この官報に掲載する費用が官報広告費で、東京地裁の場合、同時廃止は11,859円、管財事件は18,543円となっています。支払い方法としては、裁判所の窓口で現金払いする方法のほか、銀行振込も可能です。
③郵便切手代
手続きの際に裁判所とのやり取りで用いる郵便切手代についても申し立てる側が負担します。予納郵券は、4,950円となっています。(※令和6年9月24日時点。郵便料金の引き上げに伴い増額されました)
④引継ぎ予納金
管財事件のみに発生する費用で、破産管財人への報酬や、財産の処分にかかる費用に使われます。東京地裁の場合、最低でも20万円以上となっています。
(※参考::裁判所「破産事件の手続費用一覧(https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/2024/min20/R0608/c_hasanq4_hasantetudukihiyouitiran_ver2.pdf)」)
自己破産の予納金の相場
自己破産の際裁判所に支払う予納金のおよその額を紹介します。以下は東京地裁の予納金を想定しています。実際にかかる金額は、依頼された弁護士にご相談ください。
【(1)同時廃止の場合】
【(2)管財事件の場合】
管財事件の場合、手続きの種類はさらに「少額管財」と「通常管財」に分けられます。どちらの手続きに割り振られるかは、「事前に弁護士に依頼しているかどうか」がポイントになります。
事前に弁護士に依頼している場合は、専門家の指導やチェックが入る形で手続きの準備が行われているので、破産管財人の仕事が少なくて済むため、原則として「少額管財」となります。少額管財の場合の引継ぎ予納金は20万円~となっています。
なお、少額管財の場合、他に弁護士に頼んでいるので、予納金とは別に弁護士費用が30~80万円程かかります。
【(2-1)少額管財の場合】
事前に弁護士を依頼していない場合や、大企業の破産など特に事案が複雑なケースでは、「通常管財」になります。通常管財の場合の引継ぎ予納金は50万円~ともっとも高額です。
以下は、負債総額が5,000万円未満の通常管財の予納金相場です。
【(2-2)通常管財の場合(※負債総額5,000万円未満)】
なお、通常管財の場合のみ、負債額に応じて引継ぎ予納金の額が高くなります。詳しくは以下の表を参考にしてください。
【(2-2)通常管財の場合 引継ぎ予納金の金額一覧】
個人の自己破産の場合、事前に弁護士に依頼していれば、多くのケースでは少額管財になります。しかし、事案の内容によっては裁判所の判断で通常管財に割り振られる場合がありますので注意してください。
予納金支払いはいつ行うのか
予納金の支払時期は、通常、自己破産の申立てを行ってから2週間程経った頃に、裁判所から予納金が決定したので支払うようにと連絡があります。支払い方法は、裁判所の窓口で現金で支払うか、銀行振り込みかのどちらかによります。
予納金は原則として一括払いをします。しかし、例外的に3~5回程度の分割払いが認められることがあります。
明確な支払い期限が設定されるわけではないのですが、予納金を支払わない限り破産手続き開始決定がなされません。そのため、早めに支払ったほうが破産手続を早く終わらせることができます。
申立て後、予納金を支払うよう連絡を受けたにもかかわらず、予納金を支払わない場合は、「予納命令」という命令が出されることがあります。この命令には支払い期限が明記されており、期限内に支払いが無ければ申立てが却下されます。
予納金が支払えない場合の対処方法
予納金が高額で支払えない場合でも、いくつか支払う方法がありますので、ご自身に合った支払い方法を弁護士と相談の上選ばれることをお勧めします。
基本的に、自己破産はお金に困っている人のための制度ですので、手元に現金が無くても予納金を支払うことは可能です。お一人で悩まずに、法律事務所等の無料相談を利用しましょう。
(1)弁護士に依頼して予納金を弁護士費用とともに積み立てる
自己破産を弁護士に依頼すると、各債権者に「受任通知」という書面が発せられます。受任通知には債権者が依頼人に直接連絡や取り立てをすることを禁止する効果があるので、一時的に借金の返済から解放され、手続きの準備に専念することができます。
弁護士費用が支払えない場合、この期間に借金返済に充てていたお金を積みたて、そのお金を弁護士費用にあてるのが一般的です。積み立ては自分で行う場合のほかに、法律事務所によっては積立制度を用意しているところがあります。弁護士費用とともに予納金も積立ておけば滞りなく手続きができるでしょう。
ただし、積み立てに時間がかかってしまい、破産手続が長期にわたって開始されない場合、債権者が訴訟などを起こしてくる可能性があります。この辺りは、準備期間が長くなり過ぎないように弁護士と計画を練る必要があります。
(2)法テラスの制度を利用する
法テラスは正式名称を日本司法支援センターと言い、国が設立した法的トラブル解決の総合案内所です。法テラスは経済的に余裕がない人向けに、無料の法律相談や、弁護士・司法書士等の費用の立て替えをする「民事法律扶助制度」を設けています。
ただし、法テラスの費用立て替えは弁護士費用のみであり、予納金は対象外です(※生活保護の人を除く)。とはいえ、弁護士費用を立て替えてもらえるならば、予納金の準備に集中でき、自己破産手続を行いやすくなるでしょう。
民事法律扶助には審査があり、以下の条件に全て当てはまる人だけが、立て替え制度を利用できます。
① 申込者および配偶者の手取り月収の合計が以下の表を満たしていること。
「政府広報オンライン(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202010/1.html#secondSection)」より引用
※( )内の金額は、東京や大阪といった生活保護一級地に住んでいる場合の金額です。上記の表より収入があっても、申込者が家賃や住宅ローンを負担している場合など、やむを得ない事情がある場合は、基準を満たす可能性があります。その他、詳しい基準は公式サイトをご確認ください。
「法テラス:弁護士・司法書士費用等の立替制度のご利用の流れ(https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/goriyou.html)」
②申込者および配偶者の財産の合計額が以下の表を満たしていること。
「政府広報オンライン(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202010/1.html#secondSection)」より引用
※財産とは、現金、預貯金、有価証券、不動産などの合計額のことを指します。
③勝訴の見込みがないとは言えないこと
自己破産の場合は、免責許可決定の見込みがあることが条件となります。
④民事法律扶助の趣旨に適すること
報復感情や宣伝、権利乱用の目的で手続きをする場合は援助が受けられません。
審査に通り、民事法律扶助が受けられることになると、月5,000円~1万円の分割払いで弁護士費用を用意することが可能です。
(3)裁判所に申し出て分割払いを認めてもらう
管財事件となった場合、高額な予納金については、裁判所に申し出れば、分割払いにしてもらえる可能性があります。東京地裁では4回、大阪地裁では6回程度の分割払いが認められることがあります。
ただし、申し出れば必ず分割払いにしてもらえるわけではないので、希望する人は事前に弁護士に相談してから行いましょう。
(4) 仮支弁制度を利用する
自己破産に関しては、裁判所が認めた場合は国が仮に予納金を支払ってくれるという制度があります(破産法23条1項)。
【破産法23条1項 費用の仮支弁】
裁判所は、申立人の資力、破産財団となるべき財産の状況その他の事情を考慮して、申立人及び利害関係人の利益の保護のため特に必要と認めるときは、破産手続の費用を仮に国庫から支弁することができる。職権で破産手続開始の決定をした場合も、同様とする。
ただし、この制度を利用するためには、公益的な価値が認められるかどうか重要な基準となります。簡単には利用できない制度のため、この制度を利用したい場合も、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。
生活保護受給中の場合の予納金について
生活保護受給者の場合、予納金についても法テラスが立て替える制度があります。また、生活保護を受給している間は、予納金や弁護士費用の分割払いについて、支払いを猶予してくれます。生活保護を受けながらの自己破産を検討している場合、これらの制度を積極的に利用すると良いでしょう。
生活保護費として受け取ったお金を借金の返済に回すことは認められないため、生活保護を受けている間は督促を受けても返済ができなくなります。一方、自己破産をしても生活保護の受給に影響はなく、むしろ法テラスの制度を有効に活用できるため、生活保護受給中の自己破産には多くのメリットがあります。
生活保護を受けている人や、これから受ける予定である人は、法テラスを利用した自己破産の検討をお勧めします。
自己破産の予納金が無い場合は法律事務所の無料相談を利用しよう
自己破産で、特に管財事件になる見込みの場合、必要な費用を支払えなくて困る方も多いでしょう。そのような時こそ、債務整理の経験が豊富な法律事務所の無料相談を利用してください。
管財事件の場合、事前に弁護士に依頼しておくと、少額管財に振り分けられて比較的予納金の少ない手続きになる可能性が高くなります。弁護士費用とあわせて考えても、全体的に手続きのコストを抑えられる可能性があります。
また、弁護士に依頼すれば借金の督促がとまり、今まで借金の返済に充てていたお金を手続き費用に回すことが可能になります。それでも費用の調達が難しい場合は、裁判所の分割払いや法テラスの利用といった方法もあります。
債務整理が得意な法律事務所の場合、費用の捻出についてもアドバイスを受けられますので、一人で抱え込まずに相談されることをお勧めします。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑