自己破産でできなくなる仕事や制限期間、自己破産後の給料やボーナスはどうなる?
自己破産すると、仕事ができなくなるのでしょうか?
一般的な仕事の場合、自己破産によってできなくなることはほとんどありません。給料や退職金についても通常通り受け取れます。ただし仕事内容によっては自己破産で制限されるものもあります。
今回は自己破産した場合の仕事への影響について解説します。
破産した後の働き方や給料などが心配な方はぜひ参考にしてみてください。
目次
自己破産した場合の仕事への影響
自己破産をしても、仕事に影響するケースは少数です。
ほとんどの方は破産前と同じように仕事を継続できますし、給料や退職金も受け取れます。
破産したことを会社に知られる心配もほとんどありません。
ただし一定の職業について「資格制限」によってできなくなる可能性があります。
資格制限とは、一定の資格や職業が制限されることです。
自己破産の手続き中は資格制限を受けるので、該当する職種の方は制限を受ける期間に仕事ができなくなってしまいます。
自己破産しても会社に知られない
自己破産する場合、会社に知られたくないと考える方が多数です。ただ自己破産したからといって会社に知られるわけではありません。裁判所や債権者から勤務先に通知されることはないからです。
ただし以下のような場合には会社に知られる可能性があります。
会社から借り入れをしている
会社から借り入れをしている場合、会社を破産手続きの債権者に数えないといけないので破産を知られます。
退職金証明書をもらうときに感づかれる
自己破産するときに必要な退職金証明書は、会社に出してもらわねばなりません。
会社に退職金証明書を申請するときに理由をうまく説明できないと、「破産や個人再生をしているのではないか?」と感づかれる可能性があります。
金融機関の場合
金融関係の仕事の場合は、会社も官報をみていることがあり得るため、その場合には、知られる場合もあります。
自己破産しても解雇されない
自己破産を会社に知られても、基本的に解雇されることはないと考えましょう。
法律上、雇用者が従業員を解雇するには厳しい要件を満たさねばなりませんが、自己破産は解雇理由にならないからです。
破産はプライベートな事情であり、きちんと仕事をしているのであれば解雇する理由になりません。
以上のように、基本的には会社に自己破産を知られるリスクは低く、知られたとしても解雇はされないのが実情です。
ただし,現実の問題としては,不利益な扱いを受ける可能性はあります。
自己破産で制限される仕事はどういったものがあるか?
自己破産するときに「資格制限」によってできなくなる仕事や資格には以下のようなものがあります。
- 弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、宅建士などの士業
- 警備員、警備業者
- 生命保険の外交員。新規に登録することはできません(保険業法307条,277条1項1号)。任意取消(307条)
- 質屋
- 貸金業
- 卸売業者
- 調教師
- 騎手
- 旅行業者
- 司法修習生
上記はすべてではなく、他にも制限される資格はあります。
一方、医師や看護師などの医療職、一般の公務員などは資格制限の対象になっていません。
仕事を制限される期間はどれくらい?
自己破産の資格制限によって仕事を制限される期間はほとんどのケースで「破産手続開始決定時」から「免責決定が確定するとき」までの間です。
具体的にどのくらいかかるかについては、自己破産の手続きの種類によって異なります。
以下でそれぞれみてみましょう。
同時廃止の場合
同時廃止とは、財産があまりない方で免責不許可事由にも該当しないケースで適用される簡単な破産手続きです。
同時廃止の場合には、破産手続開始決定から免責許可決定が確定するまで、だいたい3か月程度です。この3か月間が資格制限される期間と考えましょう。
管財事件の場合
管財事件とは、財産が一定以上ある方や免責不許可事由のある方に適用される原則的で複雑な破産手続きです。管財事件の場合、免責許可決定が出るまで同時廃止よりも多少長くかかります。
仕事が制限される期間はだいたい半年~8か月くらいと考えるとよいでしょう。
なお免責許可決定を受けられなかった場合には、破産手続開始決定から10年が経過すると制限が解除されるケースが多数です。
職業制限に該当する職業の場合、解雇されるのか?
資格制限を受ける仕事の方が自己破産すると、職を失う可能性があります。
リスクがあるのは以下のような仕事です。
たとえば商工会議所や信用金庫、日本銀行の役員については、自己破産中に就任できません。破産手続開始決定があると解任されてしまいます。
一般的な会社の役員(取締役や監査役など)は資格制限の対象ではありませんが、自己破産が委任契約の終了事由となっています。
よって、自己破産するといったん退任しなければなりません。ただし会社役員の場合、資格制限の対象ではないのですぐに再任されて復帰できます。
公務員の中でも公正取引委員会や教育委員会の委員、人事院の人事官などは資格制限の対象になるので、破産手続開始決定を受けると罷免される可能性があります。
開業している弁護士や司法書士などの場合、破産手続き中は事務所を一時的に閉鎖するか、他の人に代わりに運営してもらう必要があるでしょう。
これら以外の一般の会社員は自己破産によって解雇されるリスクは非常に低いといえます。
たとえば警備会社に勤務している警備員や不動産会社に勤務している宅建士であっても、破産手続き中は内勤に変えるなどの工夫をすれば雇用を維持できます。こうした努力をせずにいきなり解雇すると法律上の問題が発生しうるので、そういった対応をとる企業は少数でしょう。
資格取得に制限はあるのか?
自己破産で資格制限を受ける場合、資格の取得もできなくなるのでしょうか?
たとえば弁護士になるための司法試験や司法書士になるための司法書士試験、税理士試験などを受けられなくなるのかが問題です。
基本的に、資格制限を受けているからといって試験自体を受けられなくなるわけではありません。自己破産を理由に不合格となることはありません。
ただし資格制限を受けている状態では、合格したとしても、各資格の登録ができません。
たとえば司法試験に合格しても司法修習生になれませんし、司法書士試験に合格しても証書士としての登録ができず活動できないのです。
なお資格制限を受ける期間は数か月間なので、なりたい仕事があるなら勉強をして合格を目指すと良いでしょう。
自己破産したあとの給料やボーナスはどうなる?
「自己破産をすると、給料やボーナスを受け取れなくなるのでは?」と心配される方もいます。
ただ自己破産をしても給料やボーナスへ基本的に影響はありません。破産手続開始決定後に発生する給料やボーナスは満額受け取れます。
ただし破産手続開始決定前に確定していた給料は「破産手続開始決定時に存在していた」ことになるので、破産管財人によって換価される可能性があります。
また破産手続開始決定前に受け取った給料やボーナスについては、預貯金などの形で残っていれば破産管財人によって換価される可能性があります。生活費などに使ってしまっていたら問題になりません。
退職金がある場合、退職金は受け取れるのか?
退職金のある方の場合、自己破産するとどのような影響があるのでしょうか?
既に退職済みの場合
既に退職して退職金を受け取り済みの場合、預貯金などに形を変えて退職金を保管しているはずです。その場合、以下の金額を超えると破産管財人によって債権者へ配当されます。
- 現金の場合、99万円までが自由財産として換価されない財産として認められることが原則ですが、例外もあります。
- 預金などの現金以外の資産の場合、個別に20万円まで自由財産として換価されない財産として認められることが原則ですが、財産の種類により扱いが一部異なります。
すでに使ってしまって上記を下回る場合には換価や配当がされないことがあります。
ただし、上記の金額以下の場合であっても、財産の総額が99万円を超える場合は、99万円を超過する部分は原則換価されることになります。その他、裁判所の運用により扱いが異なる場合があります。
まだ退職金を受け取っていない場合
退職が決定しているけれどまだ退職金を受け取っていない場合、退職金額の4分の1が換価の対象になります。この場合、まだ退職金が入っていないので、破産者が自分でお金を用意して管財人にお金を渡さねばなりません。
退職金の4分の1の金額が20万円未満の場合、処分対象にはなりません。
退職予定がない場合
退職予定がない場合、退職金見込額(将来退職したら受け取れる金額)の8分の1が配当の対象になります。このお金についても破産者が自分で用意する必要があります。
この場合にも退職金の8分の1の額が20万円未満の場合、処分対象になりません。
自己破産をしても仕事には影響が及ばないケースがほとんどです。借金返済が苦しい場合、仕事への影響を過度に心配せずに弁護士などの専門家に借金問題を相談してみましょう。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑