サービサーから通知が来たらどう交渉する?
サービサー(債権回収会社)について、交渉のコツや、連絡があった場合の対処法についてまとめました。サービサーは国に認められた債権回収を行う民間業者で、金融機関から債権を買ったり、債権回収を委託されたりして取り立てを行います。交渉の際は本物のサービサーかどうかを確認し、どんな理由で債権の取り立てをしているのかチェックしましょう。弁護士に相談する際に踏まえるべき点についても解説します。
目次
サービサーとは
サービサーとは、債権回収会社のことです。金融機関や貸金業者などから、回収が困難だと判断された債権の回収を委託されたり、あるいは債権を譲り受けたりして、債権の請求や債務者との交渉、回収などを行う民間の企業です。
ここでいう債権とは、簡単に言うとお金を支払ってもらう権利のことで、お金を支払う義務を負う人のことを債務者と言います。
金融機関や貸金業者への借金を滞納していると、ある日、サービサーから通知が届くことがあり、「これはどんな会社だろう?」と首を傾げられる方もいることでしょう。
日本では、かつては弁護士または弁護士法人以外の者が債権の回収を行う法律によって禁止されていましたが、不良債権の処理促進のために、「債権管理回収業者に関する特別措置法(サービサー法)」が1999年に施行され、一定の条件を満たした企業のみがサービサーになれるようになりました。
「借金の取り立て」というと、やくざが出てくるような怖いものをイメージする人も多いと思います。しかし、実際のサービサーは法務大臣の許可を得て、国の監督を受けながら、債権管理・回収業を行っています。
サービサーと認められる条件は厳しく、「資本金が5億円以上の株式会社」「常務取締役の1名以上に弁護士が含まれる」「暴力団員の関与がない」と言った条件があります。
サービサーは債権回収のプロですので、一般的な金融機関や貸金業者よりは強硬で積極な手段を取ってきますが、きちんと法律を守り、不法な取り立てはしてきませんのでご安心ください。
◆債権の譲渡と不良債権
債権は他人に譲ったり売ったりすることができます。
例えば、銀行が100万円をAさんに貸したとします。Aさんが滞りなく返済を続ければ100万円が返ってきますが、Aさんの返済が滞り、督促にも応じなくなると、そのままではお金を支払ってもらうことができません。これを不良債権と言います。
この際、この借金の不良債権を50万円で債権回収会社に売ると、銀行は損をしますが、50万円は確実に手元に入ります。1円も返ってこないよりはましですし、お金を返してくれない面倒な債務者に対して督促や交渉、裁判を起こすなどの手間暇を省くことができます。
実際は、金融機関などは債権を大量に売りに出しますので、債権の売却価格はもっと低くなります。
他方、サービサーは債権を安く買っていますので、債務者が購入金額よりも多く支払ってくれれば儲けが出ます。もちろん、債権の額面通り100万円すべて支払ってくれれば言うことはありません。
そのため、積極的に様々な債権回収の手段を使ってきますし、債務者が交渉に応じなければ裁判所を通じた法的手段にも訴えてきます。他方で、債務者側の対応によっては、借金の減額交渉にも応じてくれやすいという特徴があります。
サービサーとの交渉のコツ
サービサーと交渉する際には、まず、「債権が譲渡(売買)されたのか、それとも回収を代行しているだけなのか」について確認しましょう。サービサーとの交渉の際に非常に重要なポイントになります。
(1) 債権譲渡の場合
債権譲渡の場合は、それまで金融機関との話し合いでなかなか減額交渉に応じてくれなかった場合でも、債権者がサービサーに代わったとたんすんなり減額交渉に応じてくれる場合があります。
債権譲渡の場合、金融機関はかなりの安値で債権を手放しています。そのため、債権を減額しても、サービサーとしては購入金額よりも利益が出ることになります。
債務者との交渉において、「減額交渉に応じればきちんと債権を支払ってくれる」という印象をサービサーが抱けば、早々に債務者に有利な形での決着もあり得ます。
この場合は、サービサーに債権が渡ったことを必要以上に不安がることはありません。むしろ、過剰な借金を減額できるチャンスがある流れになったと言えます。
◆交渉のポイント
とはいえ、サービサーはもちろん、可能なら債権を全額回収したいと思っています。サービサーは交渉のプロですから、債務者が弱気な態度でいると、債権者優位に話を進めて減額交渉が決裂する可能性もあります。
しかし、債務者が債務整理を得意とする弁護士に依頼しておけば、サービサーもそうそう強気に出ることは出来ません。プロ対プロの戦いになるからです。万一、サービサーが法的に問題のある取り立てをすれば、弁護士はすかさずこれを逆手にとって交渉を優位に進めることもできます。
交渉ごとに自信のない人であれば、サービサーに債権譲渡が行われた場合でも、弁護士に依頼して減額交渉をするのが良いでしょう。
弁護士を通さず、ご自身でサービサーと交渉される場合は、サービサーの業務の性質を理解したうえで、「減額交渉に応じたほうが素早くスムーズに債務の支払いがされる」「交渉に応じたほうが、サービサー側のメリットが大きい」ことをポイントに、説得・交渉しましょう。特に、減額後であれば一括返済が可能な場合、思い切った減額にも応じてくれる可能性があります。
弁護士を通さなかった場合、口約束での交渉妥結では後々トラブルになる恐れがあります。和解の内容を書面にして、返済内容をよく確認したうえでサービサーと和解取書を取りかわしてください。
◆サービサーの債権を債務者が買い取る
会社の代表者の破産や会社の整理、M&Aに関しては、まず、金融機関と交渉して自社の債権をサービサーに買い取ってもらい、その後、その債権を債務者又は関係者が買い取ってしまうという再建方法もあります。
金融機関がサービサーに債権を売却する金額は、1~5%程度と非常に安価です。この方式をとる場合、債務者側としては、それなりに高い金額での債権の買戻しを提案することになります。そうすることにより、サービサーに利益が生まれるので、交渉が成立します。
(2)債権回収を委託された場合
サービサーが金融機関等から債権回収業務の委託を受けて債権を回収している場合、サービサーとしては回収のプロとしての腕を買われて、お金を受け取って業務を行っているので、必ずしも減額交渉に応じてくれるとは限りません。
また、サービサーは民間業者ですので、あるサービサーとは減額交渉が妥結しても、他のサービサーとは同じような条件ではまとまらないことがあります。
サービサーが債権譲渡ではなく、債権回収の委託を受けて動いている場合は、一般的には借金の減額に応じてくれるハードルが上がります。債務額が大きい場合など、少しでも負担を軽くしたい場合は、弁護士に依頼して債務者の代わりに交渉してもらうのが最善です。
サービサーから連絡があった場合の対処方法
サービサーから通知があった場合は、まず、その会社が本物の国の認定を受けた債権回収会社かどうか確認してください。その後、その請求が債権譲渡か、金融機関から債権の回収を委託されたのかをチェックします。
(1)本物のサービサーかどうか確認する方法
連絡が来た段階で本物のサービサーかどうかを確認するのは非常に重要です。サービサーを騙る詐欺集団が存在するため、身に覚えのない場合は連絡を無視し、債権の請求には絶対に応じないでください。
ただし、本物のサービサーから連絡が来た場合は、無視するのは危険です。放置すると、裁判所への申し立てにより強制執行が行われ、給料などを差し押さえられるおそれがあります。
①名前と住所が認定を受けた会社か確認する
国により認定された正式なサービサーは、法務省のサイトに、名前や住所、代表者氏名、電話番号などが掲載されています。令和5年7月現在、正式なサービサーは全国に75社しかありません。まずはこちらで、正式な会社か確認してください。
「債権管理回収業の営業を許可した株式会社一覧(https://www.moj.go.jp/housei/servicer/kanbou_housei_chousa15.html)」
注意しなくてはならないのが、名前や住所、電話番号などが一字だけ違っているなど、非常に紛らわしい会社があることです。このような会社は詐欺集団ですので、通知と照らし合わせて、一字一句丁寧に確認されることをお勧めします。
②サービサーが取り扱えるのは「特定金銭債権」
サービサーはどんな債権でも取り扱えるわけではなく、住宅ローンなどの金融機関や貸付業者が持っていた債権、リースやクレジットカードの債権、事業用融資の債権などが対象です。
他方で、以下のような債権は特定金銭債権ではないので、サービサーは取り扱いできません。
【サービサーが取り扱えない債権】
- 家賃や敷金等の債権
- 金融機関ではない一般の会社や個人が持つ売掛金債権
- 金融機関ではない会社や個人の貸付債権や損害賠償請求権
- 自社販売で分割回数が1回または2回の分割払いに関する債権
例えば、アダルトサイトや動画サイトの閲覧に関する料金や、犯罪などの不法行為に対する損害賠償請求権について、サービサーから通知が来たら、それは詐欺集団なので、連絡を取らないでください。
また、サービサーが取り扱える金融機関からの債権であっても、借金額や契約内容などが身に覚えがない場合も、詐欺を疑って下さい。
万が一、詐欺集団に連絡を取ったり、交渉に応じたりすると、非合法な犯罪者たちですので、どんな悪質な手段をとってくるかわかりません。また、「この人は詐欺に引っかかりやすい」と、闇の世界のリストに載ってしまい、繰り返し詐欺にあう恐れがあります。
(2) 債権譲渡か、債権の回収を委託されたのか
こちらも、通知の内容から、どちらの理由でサービサーが動いたのかをチェックします。どちらの理由が、交渉の方針や、減額交渉の難易度が変わってきます。
サービサーとの交渉の弁護士への依頼方法
サービサーとの交渉は、債務整理に実績のある法律事務所の弁護士に依頼することをお勧めします。弁護士と一口に言っても得意分野があります。法的な借金問題解決の手段である「債務整理」の手続に関し実績があり、強気の交渉ができる弁護士に依頼すれば、減額交渉を有利に進めることができます。
サービサーからの通知を受け取ったら、以下の理由から、早めに弁護士に相談して対応の方針を定めることをお勧めします。
(1)弁護士に頼むと督促が止まる
サービサーから通知が来たということは、すでに債権の支払いを滞納している状態ですが、弁護士にサービサーとの交渉を含む債務整理を依頼すると、他の金融機関等を含めたすべての督促をストップすることができます。
これは、弁護士は債務整理の受任時に「受任通知」という文書を各債権者に送付し、これを受け取った債権者は以後、直接債務者に連絡を取ることが出来ず、弁護士を通してしか連絡が出来なくなるというルールがあるからです。
(2)すでにブラックリスト入りしており、債務整理をするデメリットがない
サービサーから通知が来た時点で、債務者の信用情報には傷がついてしまっている状態です。すでにブラックリストに入っているので、数年間は新たな借り入れやクレジットカードの使用が難しくなっています。そのため、債務整理の最大のデメリットである「ブラックリスト入り」を気にする必要がなく、借金の整理を弁護士に依頼できます。
日本の金融機関や貸金業者、クレジットカード会社などは、信用情報機関という組織に加盟しており、この機関には個人の借金のやり取りの記録が保存されています。ここに借金の滞納や債務整理といった情報が記録されると、事故情報として、その後一定期間は新たな借金やクレジットカードの作成・使用が難しくなります。これを俗にブラックリスト入りと言います。
弁護士に依頼して債務整理を行う最大のデメリットが、このブラックリスト入りなのですが、サービサーからの通知の時点で、すでに借金の滞納を理由にブラックリスト入りしているので、新たなデメリットが発生することなく借金の整理ができます。
(3)借金整理の方法を専門家と検討できる
借金問題が比較的軽微であれば「任意整理」という社会的影響の少ない債務整理が可能になります。これは、裁判所を通さずに、弁護士がサービサーを含む債権者と私的に交渉して、借金の利息のカットやリスケジュールなどを交渉する手続きです。
しかし、借金の額や債務者の状況によっては、裁判所を通した「個人再生」や「自己破産」と言った手続きのほうがより適切であるケースもあります。弁護士に相談すれば、依頼者個人の状況にとって最適な債務整理をアドバイスしてくれます。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑