任意整理をするとどれくらい返済額が減る?

債務整理の一種である任意整理をすると、なぜ返済額が減るのか、仕組みをご説明します。具体的にどれくらい返済額が減るのか知りたい人向けに、計算方法や減額される借金の内容、任意整理の対象となる借金とならない借金、注意すべきポイント、任意整理に向いた人についてまとめました。任意整理では原則として元本は減額できませんが、例外的に元本も減額できるケースがあります。

任意整理によって月々の返済額が減るのはなぜ?

任意整理とは、借金をした本人、または弁護士や司法書士が金融機関や貸金業者、カード会社などと話し合うことで借金を減額してもらう借金の整理方法です。

※この記事では借金をした人を債務者、お金を貸した人を債権者と呼びます。

裁判を通じた手続きではないのに、債権者がどうして借金を減額してくれるのか、不思議に思いますよね。確かに、債務者本人が直接交渉すると、相手方のペースで話を進められ、思うような和解案を引き出せないことがあります。

しかし、法律の専門家である弁護士や司法書士が間に入ることで、現実には多くの債権者が利息カットなどを行ってくれます。なぜかというと、任意整理が決裂すると、その次に裁判所を通した手続きに移行される可能性が高いからです。

裁判所を通した手続きには、自己破産と個人再生があります。自己破産の場合は借金が帳消しになるため、債権者は1円も回収できない可能性が高くなります。個人再生の場合も、借金総額の最大5分の1~10分の1まで大幅カットされます。

貸した側としては、自己破産や個人再生をされて元本が回収できなくなるくらいなら、貸した金額は回収できる任意整理に応じた方が得、というわけです。

とはいえ、任意整理に応じない債権者や、交渉が決裂する債権者も中にはいます。その場合は裁判所を通じた手続きをとることになります。

任意整理でどれくらい借金を減額できる?

任意整理において減額が期待できるのは、利息と、場合によっては遅延損害金で、借金の元本は通常は減額できません。残った元本は3~5年の分割払いで返済します。

利息の計算方法

借金の利息の金額は、次の計算式で算出することができます。

借入総額×年率÷365日×借入日数

例えば、消費者金融から100万円の借金をして3年かけて返済することにし、年利は15%だったとすると、当初の契約のまま利息込みで支払う場合は月約3万4,665円の支払いになります。

しかし、任意整理により、利息をカットしてもらえた場合、月々の支払額は約2万7,778円にまで減ります。任意整理をするだけで月々6,887円の減額が見込めます。

実際には、以下のような個別の事情が考慮されるので、計算はもう少し複雑になります。

  • すでに返済した金額
  • 複数の金融機関や貸金業者から借りている場合
  • 返済までの期日が短い借金
  • 分割回数
  • ボーナスを利用した支払いの有無
  • リボ払いの利用の有無

近年では、借金額や利率などを入力することで、支払総額や利息額、毎月の支払額をシミュレーションしてくれるサイトもあります。私企業の他に、金融庁が提供する「借金シミュレーター(https://www.fsa.go.jp/teach/simulation/dept.html)」等もありますので、こうしたサイトを利用して計算を行うと良いでしょう。

借金をすでに滞納している場合

借金の返済を滞納してしまっている場合には、利息のほかにさらに遅延損害金が発生します。消費者金融から借り入れをしていた場合、利息制限法7条1項により、遅延損害金の上限利率は年20%となっています。この場合は、早急に任意整理を弁護士等に依頼した方がよいでしょう。

任意整理で減額できる借金の内容

任意整理で減額ないし免除が期待できるのは、①経過利息、②将来利息及び将来手数料、③遅延損害金の3つです。借金の元本は原則として減額できません。また、①②③すべての減額に応じる業者もありますが、業者の対応や個別の事情によって、一部の減額にしか応じないケースもあります。

任意整理で減額できる借金の額は、依頼する法律家の交渉能力によっても異なってきます。なるべく、債務整理が得意で、評判の良い専門家を選ばれた方がよいでしょう。

経過利息の免除と経過利息

経過利息とは、弁護士に任意整理を依頼し、手続きを開始してから債権者との和解の日までに発生する利息のことです。本来ならば、借金を最後に返済した日の翌日から利息が発生するはずですが、弁護士を通じて交渉する際は、この経過利息をカットしてもらうよう交渉します。

経過利息がすべてカットされるかどうかは、債権者によって対応が異なります。近年は過払い金請求などで余力のない貸金業者も増えているので、経過利息のカットに応じない業者も増えています。

将来利息および将来手数料の免除と将来利息

将来利息とは、金融機関や貸金業者等と和解が成立した日以降に発生する利息のことで、任意整理を行うと原則として免除してもらうことができます。将来手数料とは、同じく和解日以降に発生する金利手数料のことで、こちらも免除されます。

任意整理でカットされる利息とは、将来利息のことか、あるいは将来利息と経過利息のことを指します。すでに支払った分の利息は原則として返ってきませんので、注意して下さい。

遅延損害金の免除と遅延損害金

遅延損害金とは、利息とは別に、借金の返済を滞納した時に発生する損害賠償金です。決められた期日までに返済できなかった場合、返済予定日の翌日から遅延損害金が発生します。

遅延損害金の利率は、消費者金融からの借り入れの場合、利息制限法7条1項の規定により、上限利率が年20%となっています。詳しくは、個別の借金の契約書で確認してください。

たとえば、100万円を年15%の利率で借りていた場合、支払いを遅延すると、利息の他に、年20%の遅延損害金が追加でかかります。

元本が100万円以上の借金の場合、利息の上限利率は15%ですが、遅延損害金は上限利率20%と利息よりも多くとることができます。そのため、借金があっという間に雪だるまのように膨らむことになります。

また、長期間にわたって借金を滞納していた場合、業者によっては、弁護士等に任意整理を委任した時点までに発生した遅延損害金はカットに応じないという債権者もいます。

元本は原則として減額されない

任意整理では、借金の元本は原則として減額されず、100万円を借りた場合は元本の100万円は返さなくてはなりません。ただし、例外的に元本を減額できるケースがあります。

①過去に返済した借金の中に過払い金があった場合
②家族等の援助により一括返済が可能な場合

①過去に返済した借金の中に過払い金があった場合

13年以上にわたって同じ業者と借金の取引をしていた場合、過払金が発生している可能性があります。過払金とは、利息制限法に定められた上限利率よりも支払いすぎた利息のことを言います。

過払金が発生している場合は現在の借金と相殺して減額したり、過払金が多い場合は返還請求をしたりすることもできます。過払い金があるかどうかは、専門家に任意整理を依頼すると、正確な借金の金額を算出する際に調査してくれます。

もっとも、過払金が発生する原因となった法制度は2010年6月に改正されており、それ以降にした借金については、合法的な企業からの借金である限り、過払金は発生していません。その為、過払金で借金の額が大幅に減るケースは少なくなっています。

②家族等の援助により一括返済が可能な場合

貸金業者等は分割払いよりも、今すぐに一括で支払ってくれるならば一括での返済を好みます。その方が確実にお金を回収して、すぐに次の顧客に貸し出すことができるからです。

そのため、家族の援助等があって一括で借金残額の大半が支払えそうな場合は、元本に少し足りなくても交渉に応じて借金を減額してくれることがあります。

①②に当てはまらないが、元本まで減額したい場合

借金の負担が大きく、3~5年の分割払いで元本を返済できそうにない場合は、借金の元本まで減額または免除が可能な、「個人再生」ないし「自己破産」という選択肢があります。

任意整理の対象となる場合とならない場合

任意整理の対象として向いている借金は、主に消費者金融などの貸金業者からの借金や、クレジットカード会社のキャッシングなどです。これらの借金は利率が15%~20%と高めに設定されていることが多いので、利息分をカットするだけでも月々の返済負担がだいぶ軽減します。

逆に言うと、奨学金やビジネスローンなど金利が低く設定されている借金は任意整理をするメリットが少ないといえます。また、保証人がついている借金や、家賃の滞納分などは、任意整理を行うことはできますが、リスクを伴うため注意が必要です。

税金や社会保険料、罰金などは、任意整理はもちろん、どのような債務整理方法によっても減額することができません。

①奨学金、ビジネスローンなどの低金利の借金

奨学金の利率は上限金利が3%に設定されており、進学希望者が利用しやすいように配慮されています。

また、ビジネス向けの借金として日本政策金融公庫の融資制度や、銀行の融資、民間の金融機関や消費者金融が提供するビジネスローンなどがあります。このうちビジネスローンは無担保・連帯保証人なしで利用でき、その分金利が高めですが、2~3%の年利で借りられる場合もあります。

このように金利が低い借金は、任意整理をしても借金が減った実感が少なく、手続きの手間や弁護士費用などの割に合わないと感じるかもしれません。

奨学金については、支払いが難しくなった場合の返還猶予や減額などの制度が設けられていますので、こうした制度の利用を検討してください。

②保証人が付いている借金

借金に保証人が要る場合、債務者が任意整理をすると、減額された分の借金を保証人に支払うように請求が行き、迷惑が掛かってしまいます。

任意整理の場合は、保証人がある借金を整理の対象外とすることで、保証人に迷惑をかけずに借金を減額することができます。

③家賃の滞納分

滞納している家賃は任意整理の対象とすることが可能です。しかし、家賃を任意整理の対象にしてしまうと、物件のオーナーや管理会社などから裁判所に建物明渡請求を提起され、家から強制退去させられる恐れがあるので、あまりお勧めできません。また、家賃に連帯保証人がいる場合は、連帯保証人に滞納分の家賃の支払い請求が行きます。

④税金や社会保険料、罰金など

税金や社会保険料、罰金などといった公的機関に支払うお金は支払い義務が特に重たく、たとえ自己破産をしても支払わなければなりません。当然ながら、任意整理の減額対象にはなりません。

税金等の支払いが困難な場合は、所管の税務署に早めに相談することで、分納などの措置をとってもらうことが可能です。

任意整理が向いている人

①安定した収入があり、借金の元本を3~5年で返済できる人

パート・アルバイトや派遣社員でも、将来にわたる一定の収入があり、そのうち一部を返済にあてられる場合は、任意整理が可能です。無職・無収入の人は任意整理はできません。

②周囲に借金を整理したことがばれたくない人

任意整理は弁護士等を通じた私的な話し合いのため、裁判所を通した手続きのように様々な書類を提出したりする必要がありません。借金のことを同居の家族にも秘密にしておきたい場合は、弁護士に事前に相談すれば、郵便物の封筒を法律事務所だと分からないようにするなど、連絡方法を工夫してくれます。

③保証人のある借金、勤め先からの借金などがある人

任意整理では整理の対象を選べるので、保証人のある借金や勤め先・恩人からの借金など、迷惑をかけたくない相手が絡んだ借金を整理対象から外すことができます。

④借金の返済を滞納している人

任意整理を弁護士等に依頼すると、弁護士等が受任通知を債権者に送付します。受任通知を受け取った債権者は、以降、借金に関する問い合わせや督促を直接債務者にすることができなくなり、連絡は弁護士を通すことになります。借金を滞納し、督促に悩まされている債務者は、以降債権者からの連絡に悩まされずに済みます。

また、交渉により、滞納のペナルティである遅延損害金のカットが期待できるため、任意整理を行うメリットが大きいといえます。

 

 

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑