共益債権とは?個人再生や民事再生を行う際の債権の種類を解説
個人再生や民事再生を行う際には「共益債権」に注意が必要です。
共益債権は、民事再生をしても減額されません。手続き中であっても請求されたら払わねばなりませんし、手続き後に残った場合にも全額を支払う必要があります。
個人再生や民事再生を申し立てるなら「共益債権があるのか」「あるとすればいくらになるのか」把握しておくべきといえるでしょう。
今回は共益債権をはじめとして個人再生における「債権の種類」とその取り扱いについて解説します。
これから個人再生を行おうと考えている方は参考にしてみてください。
目次
共益債権とは?
「共益債権」とは再生債権者の「全体の利益」になるなどの理由で、民事再生をしても減額されない債権です。
民事再生をすると借金は大幅に減額されますが、共益債権は減額の対象になりません。
手続き中にも取り立てを受ける可能性がありますし、手続き後に残った場合にも全額払う必要があります。
民事再生で減額対象となる債権を「再生債権」といいますが、共益債権は再生債権とは別の取り扱いを受けます。
民事再生や個人再生で負債を大きく減額してもらおうとしても、共益債権が多ければあまり負債が減らない可能性があるといえるでしょう。
申し立て前に共益債権があるかどうか、専門家に聞いて確認する必要があります。
共益債権になる負債
具体的にどういった負債が共益債権になるのか、みてみましょう。
- 再生債権者の共同の利益のためにする裁判費用(再生手続開始決定の申立てや保全処分の費用など)
- 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活、財産の管理処分に関する費用(たとえば事業者の仕入代金など)
- 再生計画遂行に関する費用の請求権
- 監督委員・調査委員・管財人・保全管理人の費用や報酬
- 再生債務者などが手続開始後に借入れた金員
- 事務管理・不当利得によって手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
- その他手続開始後に生じた、再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権(例 株主総会の開催費用など)
- 再生手続開始申立て後開始決定前に、裁判所の許可または監督委員の同意を得て、再生債務者・保全管理人がした資金借入れ・原材料購入など再生債務者の事業の継続に欠くことができない行為によって生じた請求権
- 双方未履行の双務契約について、債務の履行が選択された場合の相手方の請求権(注 双務契約とは、お互いに何らかの義務を負う契約をいいます)
- 双方未履行の双務契約について、解除が選択された場合の相手方の利益返還請求権
- 継続的給付を目的とする双務契約について、相手方が再生手続開始申立て後開始決定前にした給付にかかる請求権(継続的給付を目的とする双務契約の典型例は水道光熱費の契約です)
民事再生手続き上の共益債権の取り扱い
共益債権は、民事再生手続きによっても減額されません。
再生債権者全員の利益になる債権なので、全額支払われる方が再生債権者の利益に叶うともいえますし、そもそも減額すべきでないものだからです。
債務者の立場からすると、共益債権があると個人再生の最中であっても手続き後であっても、一般の再生債権より優先的に弁済しなければなりません。支払わなかったら強制執行(差し押さえ)をされるリスクも発生します。
ただし強制執行が無制限に行われると、再生債務者の生活や事業が脅かされて再生が不可能となってしまうおそれもあるでしょう。そこで民事再生法では、共益債権にもとづく強制執行や仮差押であっても「債務者の再生に著しい支障を及ぼし」「債務者が他に換価しやすい充分な財産をもっているとき」には、裁判所が強制執行や仮差押えの中止や取消しを命じることができると定められています(121条3項)。
共益債権以外の4つの債権
民事再生では、共益債権以外に以下の4種類の債権があります。
- 再生債権
- 一般有線債権
- 開始後債権
- 別除権つき債権
上記のうち、一般的な借金や負債で減額対象になるのは「再生債権」です。
債権の種類によって取り扱いが異なるので、以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
再生債権
再生債権は一般的な負債です。民事再生をすると、財産がない限りは大幅に減額されます。
たとえば以下のようなものが該当します。
- カードローンやクレジットカード、消費者金融などからの借金
- 車のローン
- 未払家賃
- 未払通信料
- 未払の水道光熱費(下水道料金をのぞく)
- 未払のNHK料金
- 奨学金
- 保証債務
- 事業にもとづく買掛金やリース代などの負債
こういった一般の再生債権が主な負債であれば民事再生によって大きく減額されるので、民事再生をするメリットが大きくなるでしょう。
一般優先債権
一般優先債権とは、再生債権よりも優先的に弁済を受けられる債権です。
具体的には税金や保険料、民法・商法等により優先権が認められている労働債権などが該当します。
一般優先債権も共益債権と同様、民事再生の手続きによらずに随時弁済を受けられます。債務者の立場としては、民事再生の手続き中であっても請求が来たら払わねばなりません。
民事再生をしても減額対象にならないので手続き後も全額が残り、支払う必要があります。
たとえば未払税がある場合、個人再生をしても基本的に全額払わねばなりません。
払えないときには税務署や自治体などへ相談して、分割払いなどの相談をしましょう。
開始後債権
開始後債権とは、再生手続開始後に発生した債権で共益債権や一般優先債権、再生債権のどれにもあてはまらないものです。
開始後債権は再生債権に劣後し、再生計画によって再生債権の支払いが完了するまで弁済を受けられません。
債務者の立場からしてみると、開始後債権については再生債務を計画通りに払い切るまでは開始後債権を支払う必要がないという意味です。
別除権つき債権
別除権つき債権とは、いわゆる「担保権」のついた債権です。
担保権とは負債が支払われないときにそなえてつける権利であり、土地や建物につけられた抵当権や自動車につけられた譲渡担保などが典型例となります。
別除権つき債権も減額の対象になりますが、担保権については再生手続によっても影響を受けません。債権者は民事再生手続によらずに担保権を実行できるので、支払いをしなかったら家を競売にかけられたり自動車を回収されたりするリスクが発生します。
ただし自由に担保権が実行されると債務者の再生が難しくなってしまうでしょう。
そこで一定の要件を満たす場合、裁判所は競売の中止命令を出すことができます。
たとえば家が競売にかかってしまっても、競売中止命令が出れば住宅ローン特則を適用するなどして家を守りながら個人民事再生を進められます。
また「別除権協定」といって、債権者と個別に合意することによって別除権行使を控えてもらい、個人再生を進める方法もあります。
債権の種類について詳しく知りたければ弁護士に相談を
民事再生や個人再生を行うときには、自分のかかえている負債がどういった種類に分類されるのか、正しく理解しておく必要があります。減額対象にならない共益債権や一般優先債権が多い場合、民事再生を利用するメリットが小さくなってしまいます。
ただ民事再生における債権の種類を的確に把握するには、専門知識が必要となるでしょう。
ご自身では把握しにくい方も多いでしょうから、まずは借金問題に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみてください。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑