着手金とは?相場や契約前の確認ポイントについて弁護士が解説
債務整理をはじめとする事件を弁護士に依頼する際には「着手金」がかかります。
着手金の金額は一律ではなく、依頼先の事務所や依頼する事件の内容によっても異なります。
ただし一定の相場はあるので、依頼前に相場の金額を把握しておくと、高額すぎる事務所を避けやすくなるメリットを得られるでしょう。
今回は着手金とはどういったお金なのか、相場や契約前に確認しておくべきポイントなど、依頼前に知っておきたい知識を弁護士が解説します。
これから債務整理などの依頼をしようとしている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
着手金とは
着手金とは、弁護士に何らかの事件を依頼するときに当初に払う費用です。
基本的には一括払いしなければならず、後に返還はされません。
たとえば任意整理や個人再生や自己破産を弁護士に依頼する際には、まとまった着手金を払わねばならないのが一般的です。
ただし依頼する事務所によっては、着手金が無料となっているケースもあります。
たとえば過払い金請求を依頼する場合、着手金無料で成功報酬のみとなっている事務所が多数です。
また着手金は分割払いできる事務所もあります。当初にまとまった金額を用意するのが難しい場合、分割払いの相談をしてみるとよいでしょう。
着手金の相場と日弁連の旧報酬基準について
着手金の金額は、依頼する事件の内容や依頼先の事務所によって変わります。
以前は、「日本弁護士連合会」が弁護士報酬の基準を設けていたので、同じ事件であればどの法律事務所に依頼しても着手金額が一律となっていました。
現在は報酬基準が撤廃されて弁護士費用が自由化されたので、依頼先の事務所で着手金の金額が異なります。ただ一定の相場はあるので、あまり相場に外れた事務所を選ぶと不利益を受けてしまうでしょう。
また債務整理の場合、弁護士会にガイドラインが設けられていて、一定の上限が設定されています。上限を超える事務所はほとんど存在しないと考えられますが、万一超過するような報酬体系の事務所があれば、依頼すべきではありません。
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/pdf/kaiki/kaiki_no_93_160606.pdf
債務整理事件の着手金相場
任意整理
任意整理の場合、着手金の相場は「1件あたり4~5万円程度」です。他に減額報酬がかかる事務所が多いでしょう。
個人再生
個人再生の場合には、40万円~60万円程度が相場です。住宅ローン特則を適用する場合や給与所得者等再生を利用する場合、高額になりやすい傾向があります。
自己破産
自己破産の場合、簡易な手続きである同時廃止なら30~40万円程度、複雑な手続きである管財事件なら40~60万円程度となるでしょう。ただし管財事件の場合、事案の内容によって変動幅が大きくなる可能性があります。
着手金の注意点
着手金については、以下の点に注意しましょう。
いったん払った着手金は返ってこない
着手金をいったん支払うと、たとえ事件が希望とおりに解決しなくても返還されません。
たとえば自己破産を依頼したけれど、免責不許可事由があって免責を受けられなかったとしましょう。その場合でも、当初に支払った着手金は返してもらえません。
途中で依頼先を変えると2重になってしまう
債務整理などの事件を進めている最中に依頼先を変えるケースがあります。
たとえば当初は司法書士に依頼したけれども、司法書士の取り扱える限度の金額(140万円)を超えてしまったために弁護士に変更せざるをえないケースがよくみられます。そのようなときには当初に司法書士へ払った着手金が返ってきません。後から依頼する弁護士についても着手金が発生するので、費用が二重にかかってしまいます。
また弁護士を解任して途中で債務整理をやめてしまった場合にも、原則として着手金は返ってきません。
支払わなければ事件進行を停止されてしまう
着手金を分割払いにした場合、途中で支払いを止めてしまったら弁護士が辞任してしまう可能性が濃厚となります。
債務整理を弁護士に依頼すると、債権者からの督促が止まります。しかし弁護士が辞任してしまったら、債権者からの督促が再開して借金問題は解決されません。
支払いをしないと事件進行を停止されてしまうので、必ず着手金は約束とおりに全額支払いましょう。
着手金無料の場合、報酬金が高い可能性がある
債務整理や交通事故など、着手金を無料にしている事務所があります。
ただ着手金が低いからといって全体的な報酬が安いとは限りません。その分報酬金が高額に設定されているケースも多々あります。
実費がかかる
弁護士に債務整理や離婚などの案件を依頼するとき、発生する費用は着手金だけではありません。たとえば離婚調停などで遠方の裁判所へ出張したら「日当」や「交通費(実費)」がかかります。
過払い金請求訴訟を起こす場合や自己破産、個人再生を申し立てる場合には印紙代や郵便切手が必要です。自己破産が管財事件になった場合や個人再生で個人再生委員が選任された場合には高額な「予納金」も発生します。
債務整理をはじめとして弁護士費用を考えるときには、着手金だけではなく「事件処理全体にかかる費用」を把握する必要があるでしょう。
前金と着手金の違いは?
着手金は前金とは異なります。
前金は、商品やサービスの取引を行う際に代金の一部を前払いするお金です。前払金や前渡金といわれるケースもあります。
前金の場合、商品が引き渡されない場合やサービス提供を受けられない場合、返金されるのが一般的です。
一方、着手金は弁護士が事件に着手した時点で発生するもので、一部の前払いではありません。希望とおりの結果を得られなくても返ってこないものです。
委任契約をする前に確認したほうが良いポイント
弁護士に債務整理や離婚、交通事故などの案件を依頼する際には「委任契約」を締結します。以下では契約前に確認しておくべきポイントをお伝えします。
全体的な弁護士報酬や実費の金額
まず事件全体を通じてどのくらいの弁護士報酬や実費がかかるのか、把握しましょう。
当初の着手金が安くても報酬金が高額な場合もありますし、債務整理案件の場合には予納金が高額になるケースも少なくありません。
複数の事務所を比較するとしても、着手金だけにとらわれず「事件全体でかかる費用」を比べましょう。着手金無料でも報酬金が高ければ、全体的に報酬額が上がる可能性があります。
追加払いが発生するケースを把握する
次に「追加払い」が発生するのはどういった状況か、把握しましょう。
着手金は1回払って終わるとは限りません。
たとえば協議離婚の代理交渉から離婚調停に移行すると、別途調停の着手金がかかるのが一般的です。訴訟に移行したら別途訴訟の着手金が発生します。
予想外に追加着手金を要求されると払えなくなる可能性もあるので、契約書へ署名押印する前に確認しておきましょう。
分割払いの条件を把握する
着手金の分割払いを行う場合、遅れると弁護士が辞任してしまうリスクが発生します。
いつまでにいくら支払わねばならないのか、入金先の口座などをしっかり把握しておきましょう。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑