債務不履行とは?種類や対処方法、時効について解説
債務不履行とは、果たさなければならない義務を行わないことです。
相手が債務不履行に該当する行為をすると、契約を解除したり損害賠償請求したりできます。
相手が約束を守らない場合にそなえて、債務不履行をされた場合の対処方法や時効についても知っておきましょう。
この記事では債務不履行の種類や効果、債務不履行をされたときの対処方法についてお伝えします。
目次
債務不履行とは?
債務不履行とは、法律上果たさなければならない義務を果たさないことを意味します。
果たさなければならない義務を「債務」といいますが、債務を果たさない(履行しない)ので債務不履行といいます。
債務不履行の具体例
債務不履行の具体例として、以下のようなケースがあります。
たとえば不動産の売買契約を締結すると、売主は不動産を引き渡して登記に協力しなければなりません。ところが不動産を引き渡さなかったり登記に協力しなかったりすると、売主の債務不履行となります。
一方、買主は代金を支払わねばなりません。それにもかかわらず代金を払わなかったら買主の債務不履行となります。
債務不履行の種類
債務不履行には以下の3種類があります
- 履行遅滞
- 履行不能
- 不完全履行
以下でそれぞれについてみてみましょう。
履行遅滞
履行遅滞とは、債務を期日までに履行しないことです。
たとえば2022年11月10日までに100万円を支払うと約束していたにもかかわらずその日までに支払いをしなかったら履行遅滞となります。
履行不能
履行不能とは、債務の履行ができなくなることです。
たとえば「A」という壺を売ると約束したにも関わらず、期日までにAの壺を割ってしまったら引き渡せないので、履行不能となってしまいます。
不完全履行
不完全履行とは、一応債務の履行はしたけれども給付内容が不完全なケースです。
たとえばBという商品を売り渡す契約をしたとき、一応Bを渡したけれども注文されたのと素材が異なっていたようなケースです。
債務不履行が起こった場合には、上記のうちどれになるのかも意識しておくと状況を整理しやすくなるでしょう。
債務不履行により請求できる内容
一方当事者が債務不履行を起こすと、他方当事者は債務不履行をした相手に対し、さまざまな請求をできる可能性があります。
以下でどういった請求ができるのか、みてみましょう。
約束通りの債務の履行
まずは約束通りに債務を履行させる方法が考えられます。たとえば相手が期日までに支払いをしない場合には、支払いをするように求めるのが有効な対処方法となるでしょう。
契約解除
債務不履行をされると、契約を解除できるケースが多数です。契約を解除すると、契約はなかったことになるのでお互いに原状回復をしなければなりません。
損害賠償
債務不履行によって損害が発生した場合、損害を受けた当事者は相手方へ損害賠償請求ができます。
ケースによってできることが異なる
債務不履行によって請求できる内容は、状況によっても異なります。
たとえば履行遅滞の場合、債権者は債務者へ債務の履行を求めることができます。相手があくまで履行しないなら強制履行もできるでしょう。不完全履行の場合でも、履行不能になっていなければ完全な履行を請求できます。
一方、履行不能になってしまっていたら完全な履行の請求はできません。できるのは解除か損害賠償請求のみとなります。
相手の債務不履行によって迷惑をかけられた場合には、状況に応じてどのような主張をできるのか、検討しましょう。
債務不履行責任と不法行為責任の違い
債務不履行責任と不法行為責任は違います。混同しないように違いを把握しておきましょう。
契約があるかないか
債務不履行責任と不法行為責任の大きな違いは、契約があるかないかという点です。
契約があって違反された場合には債務不履行責任となります。債務不履行責任を負うのは契約当事者のみです。
一方不法行為責任の場合、契約がなくても成立します。迷惑をかけられた場合、契約関係のない第三者が相手であっても不法行為責任を追及できます。
故意過失の立証責任
債務不履行責任と不法行為責任では、故意や過失の立証責任の所在も異なります。
債務不履行責任の場合、債権者が故意や過失を立証する必要がありません。
一方不法行為責任の場合、債権者が故意や過失を立証する必要があります。
立証責任の観点では、不法行為責任より債務不履行責任の方が債権者に有利になっているといえるでしょう。
時効の違い
債務不履行責任と不法行為責任では、時効も異なります。
債務不履行責任の時効(損害賠償請求)は以下のいずれか早い方の時期に成立します。
- 債権者が「請求できること」を知ってから5年間
- 請求できる状態になってから10年間
不法行為責任の場合、以下のいずれか早い方の時期に時効が成立します。
- 債権者が「不法行為と不法行為者」を知ってから3年
- 不法行為時から20年
債務不履行責任と不法行為責任は同時に成立するケースも多い
債務不履行責任と不法行為責任は、両方同時に整理するケースも珍しくありません。
そんなときにはどちらが自分にとって有利になるのか検討し、有利になる方を主張しましょう。
立証責任としては債務不履行の方が有利ですが、時効や相手方などの点で不法行為責任を追及すべきケースもあります。
迷ったときには弁護士に相談するのが良いでしょう。
債務不履行を受けた際の対応方法
相手が債務不履行を起こしたら、どのように対処すれば良いのでしょうか?
以下で対処方法をお伝えします。
完全な履行を求める
まずは完全な履行を要求しましょう。
履行不能にさえなっていなければ、債務不履行状態でも完全な履行を求められます。
たとえば100個注文したのに70個しか納品されなかった場合、残りの30個の納品を請求できます。
債務不履行に関して損害賠償を請求する
履行不能になっている場合や履行されてももはや意味がない場合などには、損害賠償請求を検討しましょう。
ただし損害賠償請求するには、債務者に故意過失が必要です。たとえば天変地異によって履行できなくなった場合などには基本的に、損害賠償請求できません。
なお金銭債務については、不可抗力によって債務不履行状態になっても損害賠償として遅延損害金の支払いを請求できます。
解除する
債務不履行されると、原則的に「相当期間」を定めて履行を求め、その期間内に履行がない場合に契約の解除ができます。
一定の場合には催告なしに解除できるケースもあります。これを「無催告解除」といいます。
強制執行を行う
相手が任意に債務を履行しない場合、強制執行をして権利を実現しましょう。
強制執行とは相手の資産を差し押さえるなどして強制的に権利を実現する手続きです。
たとえば相手の預金を差し押さえて金銭債権を回収したりできます。
債務不履行による損害賠償請求の時効は?
債務不履行にもとづいて損害賠償請求権が発生する場合でも、損害賠償請求権には「時効」が適用されるので要注意です。
債務不履行の損害賠償請求権の時効は以下の通りです。
- 債権者が請求できると知ってから5年
- 請求できる状態になってから10年
いずれか早い方の時点で時効が成立してしまうので、債務不履行によって損害が発生したなら早めに請求するのが得策といえるでしょう。
ただし訴訟を起こせば時効の成立を止められますし、訴訟前に内容証明郵便などで請求すれば時効の成立を6か月間延ばせます。その間に訴訟を起こせば権利を保全できるので、間に合わないときには取り急ぎ内容証明郵便による請求をするようおすすめします。
時効を止める適切な方法がわからない場合には、早めに弁護士に相談しましょう。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑