生活保護受給中に自己破産は可能?逆に自己破産後に生活保護は受けられる?

自己破産と生活保護の関係や、どちらの手続きを先にするべきかについて解説します。生活保護受給中であっても自己破産は可能ですし、自己破産していても生活保護は受けられます。自己破産は収入がなくても可能な唯一の債務整理であり、生活保護を受けている方の借金解決方法としては自己破産一択になります。生活保護受給中に自己破産をすると、法テラスを利用することで、立替費用返済が猶予される可能性があります。

生活保護受給中でも自己破産はできるのか?

生活保護を受けながら自己破産をすることは可能ですし、また、自己破産手続の後に生活保護申請をすることは可能です。また、両方の手続きを平行して行うこともできます。

自己破産は、借金の返済が困難な人向けに、裁判所に申し立てて、財産がある場合は財産を処分し、返済できない部分については「免責」という手続きにより返済義務を免除してもらう手続きです。

一方、生活保護は、持っている財産や能力では生活に必要なお金を得ることが難しい人向けに、憲法第25 条の理念に基づき、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度です。

事情があって収入がないか、あるいは少なく、生活に必要なお金が不足して借金の返済もままならない、という場合、生活保護と自己破産、両方の手続きに適しているため、どちらの手続きも行うことができます。

自己破産は収入がなくても可能?

自己破産は、法的な借金問題解決法である「債務整理」の中で、唯一収入がなくとも手続きが可能です。

借金問題解決には、一般的には次の手続きがよく用いられます。

(1)任意整理

弁護士が債権者と私的に交渉して、利息のカットや返済のリスケジュールを行います。借金の元本は原則として返済します。

(2)個人再生

裁判所を通した手続きで、借金を総額の5分の1程度(最大10分の1)にまで大幅に減額します。借金の元本まで減額されますが、完全にゼロにはならず、手続き後には減額された借金の支払い義務が残ります。

(3)自己破産

裁判所を通した手続きで、借金がゼロになります。その代わり、自分名義の土地家屋など一定金額以上の財産は裁判所によって換価され債権者に配当されます。

以上のように、任意整理や個人再生は手続き後も収入の中から一定の金額を借金の返済にあてなくてはなりません。自己破産だけが、手続きが無事に終わればすべての借金を支払わなくて良くなります。

生活保護は、収入がないか、収入があっても最低限度の生活を維持するにも足りない人のために、生活に必要なお金の受給を行う制度です。したがって、収入から借金を返済できる人向けの任意整理や個人再生は、生活保護受給中は原則として手続きできません。

生活保護受給をしている人、あるいは真剣に検討するほど生活に困っている人は、原則として自己破産以外の債務整理をすることができないと考えてください。

自己破産をするデメリット

自己破産にはデメリットもありますが、生活保護を受給することにより新たなデメリットが発生することはありません。以下に、一般的な自己破産のデメリットを紹介します。

(1)一定期間、新たな借り入れや分割払い、クレジットカードの利用ができない

自己破産をすると、5~7年程度、新規の借り入れや分割払い、クレジットカードの利用・作成等が難しくなります。これは、個人のお金の貸し借りの情報を記録する機関である「信用情報機関」の記録に自己破産の情報が載ってしまうからです。

信用情報機関は日本に3社あり、合法的な金融機関や貸金業者、信販会社等はその3社のいずれかに加盟して、新規の融資の申し込みがあった際は信用情報機関の記録を参考にお金を貸すかどうか決定します。分割払いやクレジットカードの審査も同様の仕組みになっています。

自己破産したことは、お金を貸す際にマイナス材料となる「事故情報(ブラック情報)」になります。信用情報機関の記録に自己破産などの債務整理の記録が載ることを、俗に「ブラックリスト入り」と言います。

一定期間が過ぎれば、自己破産の情報は削除され、またお金を借りることは可能です。

※生活保護受給中に借金をすると、生活保護受給に悪影響がある

生活保護を受けている間に借金をすると、「収入」とみなされ、生活保護費が減額されます。福祉事務所は、生活保護受給者の金融機関口座を調査する権限があるので、黙って借金をしてもばれてしまう可能性が高いのです。(生活保護法29条)

また、生活保護費を借金の返済に充てることも、不正受給とみなされる可能性があり、最悪の場合は生活保護が打ち切りになってしまいます。

(2)一定額以上の財産が処分される

自分名義の土地家屋や美術品、祖先由来の骨とう品など、売却価格20万円以上の財産がある場合、自己破産をすると財産が処分換価の対象となり、そのお金は債権者に配当されます。

生活に必要な家財道具や、売却価格が20万円未満の家電、中古車、ゲーム機などの品物は、手元に残せます。

(3)子供の奨学金の保証人になれない

子供がいる場合、進学に奨学金が必要でも、自己破産をしたあと5~7年程度は保証人になることができません。保証人が見つからなくとも、保証機関の保証を受けることで奨学金を受給できますが、保証機関に保証料を支払う必要があるので注意してください。

生活保護受給中に自己破産をするためのポイント

生活保護を受けている場合、自己破産をする際には「ケースワーカーに伝える」「法テラスを利用する」という2つのポイントがあります。

(1) ケースワーカーに伝える

自己破産することをケースワーカーに伝える義務はありませんが、円滑な生活保護受給のために、あらかじめ伝えたほうが良いでしょう。

ケースワーカーは、生活保護受給者の生活の維持や向上のために指導や助言ができます。指導に従わない場合は、生活保護が打ち切りになる場合があります。

ケースワーカーに黙って自己破産をすると、あとで発覚した際に問題になる可能性があります。また、福祉事務所には生活保護受給者の財産状況を調査する権限がありますので、隠し通すことも難しいと言えます。

事前によく話し合って、自己破産が必要な事情を了解してもらってから、自己破産をすることが望ましいでしょう。

(2) 法テラスを利用する

自己破産手続には30万円~80万円程度の費用がかかります。生活保護を受けている場合、国の機関である法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用することで、自己破産の費用の支払いが猶予され、最終的には免除される可能性があります。次の項で詳しく解説します。

生活保護受給中は立替費用返済が猶予される

生活保護を受けていると、法テラスを利用することで、自己破産の手続き費用を法テラスに立て替えてもらうことができ、返済が猶予されます。また、自己破産手続完了後も生活保護を受給している状態であれば、返済免除の申請ができます。

手続き方法は2パターンあります。

(1)法テラスに行き、弁護士を紹介してもらう

とくに弁護士のあてがない場合は、法テラスに行けば弁護士を紹介してもらえます。しかし、相性のよい弁護士に当たるとは限らないというデメリットがあります。

(2)法テラスと契約している法律事務所を探して手続きしてもらう

友人の紹介などで「この人がいい」という弁護士がいる場合、ホームページなどで法律事務所の公式サイトを調べて、法テラスと契約しているかどうかを確認しましょう。法テラスと契約している場合、法律相談の際に生活保護を受けていることを話せば、法テラスに弁護士が連絡して弁護士費用等の立て替え手続きを行います。

【法テラスの立て替え制度の仕組み】

法テラスの立替制度は、弁護士費用等を法テラスがかわりに支払ってくれるだけであり、費用は原則として分割払いで返済しなければなりません。しかし、生活保護を受けている場合は、返済が猶予されます。また、自己破産手続が終了したのちも引き続き生活保護を受けている場合は、返済そのものを免除してくれる可能性がありますので、申請を行いましょう。

法テラス「立替制度に関するよくあるご質問(https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/tatekaeqa.html#q10)」

生活保護と自己破産はどちらが先であった方が良いのか?

生活保護と自己破産、どちらを先にするかにはそれぞれにメリットとデメリットがあります。原則として、すでに生活が困窮しているのであれば、まずは生活を立て直すためにも、先に生活保護受給の手続きをとる方が望ましいでしょう。しかし、既に債権者から借金の取り立てや差し押さえなどがなされている場合、自己破産手続を先に行うメリットもあります。

【①生活保護→②自己破産の順で手続きする場合】

メリット

  • 早く生活費が欲しい場合、生活保護は14日以内に受給が決定されるため、次の月初からお金が受けとれる
  • 法テラスを利用することで自己破産費用が免除になる

デメリット

  • 自己破産以外の債務整理が難しくなる

【①自己破産→②生活保護の順で手続きする場合】

メリット

  • 自己破産を弁護士に正式に依頼すると、すぐに督促や取り立てがストップする
  • 債権者からの給与等の差し押さえを止めることができる
  • ケースワーカーに「先に自己破産をして借金問題を解決してから受給してください」と指導されることがある

デメリット

  • 破産手続完了までに3ヶ月~半年ほどかかる

【生活保護を先にしたほうがメリットは大きい】

生活保護と自己破産で迷っている場合、既にかなり生活に困っている状況と考えられます。手続き期間に3ヶ月~半年ほどかかり、事前の準備も必要な自己破産を先にするのは経済的な負担が大きいでしょう。

生活保護のケースワーカーが「先に自己破産を」と勧めるのは、生活保護で受給したお金を借金の返済に充てることが原則として認められていないからです。しかし、ケースワーカーの助言があっても、生活保護受給後に自己破産手続をとることは可能です。よく話し合い、生活保護を先に行う必要性を理解してもらうことが大切です。

また、自己破産しただけでは税金や社会保険料は免除になりませんが、生活保護を受けている場合、税金の支払いも免除になります。それ以前に滞納していた税金や社会保険料の滞納処分も猶予されます。早めに生活保護を受ければ、それだけ税金免除の恩恵も早く受けられます。

くわえて、生活保護受給後に法テラスを利用することで、弁護士費用等を法テラスが立て替え、最終的には免除する手続きも可能なため、先に生活保護を受けるほうがメリットが大きいと言えます。

【借金返済を滞納している場合は先に自己破産する手もある】

借金の返済が滞っている場合、生活保護を受けていても債権者からの督促や取り立ては止まりません。しかし、自己破産を弁護士に正式に依頼すると、直ちに弁護士から各債権者に「受任通知」が発送され、これを受け取った債権者は債務者に直接連絡することができなくなり、督促などを止めることができます。

また、債権者から給与や財産などの差し押さえを受けている場合、自己破産を裁判所に申し立てる手続きの中で、差し押さえをストップさせることができます。

このように、既に借金滞納で困った事態になっている場合は、早めに弁護士に相談して自己破産手続をとったほうが良い場合もあります。

生活保護受給中の自己破産は弁護士に相談を

生活保護受給中に自己破産をすることは可能ですし、自己破産手続中または手続後に生活保護を受けることも可能ですが、どちらを先にすべきかは、個別の状況によっても異なります。迷った場合は、自己破産の実績がある弁護士に相談し、アドバイスや助言を受けましょう。

自己破産などの債務整理は、お金に困っている依頼者のために、事前の法律相談を無料とする法律事務所が多いことが特徴です。そのため、気になる法律事務所があれば複数の問い合わせを行い、対応が良かった事務所を選んで自己破産手続を行うことも可能です。

経済的な事情で生活費の捻出も苦しい中、借金を無理に全額返済しようとする必要はありません。「こんな少額の借金で自己破産するのも…」と思い悩まれる方もいらっしゃるでしょうが、まずは一人で抱え込まずに、専門家に相談されることをお勧めします。誰かに打ち明けるだけで気持ちが楽になるケースも多いものです。

自己破産や生活保護を利用して、明るい人生を取り戻しましょう。

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑