相続した債務調査の手法や債権者への対処方法を解説!
相続した債務の内容や残債額を調査したい場合、具体的にどのように進めればよいのでしょうか?
相続人が借金などの負債を相続すると、基本的には支払いに応じなければなりません。
相続放棄すれば支払いをせずに済みますが、そもそも相続放棄すべきかどうか決めるためにも債務を調査する必要があるでしょう。
今回は相続した債務の調査方法をお伝えしますので「借金を相続したかもしれない」方はぜひ参考にしてみてください。
目次
相続対象となる債務とは
相続人になると、資産だけではなく債務も相続します。相続対象となる債務には以下のようなものがあります。
- 消費者金融やクレジットカード、カードローン
- 事業者のローン
- 車のローン
- 個人からの借り入れ
- 滞納家賃
- 滞納した通信料金
- 滞納税、滞納保険料
- 連帯保証債務、保証債務
なお住宅ローンの場合には、団体信用生命保険から全額支払われるので相続されないケースが多数です。ただし状況により、団体信用生命保険が適用されなければ相続される可能性もあります。
相続債務の調査方法5つ
相続した遺産の中に借金やその他の負債が含まれているかわからない場合、以下の5つの方法で調査しましょう。
自宅内の書類を確認
まずは自宅内の書類を確認すべきです。たとえば以下のようなものが保管されている可能性があります。
契約書や借用証
金融機関や個人との間で作成した金銭消費貸借契約書や借用証が保管されていたら、完済していない限り借金が残っていると考えるべきです。
振込証
消費者金融などを利用している場合、毎月振込みをしている方が多数です。自宅に消費者金融などの特定業者へ毎月払込をしている振込み証が残っていたら、借金している可能性が濃厚でしょう。
請求書、督促書
支払いをしていない場合、債権者から請求書や督促書が届きます。自宅にこういった書類があれば借金している可能性が高いと考えられます。
銀行預金取引内容を確認
銀行通帳や取引履歴も確認してみてください。毎月クレジットカードやカードローンで定期的に引き落としがあれば、借金している可能性が高いでしょう。
個人信用情報の開示請求を行う
消費者金融やカードローンなどの消費者ローンについては、信用情報機関へ個人信用情報の開示請求をすればまとめて調べられる可能性があります。
信用情報機関は、個人のローンやクレジットの利用履歴を管理している専門機関です。
JICC、CIC、KSCの3種類があるので、すべてに対して照会を行いましょう。
信用情報機関の名称 | 主な借金の種類 | 問い合わせ先 |
株式会社日本信用情報機構(JICC)
https://www.jicc.co.jp/kaiji/ |
消費者金融 | 0120-441-481 |
株式会社シー・アイ・シー(CIC)
https://www.cic.co.jp/mydata/index.html |
クレジットカード、信販会社 | 0120-810-414 |
全国銀行個人信用情報センター(KSC)
https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/open/ |
銀行や信用金庫などの金融機関 | 0120-540-558 |
開示請求の必要書類
開示申込書
信用情報機関へ情報照会するには、被相続人についての情報が必要です。氏名と登録住所、生年月日によって本人特定するので、間違えないように記載しましょう。
本人が死亡したことがわかる資料
本人が死亡した事実がわかる戸籍謄本や除籍謄本を用意しましょう。
相続人であることがわかる資料
本人の相続人であることがわかる戸籍謄本類を用意しましょう。
相続人の本人確認書類
相続人自身の本人確認書類が必要です。運転免許証等を用意しましょう。
郵便物をチェック
借金している状態で死亡すると、支払いができなくなって滞納してしまうものです。郵便受けに債権者からの督促書や連絡書が届いている可能性が高いので、チェックしましょう。
留守電や着信履歴をチェック
債権者から電話で督促の連絡が入っている可能性もあるので、スマホや家の電話の着信履歴や留守電を確認してみてください。
被相続人が事業者の場合
被相続人が事業者や経営者だった場合には、会社や知り合いの連帯保証人になっているケースが多々あります。一般の方以上に高額な負債を負っている可能性もあるので、より慎重に調査しなければなりません。自宅だけではなく事業所も確認すべきです。
時効が成立している可能性もある
負債を相続した場合でも、必ず支払わねばならないとは限りません。借り入れ時期が古く長期に渡って返済していない場合、時効を援用して支払いを免れられる可能性もあります。
ただ債権者から督促を受けて「支払います」などと答えてしまうと「債務承認」が成立して、払わざるを得なくなってしまいます。
時効が成立している可能性があるなら、安易に債権者とやり取りするのは危険です。
対応方法に不安があれば、専門家へ相談しましょう。
債務調査に必要な情報
債務調査の際には以下の情報があると役に立ちます。できるだけ集めておきましょう。
- 本人の氏名と住所
住所は借入先に登録している住所が必要です。借り入れ後に引っ越して住所変更していない場合、以前の住所が問われる可能性もあります。
- 本人の生年月日
- 死亡した情報(死亡年月日など)
- 会員番号や契約番号、クレジットカードの番号など
借入先における会員番号や契約番号がわかれば特定が簡単になります。できるだけ調べておくとよいでしょう。
相続した債務調査の限界
相続した債務を調査しても、必ずすべての借金や負債を特定できるとは限りません。
督促書を送ってこない債権者もありますし、滞納家賃や個人からの借り入れなどは見つかりにくいものです。
特に連帯保証債務の場合、主債務者が順調に返済していれば債権者は通常連絡してきませんし、連帯保証人が払う必要もないので返済履歴も残っていないでしょう。
負債を詳しく調査するには、専門家によるサポートがある方が安心です。
不安があるなら弁護士や司法書士などの専門家に相談してみましょう。
相続放棄を考えている場合でも債務調査は必要?
もしも既に「相続放棄する」と決意し、何があっても気持ちが変わらないなら、債務の調査は不要です。たとえば事業承継の事案で長男が後継者となるので次男や長女が相続放棄するなら、あえて債務調査をする必要性は低いでしょう。
ただ債務調査をしなければ、相続放棄すべきかどうか適切な判断ができないケースもよくあります。たとえば債務調査の結果、資産の額より負債額が小さい事実が判明すれば、わざわざ相続放棄しなくても負債を全額支払えます。
安易に相続放棄してしまったら、相続できる資産も相続できなくなって損をしてしまうでしょう。
債務調査は相続放棄の前提として必要なステップといえます。
被相続人の借金を請求された場合の対処方法
負債を調査している最中に借金の督促を受けたら、次のように対応しましょう。
債権があるかどうか確認
まずは本当に相手が債権者なのか確認すべきです。架空請求や間違いの可能性もあります。相手業者が実在するのか、いつどの程度借り入れたのか、現在の残高などを調べましょう。
相続放棄しないなら支払いが必要
相続放棄しないと決めているなら、支払う義務があります。ただし各相続人の負担額は法定相続分に応じた金額となるので、全額を払う必要はありません。
相続放棄する場合
相続放棄する場合には、払う必要はありません。
特に被相続人の遺産からは絶対に払ってはなりません。遺産から払うと「法定単純承認」が成立し、相続放棄できなくなってしまいます。
遺産ではなく相続人自身の資産から払った場合には法定単純承認は成立しないとされています。
相続放棄には期限がある
相続放棄には「自分のために相続があったことを知った時から3か月」という期間制限もあります。基本的には相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。迷ったときには弁護士や司法書士へ相談し、早めに相続債務の調査をして相続放棄するかどうかの態度を決定しましょう。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑