過払い金は銀行カードローンでも発生するのか
過払い金は銀行カードローンでは発生しませんが、よく似ている銀行系のクレジットカードでは発生している可能性があります。過払い金の性質と、銀行カードローンでは発生しない理由、銀行系のクレジットカードで過払い金が発生する条件、過払い金の確認方法などを概説します。過払い金の有無や額の調査は弁護士に依頼することがお勧めな理由も紹介します。
目次
過払い金はどういったものか
過払い金とは、利息制限法の上限を超える利率で支払っていた利息のことを言います。過払い金がある場合、業者に請求することで返金してもらえます。
借金の利息は、かつては「利息制限法」と「出資法」の2つの法律が、それぞれ別の上限利率を設けて規制を行っていました。
【利息制限法】
元本が10万円未満…上限20%
元本が10万円以上~100万円未満…上限18%
元本が100万円以上~…上限15%
【出資法】
元本にかかわらず、年29.2%
利息制限法に違反しても罰則はありませんでしたが、出資法違反には罰則が科せられました。「利息制限法の上限を超える金利だが、出資法の範囲内である金利」をグレーゾーン金利と言います。
グレーゾーン金利には、一定の条件を満たすと有効に受け取れるという法律の規定(みなし弁済の規定)も存在していました。そのため、2006年ごろまでは多くの消費者金融やカード会社がグレーゾーン金利でお金を貸していました。
しかし、2006年1月にみなし弁済の規定を事実上無効化する最高裁判決が出て、2010年6月には法律上もグレーゾーン金利が完全に撤廃されました。
2010年6月以前に消費者金融やクレジットカード会社のキャッシングを利用していた人で、グレーゾーン金利でお金を借りていた場合は、過払い金を請求できる可能性があります。
ただし、過払い金は最後に返済してから10年で時効にかかるので、時効を経過している場合は請求できません。
もっとも、同じ業者と継続的に長い取引がある場合は、時効が伸びるケースがありますので、弁護士に相談されることをお勧めします。
銀行カードローンの利用で過払いは発生するのか
結論から言うと、銀行カードローンを過去に利用していても、過払い金は発生していません。したがって、銀行に返還請求はできません。
「過去にお金を借りていたら、過払い金を請求できる可能性がある」と聞き、「では、銀行のカードローンでも請求できるのでは?」と疑問に思われる方もいるでしょう。
過払い金は、過去にグレーゾーン金利でお金を借り、返済していた場合にのみ発生します。
グレーゾーン金利でお金を貸しつけていた企業としては、例えば「アコム」や「武富士」等の消費者金融、オリコカードやイオンカードなどのクレジットカード会社のキャッシングがあります。
上記の企業は法律上「貸金業者」に当たり、お金を貸す際は「貸金業規制法(現在の貸金業法)」の規制を受けていました。
グレーゾーン金利で貸したお金であっても、一定の条件を満たすと有効に受け取れるという「みなし弁済の規定」は、この貸金業規制法に存在していたため、この規定を根拠に各社が高金利でお金を貸しつけていたのです。
ところが、銀行のカードローンは「銀行法」の規制を受けており、「貸金業規制法」の規定は適用外でした。
そのため、グレーゾーン金利でお金を貸し出す根拠がなく、昔から利息制限法の上限金利に即した適法な金利でお金を貸しつけていました。
そのため、過払い金は発生しておらず、請求を行うことはできないのです。
その他にも、住宅ローンや奨学金も、元々低い金利でお金を貸しており、過払い金請求はできません。
ただし、銀行カードローンと似ている「銀行系クレジットカード」のキャッシング枠を利用していた場合、過払い金がある可能性があります。
銀行で発行したクレジットカードの利用の場合、過払い金は発生するか
銀行系のクレジットカードのキャッシング枠を2010年以前から利用していた場合、過払い金が発生している可能性があります。
銀行系のクレジットカードには、「三井住友カード」や三菱UFJ銀行クループの「ニコスカード」などがあります。これらのカードは、銀行本社ではなく関連の金融機関からの借り入れの可能性があるため、グレーゾーン金利でお金を貸しつけていたケースがありえます。
なお、銀行系のクレジットカードを利用していた場合でも、ショッピング枠のみ利用していたケースでは、過払い金は発生していません。
クレジットカードのショッピング枠は、買い物をした際に代金をカード会社に立て替え払いしてもらう機能であり、利息制限法の規制の対象外になるからです。クレジットカードを分割払いで買い物をした場合、手数料はかかりますが、手数料は利息ではないため、過払い金の対象になりません。
クレジットカードのキャッシング枠を利用したか覚えていない場合
クレジットカードのキャッシング枠を利用していたかどうか記憶が怪しい場合、2010年以前に海外に行っていた方は、キャッシング枠を利用していた可能性があります。また、相手方企業や、信用情報機関の記録に履歴が残っている可能性があるので、弁護士に調査を依頼されると良いでしょう。
海外で使えるクレジットカードの場合、買い物を直接クレジットカードで支払う場合以外に、現地通貨を引き出すために海外キャッシュサービスを利用していたかもしれません。
クレジットカードでATMから現地通貨をキャッシングすると、空港や現地の両替所を使うよりも手軽で、24時間引き出せるなどのメリットがあります。また、多額の現金を持ち歩かずに済み、必要な分だけ引き出せるので、防犯の面でも安心です。
普段、日本国内でクレジットカードのキャッシングを利用しない人でも、海外に行った際はキャッシングをしている可能性があるので、過払い金が発生しているかどうか調べてみたほうが良いでしょう。
また、クレジットカードの利用状況をよく覚えていないケースでも、対象企業から履歴を取り寄せることが可能です。また、信用情報機関の記録に残っている可能性があるので、諦めずに調べてみることをお勧めします。
相手方企業や信用情報機関に対する情報開示請求について
クレジットカードの利用状況をよく覚えていない場合、相手方企業に取引履歴の開示を行ったり、信用情報機関に対して情報開示請求を行ったりすることで、過払い金の有無や正確な金額が分かります。
(1)相手方企業に開示請求する
相手方企業に取引履歴の開示請求を行う場合は、企業の公式ホームページに行き、問い合わせ先の電話やメールフォームなどから、「取引履歴を開示してほしい」と求めましょう。
クレジットカード会社を含む貸金業者には、顧客との履歴を記録した帳簿を一定期間保存することが貸金業法で義務付けられています。また、お金を借りた債務者は、その帳簿を閲覧もしくは写しを請求できると定められています。
【貸金業法19条 帳簿の備付け】
貸金業者は、内閣府令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額その他内閣府令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。【貸金業法19条の2 帳簿の閲覧】
債務者等又は債務者等であつた者その他内閣府令で定める者は、貸金業者に対し、内閣府令で定めるところにより、前条の帳簿(利害関係がある部分に限る。)の閲覧又は謄写を請求することができる。この場合において、貸金業者は、当該請求が当該請求を行つた者の権利の行使に関する調査を目的とするものでないことが明らかであるときを除き、当該請求を拒むことができない。
問い合わせの際、相手企業の担当者から開示請求の理由を聞かれる可能性がありますが、「過去の取引について確認したいから」などと答え、過払い金請求を考えているとは明かさないほうが良いでしょう。
また、取引履歴の開示請求から、実際に履歴が開示されるまでには1~3ヶ月程度かかることがあります。早急に調べたい場合は、弁護士を通じて開示請求をしたほうが早く対応してくれる可能性があるので、調査を弁護士に依頼されることをお勧めします。
(2)信用情報機関への開示請求
相手方企業への開示請求では時間がかかりすぎる、相手企業の合併などによりどこに問い合わせていいか良くわからない、と言った場合、信用情報機関の履歴を確認することで、過払い金の有無が分かることがあります。
信用情報機関とは、個人のお金の貸し借りなどの信用情報を記録し、一定期間保管する機関のことで、日本に3つあります。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
日本の合法的な金融機関や貸金業者は、この3社のいずれかに加盟しており、新規融資の申し込みやクレジットカードの作成・更新時などに信用情報機関の記録をチェックしています。
この3社は、いずれも本人からの情報開示請求に応じており、インターネットによる開示請求を利用すれば、即時~7日程度の比較的短時間で情報を閲覧することができます。手数料は500円~1,000円程度です。
情報開示請求をしたことによるデメリットはほとんどないので、過払い金の有無が気になるときは、信用情報機関の開示請求を試すのが手っ取り早いでしょう。
もっとも、過払い金の有無や金額を知りたいときは、取引履歴を得た後に、そこから正確な過払い金の額を計算する必要があります。
過払い金が発生しているかどうかは専門家へ相談して聞くのが一番
取引履歴を入手後、そこから正確な過払い金の額を計算するのは素人では難しいので、正確な計算ができる弁護士や法律事務所に相談されることをお勧めします。
過払い金の金額を計算するには、グレーゾーン金利での借り入れを利息制限法の上限金利に引き直して計算します。具体的には、実際に返済した金額と、法律上有効な返済額の差額を出します。
過払い金の有無や金額を知るためには、昨今ではネット上に数多くのシミュレーターや計算ソフトが出ています。そうしたソフトに、説明書きに従って数字を打ち込んでいけば、ある程度の目安になります。
しかし、こうしたシミュレーターやソフトでは必ずしも正確な過払い金額が出るとは限りません。特に、複数の会社と取引していたり、特定の会社と長く継続的に取引していたりするケースなど場合は、正確な金額を算出するのには知識が必要です。
個人で計算して過払い金額を請求することには以下のリスクがあります。
相手方企業に計算違いを理由に支払いを拒否される
過払い金請求の相手方企業によっては、過払い金の金額が不正確だと、それを理由に返還を拒むことがあります。
計算違いにより損をする
例えば、長期の取引があった企業で、自分の計算では70万円の過払い金があると思って請求したが、弁護士に依頼すればそれ以前の取引も含めて100万円請求可能だったという可能性があります。
過払い金請求を得意とする弁護士に依頼すれば、このようなリスクを回避できます。
相手企業有利に話が進むおそれがある
過払い金を個人で請求すると、相手の企業に足元を見られて、相手のペースで減額に応じさせられてしまうことがあります。弁護士を通じて請求する方が、より全額に近い金額を取り戻せるでしょう。
勿論、弁護士費用がかかりますが、過払い金の金額が高額であればあるほど、弁護士費用を差し引いても多くの金額を確実に取り戻すことができるので、弁護士に頼むメリットは大きいと言えます。
銀行カードローンかどうかわからない場合も専門家へ相談を
「銀行系のカードを使っていたことは覚えているけど、カードローンだったか…」「カードローンだったけど、銀行系じゃないかもしれない」などと記憶があいまいな場合も、弁護士に相談してアドバイスを受けたほうが良いでしょう。
一番もったいないのは、過払い金があるのに、思い悩んでいるうちに時効期間を経過してしまうことです。過払い金は本来、支払わなくてよかった利息で、法律上「不当利得」と呼ばれるものです。請求せずに相手方企業が不当に得をするのは良いことではありません。
弁護士に依頼すれば、正確な相手方企業や過払い金の金額がハッキリします。過払い金がない場合は「ない」ことを教えてくれますので、モヤモヤしている場合は気軽に相談されることをおすすめめします。
この記事の監修者

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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑