自己破産したら、その後の生活はどうなる?
自己破産後に実際に起こる生活への影響と、影響がないことについてまとめました。自己破産をしても家財道具はそのまま持てますし、家族にも基本的に影響はありません。自己破産をすると、主に信用情報と、高価な財産について影響や制限が発生します。自己破産は借金苦から解放され生活を再建するための制度ですので、基本的な生活は維持でき、結婚や選挙権にも影響はありません。
自己破産後に起こる生活への影響

自己破産は借金苦に陥った人の生活を立て直すための制度ですので、自己破産後もちゃんと生活していかれるように配慮がなされています。自己破産をきっかけに生活や収入を見直し、堅実で幸せな人生を手に入れた人は大勢います。
「自己破産したら人生は終わり」と言った誤解がありますが、実際は生活に必要な物など多くの財産は手元に残り、同居していない家族や友人に知られる可能性もほとんどありません。
自己破産で主に影響があるのは以下の要素です。
・借金の返済から解放される
・持ち家や高価な財産は手放すことになる
・自己破産後5~7年程度、新たな借金やクレジットカードの利用ができない
・自己破産手続中、一定の職業に就くことができない
・借金の保証人に請求が行く
以下、一つずつ確認していきましょう。
(1)借金の返済から解放される
金融機関や貸金業者からのローンや借金、クレジットカードのキャッシングなどは、自己破産で「免責」を受けることで全て返済義務がなくなります。
具体的には、弁護士に正式に自己破産を依頼すると、弁護士が各債権者に通知を発するので、それ以降は借金を返済しなくても直接の連絡や督促を受けなくなります。借金を滞納して督促に悩まされている場合、まずは弁護士に相談しましょう。
ただし、以下の点には注意が必要です。
①税金や社会保険料、子の養育費、罰金等は免除されない
②自己破産手続時に財産隠しをしたり、裁判所に嘘をついたりすると、最悪の場合免責が許可されず、借金がそのまま残る
(2) 持ち家や高価な財産は手放すことになる
東京地裁の場合、20万円以上の価値がある財産は処分され、換価されます。そのお金は債権者に配当されます。不動産は多くの場合、20万円以上の価値があるので、処分されると考えてください。とはいえ、処分対象となった家に張り紙が張られたりすることはないので安心してください。
生活用品は処分されません。また、ゲーム機や趣味の道具などについても、ほとんどは「中古品」として20万円未満の価値になります。車も、一般的な車なら数年以上乗り回していれば価値が下がるため、手元に置いておけるでしょう。
家も、借家に住んでいる場合は、家賃を滞納しない限り影響はありません。
(3) 自己破産後5~7年程度、新たな借金やクレジットカードの利用ができない
自己破産をすると、信用情報に傷がつくため、5~7年程度は新たな借金やクレジットカードの利用ができなくなります。
信用情報とは、借金やクレジットカードの利用など、個人の経済的な信用をもとにしたお金のやりとりの情報で、「信用情報機関」という企業に記録が保管されます。信用情報機関は日本に3つあり、金融機関や貸金業者等は、3つの機関いずれかに登録しています。
自己破産をすると、この信用情報機関に5~7年記録が残り、その期間は新たな借り入れやクレジットカードの利用が難しくなります。(ブラックリスト入り)
記録の保管期間が過ぎれば、自己破産の履歴は削除され、再び借金などが可能になります。
(4)自己破産手続中、一定の職業に就くことができない
生命保険の募集人や警備員、弁護士、税理士、社会保険労務士などの士業と言った一部の職業は、自己破産手続中は法律により仕事をすることができなくなります。もっとも、手続きが無事に進んで免責が許可されれば、また仕事をすることが可能です。
これらの職業に就いている場合、自己破産手続中は配置転換を希望して別の仕事をするか、それが難しい場合は個人再生や任意整理と言った別の解決方法を検討する必要があります。
ご自身の職業が制限対象かどうか、ネット検索で調べてもハッキリしない場合や、仕事への影響が不安な場合は、無料相談を利用して弁護士に問い合わせされると良いでしょう。
(5) 借金の保証人に請求が行く
借金に保証人がいた場合、自己破産をすると保証人に借金残額の一括請求が来ます。保証人に迷惑が掛かることは避けられませんので、事前に自己破産することを必ず伝えてください。保証人の状況によっては債務整理を検討することも勧めてください。
自己破産で影響がない要素
「自己破産をすると影響があるのでは…」と心配されていることのうち、以下については、影響を心配しなくて大丈夫です。
・友人や知人、別居の家族に自己破産したことを知られる
・会社をクビになる、就職や転職が難しくなる
・結婚や選挙権が制限される、マイナンバーカードに載る
・公的年金や社会保険、生活保護が受けられなくなる
以下、具体的に見ていきましょう。
(1)友人や知人、別居の家族には自己破産したことは知られない
基本的に、会社や勤め先、近所の人や友人などに自己破産したことが知られることはありません。自己破産をするとその事実が記載されるのは、主に以下の3つです。
・「官報」…国の機関誌である官報に住所氏名が掲載されます。これは、債権者に自己破産の事実を知らせる目的で掲載され、ペナルティで実名を公表する意図ではありません。官報は読み物として一般人が楽しむような内容ではなく、官報から噂が広まってしまうおそれは非常に低いです。また、官報の記載内容はネットで簡単には検索できないよう配慮されています。
・「信用情報機関の記録」…日本には信用情報の記録を保管する機関が3つあります。いずれも情報は非公開で、厳格に管理され、加盟企業であっても借金の審査など必要な場合以外に閲覧することは許されません。
・「地方自治体の破産者名簿」…地方自治体には、非公開の「破産者名簿」があります。これには自己破産手続に失敗し「免責不許可」になってしまった人だけが掲載されます。破産者名簿は「破産者ではない」という証明書を発行するために用いられ、本人や限られた人以外が請求することはできません。
いずれも、一般の人が軽々しく読めるような書面やデータではありません。したがって、自ら明かさない限り、別居の家族や友人・知人に自己破産がバレることは考えにくいのです。
しかし、以下の場合は例外的に、自己破産が知られることがあります。
①同居の家族…自己破産の際は多くの手続きがあり、また持ち家に住んでいた場合は引っ越さなくてはならないので、同居の家族に知られずに行うのは難しいでしょう。
②官報・信用情報機関の記録・地方自治体の破産者名簿を閲覧する仕事の人…金融機関や不動産業、一部の役所勤務の人などが当てはまります。もっとも、個人情報保護に関するルールがあることから、これらの職業の人が大っぴらに周囲に言いふらすことは考えにくいでしょう。
③勤め先に借金をしていた場合…勤め先に借金をしていると、自己破産の手続きに勤め先も債権者として参加することになるため、裁判所から通知が行きます。
(2) 会社をクビになることや、就職や転職が難しくなることはない
そもそも、会社や勤め先に自己破産を知られること自体まれなケースですが、自己破産を理由に会社をクビになることはありません。自己破産を理由に会社をクビになった場合、不当解雇に当たることがありますので、弁護士に相談してください。
また、自己破産は就職や転職の際に企業に申告する必要もなく、基本的に影響はありません。
ただし、警備員や生命保険の外交員など、自己破産で制限がかかる仕事の場合、自己破産手続きが終わるまでは就職・転職は見合わせたほうが良いでしょう。
(3)結婚や選挙権が制限されたり、マイナンバーカードに載ったりしない
自己破産によって結婚や養子縁組と言った身分行為に影響はありません。また、選挙権がなくなることもありません。憲法で基本的人権とされている権利は行使できます。
自己破産の事実が戸籍や住民票、マイナンバーカードに載ることも全くありません。今まで通りの生活を送ることができます。
(4)公的年金や社会保険、生活保護は受けられる
公的年金の受け取りや社会保険の利用に影響はありません。ただし、個人的に企業と契約した私的年金については、財産の一種として裁判所の処分対象になります。
生活保護は自己破産の前・手続中・後にかかわらず、審査に通れば受給することができます。生活保護を受けていると、「法テラス」の民事法律扶助の仕組みを利用して、自己破産費用の立て替えや免除の制度が利用可能です。
自己破産後の生活はどう変化するのか
自己破産をしても基本的にそのまま生活していくことができます。ただし、以下の点に影響が出るので気を付けてください。
・持ち家は引っ越さなくてはならない
・一部の賃貸住宅を借りられないことがある
・カーローンやカーリース中の車は引き上げられる
・買い物の支払い方法が一部制限される
・他人の保証人になれない
(1)持ち家は引っ越さなくてはならない
自分名義の家に住んでいた場合、その家は裁判所によって処分されるため、手放さなくてはなりません。家の価値が低く、山奥の僻地などで、買い手がつきそうにない場合は手放さなくて済みますが、基本的に引っ越しをするつもりで自己破産の準備を進めましょう。
自分名義ではなく、配偶者や家族の名義の家である場合は住み続けることができます。
(2) 賃貸住宅を借りられないことがある
賃貸住宅に引っ越す場合、信販系の家賃保証会社との契約が必要な物件には住めない可能性があります。信販系の会社は、信用情報機関の記録を閲覧できるので、審査に落ちる可能性があるからです。
信販系ではない家賃保証会社や、UR都市機構の賃貸住宅であれば、問題なく借りることができます。
(3)カーローンやカーリース中の車は引き上げられる
カーローンの返済中だった場合、「所有権留保特約」がついている車はローン会社によって引き上げられてしまいます。契約書の内容を今一度確認されることをお勧めします。また、カーリースの場合もリース会社に引き上げられます。
カーローンが終わっている場合、中古車としての価値が20万円以下なら手元に残すことができます。
カーシェアリングやサブスクの場合、支払い方法が現金もしくはデビットカード払いが可能であれば影響はありません。
(4) 買い物の支払い方法が一部制限される
自己破産後、ブラックリスト期間中は、買い物の際、クレジットカードの利用や分割払いができません。
ただし、現金一括払いであればショッピングに影響はありません。また、クレジットカードの代わりにデビットカードを利用することで、ネットショッピングやサブスクも利用可能です。
※デビットカードとは
銀行口座に紐づけされたカードで、利用すると即座に口座からお金が引き落とされます。銀行口座に入っている金額しか使えないので、クレジットカードのように信用情報に関する審査はありません。ネット通販などでクレジットカードと同様に使うことができます。
(5) 他人の保証人になれない
家族や親族、友人などから借金の保証人になるよう頼まれても、ブラックリスト期間中は審査に落ちてしまいます。
ただし、奨学金の保証人など、信用情報機関の記録を参照しない保証人にはなれる可能性があります。
自己破産後の生活で家族へはどういう影響があるのか
基本的に、自己破産をしても家族には影響はありません。自己破産によって財産を処分されたり、ブラックリスト入りしたりするのは破産した本人だけで、配偶者や親、子などの家族には及びません。家族が借金をしたり、子供が進学したりする場合も影響はありません。
ただし、以下の場合は影響が出てきます。
・破産した人の名義の家に家族と住んでいた場合
・家族が借金の保証人になっている場合
・家族と住宅を共有している場合
・主婦や学生の子がクレジットカードを作る場合
以下、順に見ていきましょう。
(1)破産した人の名義の家に家族と住んでいた場合
前述した通り、自己所有の財産は裁判所による処分の対象ですので、家族とともに今の家から引っ越さなくてはなりません。
(2)家族が借金の保証人になっている場合
例えば、配偶者が保証人の場合は配偶者に一括請求が来ます。配偶者が支払えない場合は、共に債務整理をする必要があります。
(3)家族と住宅を共有している場合
破産した人が家族と自宅を共有している場合、破産管財人が破産者に代わって共有持分の管理と売却を担当します。とはいっても、共有持分だけを売ることは簡単ではないので、次のようにして処分を行います。
・破産管財人が他の家族に共有持分を買い取るよう持ちかける
・共有者全員で不動産を売却して売却利益を持分割合に従って分配する
(4)主婦や学生の子がクレジットカードを作る場合
主婦や学生がクレジットカードを作る際には、自分で稼ぐことができない分、世帯主の信用情報が審査されることがあります。そのため、場合によってはクレジットカードが作れない可能性があります。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑


