金銭債権の時効や更新について

借金をしても、長期にわたって返済しなければ「時効」にかかる可能性があります。

借金が時効になれば、利息や遅延損害金も含めて返す必要がありません。

ただし時効には「更新」という制度があり、長期間放置しても必ず時効が成立するとは限りません。

今回は金銭債権の「時効」や更新される場合、民法改正による変更点について解説します。

長期間借金を返していないので「時効消滅しているのでは?」と気になっている方はぜひ参考にしてみてください。

金銭債権とは?

借金や利息などの債権を「金銭債権」といいます。

債権とは、相手に何らかの行為を要求する権利です。たとえば売買契約であれば対象物の引き渡し、請負契約であれば建物の建築工事、労働契約であれば会社のためにはたらいてもらうこと、賃貸借契約なら大家から物件を引き渡してもらって必要な管理、修繕を行ってもらうことなどが債権の内容となります。

債権の中でも「金銭債権」は、お金を払ってもらう権利です。

たとえば以下のような場合、相手に請求できる権利は金銭債権となります。

  • 売買代金の請求権
  • 金銭消費貸借契約におけるお金の返還請求権
  • 賃貸借契約で家賃を請求する権利
  • 労働契約で給料や残業代を請求する権利

借金は「金銭消費貸借契約」であり、借入先は債務者に対して「金銭債権(お金を返してもらう権利)」を取得しています。

お金を借りた債務者は、期日までに払わなければ「債務不履行」となってしまいます。金銭債権をきちんと支払わなければ、遅れた日数分の「遅延損害金」も発生します。遅延損害金の法定利率は3%ですが、カードローンなどの場合には年率20%近くに設定されているケースが多数です。放っておくとどんどん返済額が増えてしまうリスクが発生するので、本来ならできるだけ早めに返済すべきといえるでしょう。

金銭債権の時効は何年?計算方法を解説

金銭債権には「時効」があるので、債権者としても永遠に請求できるわけではありません。

時効の期間や計算方法をみてみましょう。

現行民法において、金銭債権は以下の早い方の時期に時効にかかると規定されています。

債権者が「請求できる」と知ってから5年

債権者が権利の存在と弁済期の到来を知り、「請求できる」と知ったらそのときから5年で金銭債権が時効にかかります。

たとえばカードローンの場合には、最後に支払った日または、1回も支払っていないなら当初の弁済期日から5年が経過したら時効が成立します。

ただし初日は参入しないので、より正確には「最後に支払った日の翌日または当初の弁済期日の翌日」から5年をカウントします。

「請求できる状態」になってから10年

債権者が「請求できる」と知らなくても「請求できる状態」になったらそのときから10年で金銭債権が時効にかかります。

カード会社などの業者からの借入の場合、通常は業者側が「請求できる状態になったこと」を把握しているので、こちらの条件が適用されるケースは少ないでしょう。

金銭債権の時効はいつから起算される?起算点とは?

金銭債権の時効を計算するためには「起算点」を知っておく必要があります。

起算点とは「いつから時効の期間をカウントするか」というタイミングです。

たとえば「債権者が請求できると知ってから5年」の時効の場合、時効の起算点は「請求できると知ったとき」です。

具体的にいうと、1回でも返済していたら「最終弁済日の翌日」が起算点となり、1回も返済していない場合には「当初の弁済予定日の翌日」が起算日です。

金銭債権の時効の計算例

実際に金銭債権はどのくらいの期間が経てば成立するのか、具体例で確かめましょう。

  • 2021年4月1日に借入をして2021年8月31日に最後に返済し、その後は一切返済していない場合

上記のケースでは、最終弁済日である2021年8月31日の翌日である2021年9月1日から数えて5年が経過すると、時効が成立します。

具体的には2026年8月31日を過ぎると借金が時効にかかります。

時効は更新される可能性がある

金銭債権の時効成立に必要な期間が経過しても、必ず時効が成立するとは限りません。時効には「更新」という制度があるからです。

時効の更新とは、時効の進行が止まって当初に巻き戻ってしまうことです。

たとえば最終弁済日から4年が経過したときに時効の更新が発生すると、4年のカウントはなしになってまた当初からの数え直しになります。

その時点からあらためて5年が経過しなければ時効は成立しません(なお裁判によって時効が更新された場合、あらためて10年が経過しないと時効が成立しなくなります)。

つまり借金を返済せずに放置していても、途中で時効が更新されたら借金返済義務はなくならないのです。

なお旧民法では時効の更新は「中断」とよばれていましたが、実際には更新も中断もはほとんど同じ意味となります。

 

金銭債権の時効が更新、中断されるのはどういった状況か?

実際に金銭債権の時効が更新されるのはどういった状況なのか、法律上の規定にそってみていきましょう。

債務者が債務を承認

債務者本人が債務を承認すると、時効が更新されます。

これを「債務承認」といいます。債務承認は書面だけではなく口頭でも成立するので、認めてしまわないように注意しましょう。

また何も言わなくても「一部を支払っただけ」で債務承認になります。

カード会社などから請求を受けたとき、利息だけ払っても時効が更新されてしまうので、成立間近なら払わない方がよいでしょう。

裁判を起こされる

債権者から裁判を起こされると時効の完成が猶予され、判決が確定した時点で時効が更新されます。

具体的には以下のような場合です。

  • 裁判を起こされて判決で支払い命令が出て確定した
  • 裁判を起こされて和解が成立した
  • 調停が成立した

上記のような場合、あらたに進行する債権の時効期間は「10年」に延長されます。

それまでの時効期間が5年であっても10年に延びるので、間違えないように注意しましょう。

強制執行された

強制執行(差し押さえ)をされた場合にも金銭債権の時効は更新されます。

判決や和解、調停にもとづく場合だけではなく、公正証書や支払督促にもとづく強制執行を受ける可能性もあります。

内容証明郵便で請求された場合には完成猶予

債権者から内容証明郵便で支払いの請求を受けると、時効は6か月間完成猶予されます。

その間に債権者が裁判を起こせば、判決が確定したときなどに時効が更新されます。

民法改正による債権の消滅時効の変更点

2020年4月1日から改正民法が施行され、金銭債権の時効に関する制度も変更されました。

旧法における金銭債権の時効の考え方は以下のとおりでした。

  • 貸金業者などの営業をしている証人からの借金の時効…請求できるときから5年
  • 個人や信用保証協会などの非営業者である債権者からの借金の時効…請求できるときから10年

消費者金融やカード会社からの借金の場合、もともと「請求できるときから5年」だったので、民法改正後も実質的には変更がありません。

一方、個人など非営業者からの借入の場合、もともとは10年でしたが現在の民法では5年に変更されています(ただし本人が請求できることを知らなければ今でも10年の時効が適用されます)。

時効援用を考えているなら弁護士へ相談を

借金を長期にわたって返済していない場合、時効が成立して支払いをしなくてよくなる可能性があります。ただしそのためには「時効の援用」をしなければなりません。正しい方法で援用しないと「債務承認」が成立してしまうおそれもあるので、注意が必要です。

また債務者が知らない間に裁判を起こされて時効が更新されるケースも少なくありません。

金銭債権の時効へ適切に対処するには弁護士によるサポートが必要です。迷ったときには自己判断せず、借金トラブルに積極的に取り組んでいる弁護士へ相談しましょう。

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑