過払い金全額に金利をつけて取り戻す方法

過払い金に関する金利についてまとめました。過払い金は利息制限法を超える利率で借金を返済していた場合に発生しますが、利息制限法の上限利率は借入額により異なります。また、過払い金全額に年5%利息をつけて取り戻す方法についても解説します。前提となる過払い金が発生する条件や、過払い金の計算方法、過払い金返還請求をする際の注意点についてもポイントを概説します。

過払い金が発生する金利は何%?

過払い金は、利息制限法に定めた上限金利である15%~20%を超える利率で支払っていると発生します。具体的には、借り入れた金額により上限が異なります。

  • 借入額が10万円未満…20%
  • 借入額が10万円以上100万円未満…18%
  • 借入額が100万円以上…15%

借入時の契約書が残っている場合、利息の利率を確認して20%を超えていたら過払い金が発生しています。

例えば、100万円を25%の利率で借り、完済していたとします。

利息制限法の上限は15%なので、10%分の利息が過払い利息として請求できることになります。

これに加えて、過払い金の返還請求時にはさらに年5%の利息がついて返還されるケースがあります。ただし、利息分まで請求するためには条件があります。

過払い金が返還される場合の利息

過払い金を請求する際、年5%の利息を付けて返金してもらうためには、過払い金請求の訴訟を起こして勝利する必要があります。以下に、過払い金請求において利息がつく仕組みについて詳しく解説します。

(1)過払い金請求権は「不当利得返還請求権」である

そもそも、過払い金請求権とは、民法703条に定める不当利得返還請求権に当たります。不当利得とは、法律上受け取る権利がないにもかかわらず、他人の財産や労務で得た利益のことで、不当利得を得た人はこれを返還しなくてはなりません。

【703条 不当利得の返還義務】
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

例えば、家電量販店で電子レンジを購入したところ、おつりを1,000円多く受け取っており、家に帰ってから気が付いたというケースでは、余計に受け取った1,000円が不当利得となりますから、お店に返還しなくてはなりません。

利息制限法の制限を超えた利息分は、法律上の原因のない利益であり、不当利得ですから、貸金業者等はこれを返還する義務を負います。

また、過去に利息を余計に支払った人は、その不当利得を「返して」ということができる権利があります。これが「過払い金返還請求権」です。

(2)貸金業者等は「悪意の受益者」にあたる

不当利得に関し、民法704条には、「悪意の受益者」については、利息をつけて返還しなければならないという定めがあります。

【民法704条 悪意の受益者の返還義務等】
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

この「悪意」とは、法律上の原因がないと知っていながら利益を得ることです。先程の電子レンジ購入のおつりの件については、客はおつりを1,000円多く受け取ったことを当初は気が付いておらず、悪意はありませんから、その不当利得に利息は発生しません。

過払い金請求において「悪意」とは、利息制限法の上限を超えていることを知りながらお金を貸していたことを意味します。

通常、消費者金融などはお金を貸すプロですから、自分が要求している利息は、利息制限法の制限を超えたグレーゾーン金利であることを知ったうえでお金を貸しています。そのため、相手方企業を「悪意の受益者」と証明することは難しくはありません。

(3)利率は年5%か6%か

貸金業者が悪意の受益者だとして、年何%の利息で返還を請求できるのでしょうか?
この点につき、かつては民事法定利率の5%か、商事法定利率の6%かで争いがありましたが、平成19年2月13日に最高裁判所の判決が出て、現在は5%で統一されています。

【平成19年2月13日最高裁判所判決より引用】(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=34124)
悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。なぜなら,商法514条の適用又は類推適用されるべき債権は,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,上記過払金についての不当利得返還請求権は,高利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権であって,営利性を考慮すべき債権ではないので,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解することはできないからである。

(4)過払い金利息が付く時期

過払い金の利息がいつの時点から発生するのかについては、お金を借りた人有利の「過払い金が発生した時点から」という説と、貸金業者有利の「最後に取引があった日から」という説で対立がありましたが、こちらも最高裁判決で、過払い金が発生した時点から利息が付くことになりました。

【平成21年9月4日最高裁判所判決より引用】(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37953)
貸主が悪意の受益者であるときは,貸主は,民法704条前段の規定に基づき,過払金発生の時から同条前段所定の利息を支払わなければならない(大審院昭和2年(オ)第195号同年12月26日判決・法律新聞2806号15頁参照)。

(5)相手方からの和解交渉

過払い金を請求する際には、相手方企業から和解交渉があることが通常です。和解交渉は、早い時は取引履歴の開示請求の時点から始まります。

和解に応じる場合、通常は過払い金全額より少ない金額で妥結することがほとんどで、和解交渉で業者から提案される過払い金の額は全額の5~7割程度が一般的です。弁護士を通じずに自分で過払い金請求を行った場合、もっと少ない金額を提示される可能性が高くなります。

2006年~2010年の判例や法改正を受けて、業者は数多くの過払い金請求を受けており、和解において自己に有利な条件で話を進めることにも長けています。法的な知識や和解交渉の経験がないと、一方的に話を進められて和解させられてしまうおそれがあります。また、一度和解すると、その後再度その業者と交渉して残りの過払い金を取り返すことはできません。

過払い金全額に加え、5%の利息まで完全回収を目指す場合、訴訟を提起することになります。

(6)過払い金返還訴訟を提起する

過払い金返還訴訟を提起して、勝訴判決を得れば、過払い金全額に加え年5%の利息まで回収可能です。ただし、訴訟には時間と手間がかかるほか、弁護士費用が必要なことも考慮しなくてはなりません。

訴訟のメリットとしては、特別な事情がない限り過払い金返還請求をする側が勝訴する確率が高いため、業者が満額に近い条件での和解に応じやすくなることがあります。

業者としては、負ける可能性が高いのに、時間と手間をかけて裁判で争うのは割に合わないという思いが働きます。和解に応じるか、あくまで満額プラス利息5%を求めて最後まで戦うかは状況によりますが、訴訟をしないよりは返還額を高額にすることができます。

訴訟のデメリットとしては、時間と手間がかかることです。過払い金の支払いまでに半年から1年以上かかることもあり、また弁護士に支払う報酬金も、和解による解決よりも高額になることは注意しなくてはなりません。

過払い金が発生する条件

過払い金が発生する条件をまとめました。

(1)グレーゾーン金利で借りたお金を返済したこと

2010年6月18日の法改正までは、「グレーゾーン金利」といって、20%以上29.2%以下の金利でお金を貸しつけることが広く行われていました。グレーゾーン金利でお金を借りていた可能性があるのは、主に消費者金融からの借金か、クレジットカード会社のキャッシング枠を利用していたケースです。

借金の利息の上限金利を定めた法律は二つあり、利息制限法は先述の通り15%~20%だったのですが、もう一つの出資法は一律で29.2%となっており、「利息制限法上は違法だが、出資法の制限内」というグレーゾーン金利が存在していたのです。

しかし、2010年6月の法改正で、グレーゾーン金利は撤廃され、全ての合法的な金融機関や貸金業者は利息制限法の範囲内でお金を貸すようになりました。

(2)2010年6月17日までに借りた借金であること

上記のように、2010年6月18日に法律が改正されたので、それ以降は過払い金は発生していません。また、2010年6月17日以前に借りた借金でも、2007年ごろから各消費者金融やカード会社が金利を利息制限法の範囲に引き下げているので、過払い金が発生していない可能性があります。正確には、取引履歴を取り寄せて調査する必要があります。

(3)過払い金請求権が時効にかかっていないこと

過払い金請求権は、原則として完済した日から10年で時効にかかります。過払い金があっても、今から10年以上前に払い終えている場合、請求は難しくなります。

ただし、完済後にまた同じ企業から借金をしている場合は、時効にかからないケースもありますので、弁護士に相談してください。

また、2020年4月以降に完済した場合は、完済した日から10年の時効期間に加え、過払い金があると知った時から5年で消滅時効にかかることがあります。これは、2020年4月に民法の改正があったためで、心当たりがある場合は早めに過払い金の調査をされることをお勧めします。

現在、まだ借金を返済中の場合は、時効の問題は発生しません。

(4)相手方の企業が存在していること

相手方企業がすでに倒産している場合は、過払い金を取り戻すことはできません。大手消費者金融では、「武富士」の倒産が有名です。他にも、中小の消費者金融が多数倒産しています。

ただし、倒産直後であれば、債権の届け出を行うことで、わずかながらお金を取り返せるケースがあります。また、他社に吸収合併されていた場合は、その他社に請求できる可能性が残されています。

過払い金の計算方法

過払い金の計算方法として、自分で計算する方法と、弁護士や司法書士などの専門家に依頼する方法があります。

(1) 自分で計算する方法

相手方企業のホームページから、取引履歴を開示するように請求し、履歴を受け取ったらそこから無料の過払い利息計算ソフトを利用して計算する方法です。

貸金業者の取引履歴は、顧客に開示請求された場合は、応じる義務があります。そのため、取引履歴を手に入れて自分で計算すること自体は難しくはありません。

しかし、過払い金時効が近い場合は、業者が取引履歴の開示を遅らせることがあります。

また、出回っている無料計算ソフトに打ち込むだけでは、正確な過払い金の金額が出ないケースもあります。返済と借り入れを繰り返していた場合など、複雑なケースにも対応することはできません。

過払い金の金額が不正確だと、それを理由に業者に返還を拒否されることがありますので、正確な過払い金額が知りたい場合は弁護士や司法書士に相談しましょう。

(2) 弁護士や司法書士に依頼する方法

弁護士や司法書士に依頼するメリットは、正確な過払い金額が計算できることです。特に、過払い金全額と年5%の利息の返還を求めて訴訟を起こしたい場合は、専門家に依頼することをお勧めします。

専門家に依頼するデメリットは、よけいに費用がかかることです。過払い金の金額が10万円以下など少額のケースでは、割が悪く感じられることでしょう。

過払い金返還請求時の注意点

過払い金返還請求の際、業者との和解に応じるか、訴訟をするかによって注意点が異なってきます。

【回収にかかる期間】

取引履歴の取り寄せや計算などの準備に1~2ヶ月はかかります。その後、和解の場合は早ければ2~3ヶ月、一般的には4~6か月ほどで過払い金が振り込まれます。
他方、訴訟をする場合は、実際の振り込みまで6ヵ月~1年以上かかる場合があります。

【回収できる金額】

和解の場合は過払い金全額ではなく、業者にもよりますが8割程度の回収率が一般的です。
訴訟の場合は、過払い金全額と5%の利息が回収可能です。

【弁護士・司法書士の費用】

和解の場合、弁護士や司法書士に支払う報酬は過払い金の20%程度ですが、訴訟の場合、過払い金の25%程度と、費用が高くなるのが一般的です。

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑