個人再生をするとローンは組めなくなる?
個人再生を行うと一定期間(5~10年)、新規のローンやクレジットカードの作成・利用が難しくなります。その仕組みについて解説します。また、個人再生後の住宅ローンやカーローン、クレジットカードの取り扱いや、個人再生をしていてもローン完済後の車や住宅は残せるかといった、個人再生とローンの関係についてよくある疑問についてまとめました。
目次
個人再生をしたあとローンやクレジットカードがつくれなくなる?
個人再生手続を行うと、その後一定期間(5~10年)、新たにローンを組んだり、クレジットカードを作ったりすることができなくなります。
個人再生とは、裁判所に申し立てることにより、借金を大幅に減額できる手続きです。個人再生などの法的な借金問題解決の手続きを「債務整理」と言いますが、債務整理を行うと一定期間、新たなローンを組んだり、クレジットカードを作ったりすることが難しくなります。
その理由は、「信用情報機関」という、個人の借金の履歴を保管する組織の記録に個人再生などの債務整理をしたことが記載されてしまうからです。
◆信用情報機関とは
信用情報機関とは、日本に3つあり、合法的な金融機関やクレジットカード会社、貸金業者は3つの機関いずれかに加盟しています。借金をしたり、クレジットカードを利用したり、分割払いの契約をすると、この信用情報機関に記録が一定期間保管されます。
金融機関やクレジットカード会社、貸金業者などは、新規のローンの申し込みやカード利用の際などに、この信用情報機関の記録を閲覧します。その際、個人再生などの債務整理の記録が残っていると、「事故情報(ネガティブ情報)」として審査に落ちてしまう可能性が高くなります。信用情報機関に事故情報が載ることを、俗に「ブラックリスト入り」と言います。
「ブラックリスト」という言い方をされるので怖いイメージを持つ方が多いのですが、信用情報機関には、一度でも借金やクレジットカードの利用、スマホを分割払いで購入したことがある人であれば、誰もが知らない間にお世話になっています。
また、信用情報機関の信用情報は厳しく管理され、加盟企業であってもローンの融資などに必要な場合以外には勝手に閲覧することは出来ないようになっています。加えて、本人であれば、情報開示請求により記録された情報を閲覧することが可能です。
ブラックリストに個人再生の情報が載っている期間は信用情報機関にもよりますが、5~10年程度です。期間が過ぎると事故情報は削除され、再びローンやクレジットカードの利用、分割払い購入ができるようになります。
個人再生後、ローンの扱いはどうなる?
個人再生を行うと、ローンは原則として全て個人再生の手続きに含まれ、減額の対象となります。つまり、債務の金額によって5分の1程度~最大10分の1程度に大幅に減額され、個人再生手続後は減額された残りの借金を再生計画に従って支払わなくてはなりません。ただし、ローンの種類によっては、個人再生後の取り扱いに注意が必要なものがありますので、以下にご紹介します。
(1)住宅ローン(住宅ローン特則を利用した場合)
個人再生には、「住宅ローン特則」と言って、住宅ローン返済中のマイホームを手放さないで済む制度があります。住宅ローン特則を利用した場合、住宅ローンだけが他のローンと違う扱いをされます。具体的には、以下のような取り扱いとなります。
- 住宅ローン特則を利用した場合、住宅ローンは個人再生による減額対象とはならず、ローン全額を支払わなくてはならない
- マイホームは処分されず、今まで通り住み続けることができる
- 住宅ローンの返済計画のリスケジュールをすることは可能
- 土地や建物の差し押さえ・競売を停止できる
このように、住宅ローン特則は、ローンのうちから住宅ローンのみを個人再生による減額対象から除外し、代わりに持ち家に住み続けることができる制度です。住宅ローン特則を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 住宅資金貸付債権(住宅ローン)であること
- 個人再生の申立人(再生債務者)が所有している家屋であること
- 再生債務者が居住用にしている建物であること
- 当該住宅を住宅ローン以外の借入れの担保にしていないこと
- ローンの支払い滞納による代位弁済があった場合、半年以内に再生手続開始の申立てを行っていること
- 住宅ローンが配偶者とのペアローンだった場合は、夫婦がともに個人再生の申し立てをすることで、住宅ローン特則を利用できる可能性があります。
(2)カーローン(借金の返済中だった場合)
個人再生をした時点でカーローンを完済していなかった場合、車を引きあげられてしまう可能性があります。
個人再生で車が引き上げられてしまうのは、「所有権留保」がついている場合です。所有権留保は、車のローンが完済するまでの間は、車の所有権をローン会社に残しておくという契約です。カーローンの契約書に、所有権留保に関する条項がある場合は、個人再生をすると車を引きあげられてしまいます。
カーローンの契約先が、カーディーラーと提携しているローン会社のローン(トヨタファイナンスやオリコなど)であれば、通常、所有権留保がついており、個人再生すると車を手放さざるを得なくなります。
もっとも、すべてのカーローンに所有権留保がついているわけではなく、銀行や信用金庫などでマイカーローンを組んだ場合にはついていない場合もあります。この場合は、個人再生をしても車を手放さずに済みます。
このように、車を残せるケースもあるので、まずはご自身のカーローンの契約書の内容を確認してください。
現金での購入や、すでにローンを完済している場合は、車を引き上げられることはありません。
個人再生後、クレジットカードの扱いはどうなる?
個人再生後、信用情報機関に個人再生の記録が登録されている5~10年の間は、クレジットカードを利用したり、新たに作成したりすることが難しくなります。
クレジットカードは、今使っているカードだけではなく、今持っているけれど使っていないカードや、別の会社のカードを新規で作ることも難しくなります。これは、信用情報機関に事故情報が記録されることにより、個人再生当時使っていたカードの企業だけではなく、他のカード会社も信用情報を閲覧することができるからです。カードの新規作成や更新の審査の際、個人再生の記録があると、落とされる可能性が高くなります。
5~10年が経過し、信用情報機関から個人再生の情報が消えた後は、再び元通りにクレジットカードを使えるようになります。
◆ブラックリストから消えた後もカードが使えない場合
信用情報機関から個人再生の情報が消えた後も、個人再生をした時点で持っていたカードの会社や、グループ企業に関しては、その後もずっと使えなくなる可能性があります。
なぜなら、信用情報機関によるブラックリスト入りのほか、会社の内部の顧客情報にネガティブな情報が記録される「社内ブラックリスト」に記録されることがあるからです。
社内ブラックリストの場合、情報の保管期間は会社によって違いますので、信用情報機関のブラックリストが解除された後も引き続き、カードが作成・利用できなくなる可能性が高いのです。
この場合は、ブラックリストを解除する手段はありませんので、他の会社のカードを利用することになります。
個人再生後、新たに住宅ローンは組めるのか?
個人再生後、5~10年経って、信用情報機関の記録から個人再生の情報が削除されれば、新たに住宅ローンを組むことは可能です。
この場合、信用情報機関に借金の履歴がなにも残っていない「スーパーホワイト」と呼ばれる状態になっています。社会人になって何年もたっているのに、履歴が真っ白だと、金融機関は「債務整理をしたのではないか」と疑い、審査に通らないことがあります。
これを防ぐためには、まずスマートフォンを分割払いで購入して期日を守って支払いをしたり、比較的審査の緩い金融機関で借り入れて返済したりするなどの方法により、金融機関が安心できる借金の履歴をあえて作っておくことが有効です。
◆ブラックリスト期間中に住宅ローンを組む方法はあるか
また、信用情報機関にブラック情報が載っている期間であって、保証人の審査内容が非常によく、万一の場合にローン契約者に代わって返済してくれる可能性が高いと判断された場合は、ブラックリスト期間であっても住宅ローンが組める可能性はあります。
他の方法として、個人再生によるブラックリスト入りは手続きをした本人にしか効果が及ばないので、配偶者の名義で住宅ローンを組んでもらうことは可能です。
ローン支払い中で個人再生すべきかどうか迷っている場合
抱えている借金額が多すぎて返済に困っている場合、個人再生により新たな借金が出来なくなるデメリットよりも、個人再生により借金を大幅に減額できるメリットのほうが大きい場合があります。
「個人再生をするとブラックリスト入りする」「個人再生をすると新たな借金やクレジットカードの利用が出来なくなる」「個人再生をするとカーローン中の車が引き上げられることがある」などと聞くと、デメリットに対する不安や心配、経歴に傷がつくことを恐れて、なかなか個人再生などの債務整理に踏み切れないという人も多いでしょう。
とはいえ、信用情報機関の情報は厳密に管理されており、加盟企業であっても目的外の理由で閲覧することは出来ません。手続きの流れからも、同居の家族以外に個人再生したことが知られてしまう恐れはほとんどありません。そのため、同居していない親族や勤め先からの信用が傷つくことはまずないでしょう。
また、借金の金額が多過ぎたり、借金の滞納があったりすると、それも金融機関や貸金業者にとってはマイナスの情報ですので、新たな借金をしようとしても審査に落ちることがあります。
借金総額が多いと、返済期間も長くなりがちです。無理をして長期にわたって返済を続けるよりも、一度個人再生をして、減額された借金を完済し、一定期間が過ぎるのを待ってから新たなローンをするほうが、結果として早くローンが組める、というケースもあり得ます。
特に、すでに借金を滞納して、金融機関等から督促状を受け取っている場合は、借金の滞納という理由ですでにブラックリスト入りしていますので、個人再生によるブラックリスト入りを恐れることには意味がありません。この場合は、弁護士に個人再生などの債務整理を依頼すると金融機関等からの督促や取り立てを止めることができますので、早めに相談されることをお勧めします。
個人再生をしていてもローン完済後の車や住宅は残せる?
個人再生をしても、すでにローンを完済しているのであれば、原則として車などの財産は手元に残すことができます。しかし、土地家屋などの高価な財産や、車でも高級車やクラシックカーなど財産的価値が高いものは、手元に残すのが難しい場合があります。
個人再生においては、「最低でも自己破産をした場合に手放すことになる財産の金額以上」を債権者に支払う必要があるという「清算価値保障の原則」があります。
自己破産をすると、不動産や、価値の高い財産は原則として裁判所により処分・換価されます。この金額よりも多くの金額を債権者に支払わなければならないというルールです。
【清算価値保障の原則】
例えば、Aさんが個人再生手続を希望しているとします。Aさんの借金総額が1,000万円だった場合、法律によれば個人再生により借金は減額され、5分の1の200万円になります。
しかし、Aさんが建物や高級車を所有していて、財産を守りたいと考えたとします。
仮に、Aさんが自己破産をした場合、持っている建物や高級車を裁判所によって処分されますが、その処分価格が合計500万円だったとします。
Aさんが財産を持ったままで個人再生手続を望むのであれば、最低でも、500万円以上の金額を債権者に弁済しなくてはなりません。
高価な財産を持っていると、その分、借金の減額幅が少なくなり、多くの借金を債権者に支払わなくてはならなくなる可能性があるのです。
このように、高価な財産を持ったままで個人再生手続きを行うのはデメリットがあります。また、個人再生手続自体が、複雑で手間のかかる手続きで、法律の専門家の助言やサポートを必要とします。
個人再生は、ルール上は本人だけでも取れる手続きですが、現実には弁護士に依頼して行うのが一般的です。個人再生手続を検討されている場合は、事前に債務整理に強い法律事務所に相談されることをお勧めします。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑