自己破産後に訴えられることはあるのか
自己破産準備中に債権者に訴えられる可能性はありますが、自己破産した後に訴えられることは原則としてありません。ただし、非免責債権については、滞納していれば自己破産手続に関係なく訴えられることがあります。また、自己破産手続中に詐欺破産罪に当たる行為をすると逮捕されることがあります。債権者に訴えられない理由と、例外的に訴えられるのはどんな場合か、対処法についてまとめました。
目次
自己破産した後に訴えられることはあるのか?

自己破産をした後に、借金を免除されたことを理由に金融機関などの債権者から訴えられることはありません。また、自己破産手続開始決定後であれば、新たに訴訟を起こされたり、強制執行手続を取られたりすることもありません。ただし、自己破産の準備期間中に債権者が訴訟を提起する可能性はあるので要注意です。
自己破産手続は、借金が返済不能となった人の生活再建のために、国が認めた制度です。債権者にとっては正当に貸したお金が返ってこなくなり、理不尽に感じることもあるでしょう。しかし、裁判所が正当な手続きにより免責を許可した以上は、債権者はこれを不服として訴訟を起こすことはできないルールになっています。
ただし、非免責債権と言って、自己破産をしても免責対象にならない債権の場合、支払いを滞納すれば自己破産とは関係なく訴訟を起こされたり、差押えをされたりするおそれはあります。非免責債権の代表例としては、税金や子供の養育費、一部の損害賠償請求権などがあります。
銀行や消費者金融、カード会社等から借りた通常の借金の場合、裁判所が「破産手続開始決定」を出した後ならば、訴訟を心配しなくて大丈夫です。
自己破産準備中に訴えられることはあるのか?
自己破産手続の準備中に債権者から訴えられることはあります。返済を長期間にわたって滞納している場合や、督促を無視している場合は、注意が必要です。
弁護士に正式に自己破産を依頼して、受任通知が各債権者に届くと、以後、債権者は債務者に直接連絡を取ったり、取り立てたりすることが禁止されます。貸金業者については貸金業法21条1項9号、債権回収業者(サービサー)については債権管理回収業に関する特別措置法第18条8項に規定があります。それ以外の業種の債権者でも、通常は直接の連絡や取り立てが止まります。
しかし、受任通知の送付後に、債権者が債務者に訴訟を提起することや、差し押さえなどの強制執行をすることは禁止されていません。
いったん自己破産手続が開始すれば、債権者に対する訴訟手続は中断します。また、新たな訴訟の提起や強制執行の手続きはできなくなります。
そのため、できるだけ早めに弁護士に相談し、準備を整えて裁判所に申し立てることが最善の方法です。
自己破産が理由で逮捕、刑事告訴される可能性はあるのか?
自己破産で借金を免責されたことを理由に、逮捕されたり、刑事告訴されたりすることはありません。ただし、自己破産手続の直前や手続き中に、破産詐欺罪に当てはまる行為をした場合は、逮捕される可能性があります。
財産隠しをしたり、タダで誰かに財産を譲ったり、不動産や車の名義変更をするといった行為は、破産詐欺罪に当たることがあります。
これらの行為が裁判所に発覚した場合は、まず、免責不許可事由と言って、借金が免責されない可能性が高くなります。免責不許可事由とは、借金をゼロにする制度である免責が不許可となる事情のことで、免責不許可になると借金がそのまま残ってしまいます。
さらに、破産詐欺罪が適用された場合、1カ月以上の懲役または1,000万円以下の罰金、あるいはその両方が科される場合があります。
ただでさえ借金で困っているのに、深刻な事態になるので、自己破産の際はルールを守って誠実な手続きを心がけましょう。
自己破産手続き中に訴えられた場合はどうしたら良いのか?
債権者に、「現在自己破産の準備中だ」と伝えると、訴えを取り下げてくれる可能性があります。まもなく裁判所に申立てがされ、破産手続開始決定が出るとなると、せっかく費用を払って訴訟をしても無駄になる可能性が高いからです。
ただし、債務者に財産がある場合は、他の債権者に先駆けて財産を指し押さえ、回収をしたいと考える債権者もいます。
どのような状況で、どんな債権者ならば訴訟を起こしやすいかは、経験豊富な弁護士ならばある程度予想がつきますので、早めに弁護士に相談して助言を受けることをお勧めします。
自己破産手続き中にしてはいけないこと
自己破産の際は、破産詐欺罪に該当する財産隠し等以外にも、以下の行為をしないよう注意しなくてはなりません。
(1)偏頗(へんぱ)弁済
偏頗弁済とは、特定の債権者にだけ優先して借金を支払うことで、免責不許可事由に当たります。「保証人のいる債務や、お世話になった人からの借金は、自己破産前に全部支払ってしまいたい」という気持ちは分かりますが、債権者は平等に扱わなければならないというルールがあり、裁判所から問題視されます。
(2)裁判所や破産管財人に非協力的な態度をとる
例えば、財産調査のための質問に答えない、書類の提出に応じない、面談に足を運ばないなど、自己破産手続に非協力的な態度も免責が不許可になることがあります。
(3)管財事件の場合に無断で引っ越しをする
自己破産には「管財事件」と「同時廃止」の2種類があり、財産がある人や免責不許可事由がある人は「管財事件」に振り分けられます。
管財事件になった場合、財産隠しや逃亡などを防止するため、自己破産手続中の引っ越しには裁判所の許可が必要です。無断で住所を変えることはできないので、注意してください。また、出張や海外旅行の際も許可が必要です。
こうした移動の制限は自己破産手続が終了すれば解除されます。ずっと続くわけではないので、手続期間中だけ気をつけましょう。
同時廃止になった場合は、管財事件のような移動の制限はありません。
自己破産手続き中に訴えられた時の対処方法
自己破産手続を準備している最中に裁判所から封書が届いたときは、直ちに、どこの裁判所から、どんなタイトルの書面が来たかを確認してください。そして、できるだけ早く、届いた書面を持参するなどして、弁護士と相談してください。
書面の題名が「支払督促」の場合、届いてから2週間以内に裁判所に異議を申し立てる必要があります。異議を申し立てずに放置すると、債権者が強制執行することが可能になり、給与や財産を差し押さえられてしまいます。
書面が訴状であった場合、裁判所が指定した締切日までに反論を書いた答弁書を提出しなくてはなりません。答弁書を出さないと、債権者がいっていることをそのまま認めた判決が出て、その後給料などの差し押さえが行われてしまいます。
いずれにせよ、異議や答弁書の作成に法律の専門知識が必要なので、直ちに弁護士に連絡を取ってください。すぐに会って相談ができない場合、メールで弁護士とやりとりしているのであれば、スキャナで書面を取り込んでメールに添付し、弁護士に送る方法もあります。
自己破産手続き中の訴訟を放置したリスク
裁判所から支払督促や訴状が届いたのに、何もせずに放置した場合、以下のリスクが発生します。
(1)訴訟に敗訴する
自己破産準備中に訴訟を提起されたのに放置すると、裁判所は、債務者が債権者の主張する事実関係を認めたものとみなし、債権者の主張がそのまま認められて敗訴します。敗訴判決が出ると、債務者は、債権者の主張した通りの額を返済しなくてはならなくなります。
(2)財産が差し押さえられる可能性がある
債権者は、訴訟に勝訴すると、判決に基づいて債務者の財産を差し押さえることができます。
差し押さえの対象になる財産としては、不動産や自動車、美術品など価値のある動産、預貯金や給与などの債権があります。差し押さえた財産は、債権者の債権回収に充てられます。
財産の中でも、差し押さえられる可能性が高いのは、預貯金や給与などの債権です。
給与債権が差し押さえられた場合は、債権者が持っている債権額の全額が回収できるまで差押え状態が続く可能性があります。
(3)勤務先に借金の存在が分かってしまう
給与債権が差し押さえられた場合、裁判所は、債務者の勤務先の給与支払いを担当している部署あてに、債務者の給与を差し押さえる通知を書面で送付します。以後、債務者の勤務先が直接、債権者に対して給与の一部を支払います。
勤め先に借金に困っていることを隠していたくとも、給与を差し押さえられた場合、勤務先には確実にばれてしまいます。
自己破産しても支払い義務が残る「非免責債権」とは
以下の債務は、自己破産手続きをとっても支払い義務がなくなりません。これらの債権を非免責債権と言います(破産法253条1号)。これらの支払いをせずにいれば、訴訟や差し押さえを受ける可能性があります。
【破産法に定められた非免責債権】
(1)税金や社会保険料
(2)破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
(3)破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
(4)夫婦間の協力及び扶助の義務の請求権(民法752条)
(5)婚姻費用分担請求権(民法760条)
(6)子の監護に関する義務の請求権(民法766条)
(7) 直系血族、兄弟姉妹、扶養の義務(民法877条~880条)
(8)(4)~(7)の義務に類する義務であって、契約に基づくもの
(9)雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
(10)破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
(11)罰金等の請求権
【(1)税金や社会保険料】
非免責債権の代表例は、税金や社会保険料です。これらの債権は自己破産しても無くなりません。また、支払いを滞納し、督促を無視していると、通常の借金よりスピーディに差し押さえが行われます。他方、税金や社会保険料は他の借金に優先して支払っても破産法上問題になりませんので、できるだけ支払うことをお勧めします。
【(2)(3)不法行為に基づく損害賠償請求権】
(2)(3)に関しては、不法行為に基づく損害賠償請求権が全て非免責債権になるのではなく、一部の損害賠償請求権だけが該当することに注意してください。
(2)の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」とは、破産者が積極的な害意をもってした行為を言います。裁判例では、金融機関からの借金の際に、他の借金の状況や保証人等について嘘の説明をした場合は、悪意による不法行為と認められています。
また、(3)の「破産者が故意又は重大な過失により加えた」不法行為に関しては、人の生命又は身体を害する行為に限られます。交通事故を起こした場合の損害賠償請求権などが,その一例です。重大な過失により相手の財産を破壊した場合、高価な財産であっても非免責債権には当たりません。
不法行為に基づく損害賠償請求権の支払いがある場合、非免責債権に該当するかどうか、素人では判断が難しいケースがあります。不明な場合は弁護士に相談されることをお勧めします。
【(4)~(8)家族や夫婦関係に関する義務】
(4)~(8)については、主に家族や夫婦関係に関する義務や、これに類する契約に基づいた支払いが非免責債権となります。
【(9)~(11)その他の非免責債権】
その他、(9)破産者が雇用していた人への支払い、(10)破産者が存在を知っているのに債権者名簿に記載しなかった請求権、(11)罰金等の請求権と続きます。全体を見ると、自己破産したからと言って免責されるのは社会的に許されないと考えられる支払いが非免責債権となっています。
【嘘をついて借りたお金は非免責債権になる可能性がある】
返済が不可能と分かっているのに、年収や借入状況などを偽って借金すると、悪意による不法行為とされ、自己破産しても非免責債権となって返済し続ける必要があります。さらに、このような借金の存在は免責不許可事由にあたるので、裁判所に問題視され、全ての借金が免責されない事態になりかねません。
非免責債権が支払えない場合
非免責債権のうち、税金や社会保険料は、地方自治体の収納課や税務署などの窓口に行き、納付猶予や分割納付が可能か相談されることをお勧めします。
生活が非常に苦しく、税金や社会保険料を支払う余裕が全くない場合、生活保護を受けることで租税公課は免除されます。
それ以外の非免責債権については、債権者に交渉することになります。債権者に状況を伝えて謝罪し、分割払いにできないか、支払いを待ってもらえないか話し合いましょう。請求に応じず放置していると、訴訟を起こされる可能性があります。養育費や婚姻費用が支払えないケースでは、家庭裁判所に減額調停を申し立てる方法もあります。
いずれも、自己破産を依頼した弁護士に速やかに相談し、助言を受けてください。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑



