自己破産後に過払い金回収は可能か
自己破産後あるいは手続き中に過払い金があることが分かった場合に、過払い金の回収が可能かについてまとめました。原則として、自己破産後に発覚した過払い金は回収可能ですが、条件や注意点があります。自己破産手続の準備中に過払い金が発覚すると、それを破産手続費用に充てることが可能です。また、金額によっては破産をせずに済む可能性があります。事前に専門家に依頼して調査してもらいましょう。
目次
過払い金がある場合の自己破産
自己破産の際に過払い金の存在が発覚した場合、「自己破産後」か「自己破産手続中」かによって、取り扱いが異なります。
自己破産した後に過払い金があることが発覚した場合、過払い金請求ができる可能性があります。
自己破産の準備中に過払い金が発覚した場合、過払い金を回収し、弁護士費用に充てたり、管財人が回収した場合は、債権者への配当等の原資に充てられることとなります。
過払い金の有無は、自己破産の際に弁護士に依頼することによって調査してくれます。過去にした借金が以下に当てはまる場合は、過払い金が発生している可能性があります。
【過払い金発生の条件】
①2010年6月以前に借金をしたことがある
②消費者金融かクレジットカード会社のからの借金である
③(利率が分かる場合)以下の利率より高く借りている
・借金の元金が10万円未満…20%
・元金が10万円以上100万円未満…18%
・元金100万円以上…15%
④最後に返済した日から10年経過していない
自己破産により免責決定後の過払い金の発覚
裁判所にて自己破産手続を行い、無事に免責許可が下りた後に、過払い金があったと判明した場合、返還請求が認められる可能性があります。
破産手続においては、現在残っている借金については、裁判所が申立人に過払い金の調査をするよう命じたり、管財事件として過払い金の有無を調査したりします。こうして、手続き中に過払い金があることが分かった場合、裁判所によって選任された破産管財人が過払い金を取り戻して債権者に分配します。
しかし、過去に完済した借金については、裁判所の調査対象外となるので、自己破産手続後に過払い金の存在が発覚することがあります。手続き後に発覚した借金でも、時効になっていなければ、取り返せる可能性があります。
※管財事件と同時廃止
自己破産には「(1)財事件」と「(2)同時廃止」の2種類の手続きがあり、裁判所が事件の性質によってどちらかに振り分けます。
(1)管財事件
主に処分すべき財産がある人や、裁判所が破産手続にあたって詳しく調査が必要だと判断した事件に適用される手続きです。破産管財人という、破産手続のプロである弁護士が裁判所によって選任され、以後破産管財人が財産の調査や管理、処分、債権者への説明や配当などを行います。
(2)同時廃止
一定額以上の価値の財産が無く、事件の内容も単純なケースでは、同時廃止という破産管財人が選任されない手続きになります。管財事件よりも簡易でスピーディな手続きとなります。
※一定額以上の価値のある財産とは、東京地方裁判所の場合は20万円を超える財産のことです。裁判所によっても運用が異なります。
破産を申立てた人にとって①と②の最も大きな違いは、②になると裁判所費用が安くなる点です。①管財事件の費用は最低でも20万円以上かかりますが、②同時廃止の場合は2万円程度で済みます。
破産後の過払い金を取り返せる可能性
自己破産後に発覚した過払い金については、原則として取り戻せる可能性が高いといえます。ただし、例外的に、自己破産手続をしている途中で過払い金の存在に気が付いていたのに、黙って手続きを完了した場合においては、過払い金の返還請求が、権利乱用や信義則違反として認められない可能性があります。
近年では、自己破産申立て時に過払い金の調査を行うよう裁判所から指導を受け、調査することになるため、過払い金の存在を見過ごすことは少なくなっています。
しかしながら、相手方業者が取引履歴の開示に非協力的であったり、手続きが同時廃止になるなどした場合、過払い金の存在が見過ごされたり、回収されなかったりする場合があります。
また、過払い金が話題になったのは2003年以降のことで、それ以前に自己破産をした場合は、過払い金の調査が十分に行われないまま免責許可が出されることがありました。
こうした事情により、自己破産手続当時に過払い金の有無が調査されていないケースでは、過払い金を取り戻すことができるとされています。
特に、過去に同時廃止によって自己破産をした人の場合、過払い金が調査されていない可能性がありますので、一度専門家に調査を依頼すると良いでしょう。
自己破産後の過払い金返還請求の条件
自己破産後に過払い金を取り戻すためには、以下の条件に当てはまる必要があります。
①過払い金債権が発生していること
②自己破産手続中に、過払い金の有無が調べられていないこと
③過払い金請求権の時効が成立していないこと(最後に返済した日から10年経っていないこと)
以上の条件に当てはまる場合は、裁判所も過払い金請求を認めるとされています。
ただし、自己破産後の過払い金返還請求に関する注意点として、「相手方業者が和解に応じにくい」ということがあります。
破産をした場合、過払い金は、本来は相手方業者にも分配されるべきお金だったと考えられます。そのため、返還請求をしても拒まれるケースが多いようです。
また、相手方業者によっては「過払い金の存在を知っていたのに、故意に隠して破産手続を行ったのではないか、信義則違反である」と積極的に争ってくるケースもあります。
そのため、和解で決着せず、裁判になる可能性があることに注意が必要です。
自己破産後の過払い金請求に関しては、事前に弁護士に相談し、あらかじめ裁判になることを想定して請求したほうがよいでしょう。
破産手続き中の過払い金の請求
自己破産手続の準備中に、過払い金の存在が判明した場合は、自己破産の申立て前に過払い金を回収して破産申立ての手続き費用や、税金の支払いと言った必要不可欠な出費の支払いに充てることが可能です。それ以外の支払いに充てることは原則認められません。
裁判所に申立て後、自己破産手続きの途中で過払い金の存在が判明した場合、財産として破産管財人によって回収され、債権者に分配されてしまいます。つまり、破産者のもとには1円も戻ってきません。
それだけではなく、まとまった額の過払い金があると、管財事件となり、裁判所費用が高額になるおそれがあります。
申立て前の準備段階で過払い金を回収しておけば、そのお金を手続き費用に回せます。また、過払い金の額が高額であれは、それを借金の返済に充て、自己破産をせずに済む可能性もあります。
自己破産は社会的影響の大きい手続きです。過払い金調査によって自己破産を回避したり、手続き費用の負担を軽減したりできる可能性がありますので、必ず準備段階で調査を行うことをお勧めします。
過払い金を回収して破産手続き費用にあてられるのか?
自己破産申立て前に回収した過払い金を弁護士費用等の破産手続費用に充てることは、一般的には問題ないとされています。
破産手続費用や、それに伴う弁護士の費用は、破産をするために必要な費用であって、ある意味では債権者全員にとっても必要な費用だと考えられているからです。こうした費用を「有用の資」と呼んでいます。
法テラスで民事法律扶助を受けている場合に、償還金を過払い金から支出することも認められます。
また、回収した過払い金を税金や、学資、医療費、葬儀費用、生活に必要不可欠な費用などに充てることも可能です。ただし、過払い金をどのように有効利用するかについては、破産法上のルールも絡んできますので、専門家に相談しながら活用したほうが良いでしょう。
※偏頗(へんぱ)弁済にはあたらない
自己破産には、「偏頗(へんぱ)弁済の禁止」というルールがあります。これは、「他の債権者に先駆けて特定の債権者にだけ返済をしてはならない」という意味です。
例えば、「消費者金融からの借金は支払えないが、恩人からした借金は優先して支払いたい」と、特定の人にだけ弁済することが偏頗弁済に当たります。
自己破産手続の前に偏頗弁済をすると、悪質な場合は免責許可が下りず、借金がそのまま残るおそれがあるため、重要な禁止事項です。
しかし、自己破産手続費用などの有用の資に関しては、偏頗弁済に当たらないため、問題なく過払い金を支払いに充てることが可能です。
過払い金の有無を自分で調査したいとき
過払い金の有無は、自分で心当たりのある業者に問い合わせて取引履歴を開示してもらうことで調査することができます。ただし、正確な過払い金額を算出したい場合は専門家に調査を依頼されることをお勧めします。
金融機関等には、本人から取引履歴の開示を請求された場合には、応じなければならない法律上の義務があります。ホームページ等に記載されている問い合わせ先に連絡して、取引履歴が欲しいというだけで、ほとんどの業者は問題なく請求に応じるはずです。
業者から取引履歴が送られてきたら、インターネットで出回っている無料の過払い金計算ソフトに、指示に従って数字を打ち込めば、過払い金の有無が分かります。
もっとも、無料ソフトでは、過払い金の正確な金額を算出できるとは限らないことに注意が必要です。過払い金の金額が正確でないと、それを理由に業者が過払い金請求を拒むことがあります。それに、計算間違いで現実に請求可能な金額より低い額を請求してしまったら、差額が大きいほど損をしてしまいます。
そのため、「過払い金があるようだ」と分かったら、その時点で過払い金請求を得意とする法律事務所に依頼して正確な金額を出してもらったほうが良いでしょう。
自己破産以外の借金解決法
過払い金が多い場合、借金の返済に充てることで、自己破産以外の債務整理で借金問題を解決できる可能性があります。債務整理とは法律的に借金問題を軽減ないしは消滅させる手続きのことで、自己破産以外に一般的にとられるのは「任意整理」と「個人再生」です。
(1)任意整理
弁護士が私的に債権者と交渉して、借金の利息カットやリスケジュールなどを交渉します。裁判所を通さない手続きなので、面倒な書類作成が無く、また債権者を選べるというメリットがあります。恩人や勤め先からの借金は整理対象から外すことで、債務整理の影響を最小限に抑えることができます。その代わり、借金の大幅な減額は難しく、元金は原則として返済しなくてはなりません。
(2)個人再生
裁判所で手続きして、借金総額を5分の1程度(最大で10分の1程度)に大幅に減額します。借金の元金も含めて大幅にカットでき、自己破産のように財産を処分する手続きもありません。また、「住宅ローン特則」という、住宅ローン返済中のマイホームを手元に残すことができる制度があります。デメリットとしては、手続きが複雑で、完了するまで1年以上かかることがある点があります。
任意整理、個人再生はどちらも、手続き後に減額された借金を3~5年程度の分割払いで支払っていかなくてはなりません。そのため、将来にわたって継続した収入が必要です。病気で就労できないなど、理由があって収入がない場合は、過払い金が回収できても自己破産するしかないケースがあります。
自己破産を専門家に相談するメリットまとめ
(1)本当に自己破産が最適な手続きか診断してくれる
「自己破産するしかない」と思っていても、過払い金の額や経済状態、仕事の内容などを総合的に判断すると、任意整理や個人再生のほうが適していることがあります。専門家に相談すれば、ご自身の状況に合った手続き方法を診断します。
(2)過払い金の有無と正確な金額が分かる
「いつ、どこの金融機関から、何万円借りたかもろくに覚えていない」という場合でも、信用情報機関に取引履歴開示を求めることで過払い金がわかることがあります。また、過払い金請求を得意とする法律事務所であれば、金額を間違えることもありません。
(3)督促や取り立てが来なくなる
自己破産や債務整理を正式に弁護士等に依頼すると、以降、金融機関等は、直接債務者に連絡できなくなります。借金を滞納している場合は、督促や取り立てがストップするので、心に余裕をもって借金問題に対応できるようになります。
(4)管財事件の場合、裁判所費用を抑えられる可能性がある
自己破産手続きには「管財事件」「同時廃止」の二種類の手続きがありますが、厳密にいうと「管財事件」は、さらに「少額管財」と「通常管財」に区分されます。
少額管財の裁判所費用は20万円程度ですが、通常管財は50万円以上と、費用が高額になります。
管財事件になる見込みの場合、事前に弁護士をつけておくと、少額管財に振り分けられて、比較的判所費用の少ない手続きになる可能性が高まります。通常管財になる場合と比較して、弁護士費用を考慮しても、かえって全体として費用が安くなる可能性があります。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑