受任通知とは・効力や記載内容、発送する際の注意点について解説
弁護士などに債務整理を依頼すると債権者宛に「受任通知」が発送されます。
すると、本人に対してはカード会社や消費者金融などからの取り立てが一切来なくなります。
ただし専門家に受任通知を発送してもらう際には注意点もあるので、正しい対処方法を知っておきましょう。
以下で債権者からの督促を止められる「受任通知」とはいったいどういった書類なのか、なぜ督促が止まるのか、注意点も含めて解説します。
目次
受任通知(介入通知)とは
債務整理の受任通知とは、任意整理や個人再生や自己破産などの債務整理案件に弁護士などが介入した事実を相手方(債権者)へ知らせる書類です。
弁護士などに債務整理を依頼すると、すぐに各債権者に対して受任通知を発送します。
専門家が「債務整理を受任しました」と知らせる書類なので「受任通知」や「受任通知書」とよばれます。債務整理に介入したという意味で「介入通知」とよばれるケースもありますが、まったく同じ意味です。
債務整理には任意整理、個人再生、自己破産などいくつかの種類がありますが、すべての債務整理のケースで受任通知は発送されます。
受任通知の効力は?
受任通知には対象債権者に対し「弁護士が債務整理に介入し、手続きが始まったこと」を知らせる効果があります。
それだけではなく「債権者が債務者に対し、直接取り立てを行ってはならない効果」も発生します。
弁護士などが貸金業者などの債権者へ受任通知を送ると、貸金業者らは債務者へ直接連絡できなくなって督促が止まります。電話はかかってこなくなり、郵便も届きませんし、訪ねてこられることもありません。
受任通知によって取り立てが止まる理由
受任通知によって督促が止まるのは、貸金業法と債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)において「弁護士や司法書士の介入後、貸金業者や債権回収業者は債務者へ直接取り立てをしてはならない」と規定されているためです(貸金業法第21条第1項9号、サービサー法第18条第8項)。
貸金業者
ノンバンクの金融機関です。クレジットカード会社、信販会社、消費者金融などが該当します。銀行は含まれません。
債権回収会社
貸金業者や銀行などから債権回収を委託されて専門的に債権回収を行う業者です。
債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)にもとづいて国の許可を受けたものだけが債権回収を受託できます。
受任通知の効力が及ぶ範囲
受任通知によって取り立てが禁止されるのは,基本的に貸金業者と債権回収業者のみです。
銀行やリース会社、一般の会社や個人などには法的な取り立て禁止の効力が発生しません。
弁護士や司法書士に債務整理を依頼して受任通知を発送してもらっても、個人の債権者や取引相手などの債権者は取り立てを継続するケースがあります。
ただし銀行やリース会社等は、弁護士が受任通知を送るとほとんどの場合、取り立てを自主的に停止します。
相手が個人などの場合でも、しつこく連絡してくるようであれば弁護士からあらためて取り立てをしないように注意を促すことができます。
もしも連絡が来たら「この件についてはすべて弁護士に任せているので、弁護士を通じて連絡してほしい」と伝えましょう。
個別の債務額が140万円を超えている場合には注意を
■裁判の判決について
「債務整理を依頼された認定司法書士は、当該債務整理の対象となる個別の債権顎が140万円を超える場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することができない」という判断がなされました。つまり、140万円以下ならば司法書士が法律相談や交渉、訴訟も対応可能だということです。しかし、超えてしまった場合は司法書士ではなく弁護士が携わる案件になってしまうことになります。これは、「司法書士の業務範囲の厳格な運用」を求めることで、弁護士と司法書士の業務範囲を明確に分けるための判断だといえます。
受任通知を発送してもらうメリット
弁護士に受任通知を発送してもらうと、債権者からの電話や郵便などによる取り立てが止まります。
借金を滞納して取り立てに悩んでいた方も、平穏な日常生活を取り戻せるメリットは大きいでしょう。
自宅に郵便が来なくなるので、同居の家族などにみられて不安を抱かせる心配もなくなります。
受任通知には書かれている内容
受任通知には以下のような内容が書かれています。
- 今後は弁護士が代理人として任意整理や個人再生、自己破産などの債務整理手続きを進めること
- 弁護士の連絡先
- 今後は債務者に対して直接督促取立てをしてはならないこと
- 今後の連絡はすべて弁護士へ行うべきこと
- 契約当初から現在に至るまでのすべての取引履歴を開示するよう請求する
- 受任通知は債務を承認するものではなく、時効の更新事由にならないこと
受任通知の注意点
受任通知(介入通知)を送る際には以下の点に注意しましょう。
カードを解約される
クレジットカード会社へ受任通知を発送すると、強制解約されて使えなくなります。
カードを通じてスマホ代や家賃、光熱費などの引き落としをしているなら、事前に支払い方法を変更しておきましょう。
信用情報機関への登録
受任通知を送ると、信用情報機関に債務整理情報が登録されます。
債務整理情報は事故情報の一種であり、登録されるといわゆる「ブラックリスト状態」となります。その後はどこのカード会社に申し込んでもカードやローン審査に通りません。
債務整理手続きが終わっても、ブラックリスト状態は5年間程度継続します。
ただ2か月程度以上返済を滞納しているなら、すでに信用情報に「延滞情報」が登録されてブラックリスト状態になっているケースがほとんどです。その場合、受任通知を送ったからといって不利益はありません。
訴訟や支払督促を起こされると書類が届く
受任通知を送ると、債権者は債務者へ直接取り立てをできなくなります。
しかし受任通知では裁判や支払督促、差押などを止められません。
訴訟や支払督促を起こされると裁判所から本人宛に書類が届きます。
差押をされたら預貯金や給料を取り立てられる可能性もあります。
連帯保証人へ請求される
連帯保証人や保証人のついている借金がある場合、受任通知を送ると債権者は連帯保証人などへ一括請求を行うのが一般的です。連帯保証人や保証人も支払いができなければ、それらの人も債務整理を検討しなければなりません。
連帯保証人や保証人のいる借入金を債務整理するなら、事前に連絡して対処方法を検討しておきましょう。いきなり一括請求を受けると連帯保証人などの人が混乱して人間関係のトラブルに発展するケースも多いので、くれぐれもご注意ください。
銀行口座が凍結される可能性
借入先が銀行カードローンの場合、受任通知を送ると一定期間、対象口座が凍結されてしまいます。銀行としては、いったん口座からの入出金をすべて不可能にした上で「相殺」を行い、債権回収しようとするのです。
銀行口座を凍結されると、以下のような支障が生じる可能性があります。
- 預金を引き出せなくなる
- 給与の振り込みができなくなる
- 携帯電話代や家賃、水道光熱費などの引き落としができなくなる
ただ凍結されるのは「カードローンを利用している口座」のみであり、他の金融機関の口座へ影響はありません。振込先を他の金融機関口座へ変更すれば問題ありませんし、新しく別の銀行口座の開設もできます。
口座凍結による不利益を防ぐため、受任通知を発送する前に以下のような対応をとりましょう。
- 勤務先に連絡して給与振込先を変更する
- 携帯電話会社や不動産会社、電力会社などへ連絡して引落し口座を変更する
- 相殺を防ぐため、口座から預金を出金しておく
受任通知を送る方法やタイミング
受任通知は基本的に弁護士へ債務整理を依頼するとすぐに発送されます。
事前に引き落とし口座や給与振込口座を変更する余裕がほしい場合などには事情を告げれば待ってもらえるでしょう。
発送方法は通常、郵便またはFAXです。依頼したら即日で督促が止まるケースもよくあります。債権者からのしつこい督促に困っているなら、早めに弁護士へ任意整理などの債務整理手続きを依頼しましょう。
まとめ
債務整理を弁護士などの専門家へ依頼すると、受任通知の効果によってすぐに取り立てが止まります。電話も郵便も来なくなるので、平穏な生活を取り戻せるメリットは大きいでしょう。苦しい借金問題を解決するため、早めに弁護士へ任意整理や個人再生や自己破産などの債務整理の相談をしてみてください。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑