お金の貸し借りに関する時効はどのくらい?いつ成立するのか解説
お金を貸したのに、なかなか返してくれない…
そんなお悩みを抱える方がたくさんおられます。
実際、お金を貸して回収までに時間がかかると「時効」が成立して返してもらえなくなる可能性があります。反対にいうと自分が借りている場合、長期にわたって返済していなければ返さなくて良くなる可能性もあるのです。
今回はお金の貸し借りに関する時効について解説します。
個人や法人としてお金を貸したのに長期間返してもらっていない場合、ぜひ参考にしてみてください。
目次
金銭消費貸借契約の時効について
お金の貸し借りは「金銭消費貸借契約」という一種の契約です。金銭消費貸借契約とは、お金を貸し付けて返済してもらう契約です。銀行借入やカードローンなども一種の金銭消費貸借契約です。
金銭消費貸借契約においてお金を貸した側(貸主)が借りた側(借主)へ返済請求する権利を「貸金返還請求権」といいます。
ただし貸金返還請求権は一定期間行使しないと消滅してしまいます。それが「消滅時効」の制度です。長期にわたって権利行使されないと、債務者は「もう権利は行使されないだろう」と期待するでしょう。一方、権利があるのに行使しない債権者を保護する必要もありません。
そこで法律では「一定期間権利行使されない場合」に消滅時効制度を適用し、債権を消滅させることにしています。
民法における消滅時効の制度
現在の民法における金銭消費貸借契約の時効が成立するのは、以下のいずれか早い方の時期です。
- 債権者が請求できると知ったときから5年
弁済期が到来して債権者が「請求できる」と知ったら、その時点から5年が経過した時点で時効が成立します。
- 請求できる状態になったときから10年
債権者が請求できる状態になったことを知らなくても、請求できる状態になってから10年が経過すると時効が成立します。
時効期間について、債権者が個人か法人かなどの違いはありません。どういった債権者であっても一律で上記の基準が適用されます
旧民法の場合の時効
実は近年、民法が改正されて時効期間の取り扱いが変更されました。
改正前の債権には改正前の民法が適用されます。
新しい民法が施行されたのが2020年4月1日からなので、それ以前に発生した貸金返還請求権については旧民法が適用される可能性があるのです。
旧民法の時効制度は現在のものとは異なるので、以下でみてみましょう。
営利目的の個人や法人が貸したお金の時効
旧民法では、当事者が営利目的を持っているかどうかで時効期間が異なります。
営利目的があると「商事時効」が適用され、原則的な民事時効よりも時効期間が短くなっていたのです。
たとえば営業性のある個人事業主や貸金業者などの法人が貸付をした場合、貸金返還請求権の時効は5年となっていました。営利目的による借り入れにも商事時効が適用されます。
商事時効が適用される場合、以下の期間が経過すると債権は消滅します。
- 請求できる状態になったときから5年
現行民法では「債権者が請求できることを知ってから5年」ですが、旧民法では「知っていたかどうか」は関係がありません。現行民法と旧民法では時効成立時期が異なる可能性もあるので、混同しないようにしましょう。
営利性のない個人がお金を貸した場合の時効
友人同士でお金の貸し借りをする場合など、営利性のない個人が金銭消費貸借契約を締結するケースもあります。
その場合、旧民法では「原則的な債権の時効」として「請求できる状態になったときから10年間」が適用されます。
たとえば友人にお金を貸して弁済期が到来し、その後10年が経過してしまったらお金の返還は請求できなくなる可能性があります(なお確定的に請求できなくなるのは、相手方が時効を援用した場合です)。
民法が改正された理由
旧民法では個人か法人か、営利目的を持っているかどうかなどの要素によって時効期間が異なっていました。上記以外にも「短期消滅時効」として、宿泊費用や医療費などの債権の種類により個別的に短期の消滅時効が定められていたのです。
ところが現代の感覚では、短期消滅時効を定める必要性があまりありません。
また場合によって時効計算方法が区区になると複雑なので、短期消滅時効の制度が廃止され、全体が統一されました。
現行民法では法人であっても個人であっても営利目的を持っていても持たなくてもすべて同じ時効制度が適用されます。
旧民法の規定と混同しないようにしましょう。
時効が迫っている場合に更新する方法
お金を貸していて相手が返済しないまま5年が経過すると、時効が成立して請求できなくなってしまいます。
時効の成立を防ぐにはどうすればよいのでしょうか?
債権者が時効の成立を防ぐには、時効を「完成猶予」させたり「更新」させたりする方法が有効です。旧民法では「時効の停止」や「中断」とよばれていた制度です。
完成猶予とは
完成猶予とは、時効の進行を一時停止させて一定期間、完成時期を延長する制度です。
たとえば訴訟を提起した場合、内容証明郵便で請求した場合などに時効が完成猶予されます。
更新とは
更新とは、時効の進行をなかったことにして当初の状態に巻き戻す制度です。
たとえば裁判で支払い命令が確定した場合には時効が更新されます。
貸付金の時効を更新する方法
お金を貸しているときに時効を更新するには、以下の方法をとりましょう。
債務承認させる
債務者が「債務があります」などと言ったり態度に表したりして「債務承認」すると、時効が更新されます。たとえば「支払います」と一筆差し入れた場合、債務の一部を支払った場合などです。
利子を支払っただけでも債務承認になるので、債権者が時効を止めたい場合には相手に「少しでもいいから支払ってほしい」と督促する方法が有効となるでしょう。
訴訟で権利を確定させる
貸付金を払わない相手に対して訴訟を起こし、権利を確定させると時効が更新されます。
確定判決による時効の期間は10年です。もともとの時効期間は「債権者が請求できるとしってから5年」の基準がありますが、確定判決になったら10年に延びます。
債務者の居場所が不明でも訴訟は起こせます。相手が長期にわたって支払いをしない場合、訴訟提起を検討してみてください。
強制執行する
公正証書や調停調書などの債務名義がある場合、相手の給料や預貯金などを強制執行しましょう。そうすれば時効が更新されます。
内容証明郵便で請求する
債務者へ請求をすると、6か月間時効の成立が完成猶予されます。その間に訴訟を起こして確定判決をとれば、時効の成立を防げます。時効が成立しそうなら、まずは内容証明郵便を使って相手へ請求するのが良いでしょう。
消滅時効の援用について
お金を借りた側が確定的に時効の効果を発生させるには「援用」しなければなりません。
援用とは「時効による利益を受けます」という意思表示です。
時効に必要な期間が経過しても、債務者が援用しなければ債権者は債務者へ貸したお金の返還を請求できます。
一方で時効が成立しても援用前に債務者が債務を承認した場合、信義則上債務者は時効を援用できなくなると考えられています。
債権者の立場としては「なるべく債務者に援用させずに支払わせること」、債務者の立場としては「時効が成立したらなるべく早めに援用すること」が重要といえるでしょう。
貸したお金の時効については近年の法改正によって大きく取り扱いが変わっており、対応するには正しい知識が必要です。迷ったときには気軽に弁護士まで相談してみてください。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑