金銭債権の時効と民法改正後の変更点について

金銭債権の時効について、わかりやすく解説します。債権とは、ある人が特定の他人に対して、特定の給付や行為を求められる権利のことを言い、金銭に関する給付のことを「金銭債権」といいます。金銭債権の消滅時効は2020年4月1日より民法が変更になり、実質的に10年から5年に短縮しました。具体的な変更点や時効中断の方法についても解説します。

債権とは?

債権とは、ある人が特定の誰かに対して、特定の給付や行為を求められる権利のことを言います。身近な例で挙げると、八百屋でリンゴを買うという単純な行為であっても、債権は発生します。

【債権のイメージ】

八百屋さんでリンゴ1個を100円で購入しようとした場合、法律的に見ると、売買契約が発生します。お店の人は代金100円を受け取る債権を持ち、お客さんはリンゴ1個を受け取る債権を持っています。

債権の反対に、ある人が特定の誰かに対して、特定の給付や行為をする義務があることを「債務」と言います。

【債務のイメージ】

八百屋さんでリンゴ1個を100円で購入しようとした場合、お店の人にはリンゴ1個を引き渡す債務を負い、お客さんは代金100円を支払う債務を負います。

このように、債権と債務は表裏一体の概念です。債権を持っている人のことを「債権者」、債務を負っている人のことを「債務者」と呼びます。また、債務者が約束通りに債務を履行しないことを「債務不履行」と呼びます。

日常の買い物ならば一瞬で済むため、債権債務関係を意識することはあまりありません。しかし、例えばインターネット通販で箱入りリンゴ5キロ入りを2,000円で購入した場合、「お金を払ったのにリンゴが届かない」「リンゴを送ったのにお金が支払われない」と言ったトラブルが生じることがあります。多くの場合、売買契約の当事者のどちらかが債務不履行となって問題が発生します。

※金銭債権とは

金銭債権は、債権の中でも特にお金の給付を求めることができる権利のことです。よく利用される債権の例としては、銀行預金などの「預金債権」、顧客や取引先に対し、製品やサービスなどの提供をした企業が代金を受け取る権利である「売掛債権」などがあります。

債権債務関係は、金銭債権でなくとも発生します。例えば、農家が親戚に「リンゴの収穫を2時間手伝ってくれたら、リンゴ1箱あげよう」という約束をしても債権債務関係は生じます。しかし、法律上の問題が発生しやすいのは、やはり、金銭債権です。

※お金を借りた人はなぜ「債務者」と呼ばれる?

借金の契約を「金銭消費貸借契約」と言います。債権債務関係のルールから言うと、契約当事者は双方が債権と債務を負うはずなのに、なぜ、借金をした人のことだけを「債務者」というのでしょうか。

その理由は、お金を貸した人は、現実にお金を貸し渡した時点で債務の履行が済んでおり、後は、お金を借りた人が約束通り返すという債務だけが残るからです。そのため、お金を貸した人は、もっぱら期日が来たらお金を受け取る債権をもつ債権者となり、お金を借りた人は、期日までにお金を返す義務を負う債務者と呼ばれます。

債権にも時効がある

債権は、債権者が権利を行使することができる状態だったのに、一定期間権利を行使しなかった場合には、時効によって消滅します(民法166条・消滅時効)。これは、「権利の上に眠るものは保護しない」という考え方に基づいています。

例えば、Aさんが友人のBさんから1万円を借りて、双方とも多忙だったのでそのまま忘れてしまい、10年以上経ったある日、Bさんが唐突に1万円のことを思い出して、「あの時貸したお金を返してくれ」とAさんに請求したとします。

Aさんにはろくに記憶がありませんし、二人は借用書を取り交わしてもいません。Aさんの趣味は機械いじりで、当時Bさんのパソコンを修理してあげた謝礼として受け取った気もしています。Bさんも「確か12年前の春ごろのことだった」とあいまいです。

このように、時間がたてばたつほど記憶も怪しくなり、証拠も散逸していきます。ずっと「お金を返してくれ」と言わなかったBさんにも、自分の債権を長い間放置していた責任があると言えるでしょう。

こうした場合に、AさんはBさんの突然の請求に対し、「1万円の債務は時効によって消滅している」と主張することができます。消滅時効の利益を受ける意思表示を相手に示すことを「時効の援用」と言います。

しかしながら、Aさんが次第に当時の事情を思い出してきて、「確かに1万円借りてた。返すよ」とBさんに伝えた場合、「債務の承認(民法152条1項)」が行われたとされ、AさんがBさんに1万円を渡した場合、Bさんは法律上、債権者として有効に受け取ることができます。

このように、消滅時効は、債務者側が援用することによってはじめて効力を発します。時効の援用は口頭で伝えるだけの場合、後に争いになることがあります。特に、借金の金額が数十万円以上など高額の場合は、内容証明郵便を利用して、慎重に行いましょう。事前に無料相談等を利用して弁護士にアドバイスを求めることもお勧めします。

金融機関からの借金と友人からのお金の貸し借りで時効は違う?

2020年4月の民法改正前は、金融機関等の企業からの借金と友人等の個人からの借金では、時効期間に違いがありました。しかし、2020年4月の民法改正以降、どちらも同じ時効期間(原則として5年間)に統一されました。ポイントは、「契約した日が2020(令和2)年4月1日より前か後か」です。2020年3月31日以前は旧民法が、4月1日以降は新民法が適用されます。

【旧民法のルールと考え方】

2020年3月31日以前の旧民法においては、金融機関や貸金業者からの借金は、民法の特別法である商法の規定によって、消滅時効は5年と定められていました。これに対し、一般の個人が個人に対して貸したお金の消滅時効は10年でした。

一口に「借金」と言っても、お金を貸すことを業務としている商人である企業が顧客にお金を貸した場合では、企業のほうが契約内容についてきちんと把握し、返済がなければ適切に請求を行う義務があります。それを企業側が5年間も怠ったのであれば、消滅時効にかかっても良いという考え方です。

他方で、貸金業を生業としない個人が友人などにお金を貸した場合は、金融機関ほどしっかりと契約について管理する義務があるとは言えず、消滅時効までの期間は10年と長くなっていました。

また、信用金庫や住宅ローンについては商人ではなく、時効は10年とされていました。

このように、旧民法では、消滅時効の期間に関して数多くの例外規定があり、わかりにくいとの指摘がありました。銀行の借金の時効が5年なのに、同じように口座を作れる信用金庫の借金の時効が10年というのは、確かにピンときませんね。そのため、新民法ではルールを統一することになりました。

とはいえ、2020年3月31日以前に契約した借金については、引き続き旧民法が適用されます。例えば、2015年6月1日に個人同士で借金をした場合、時効は10年後の2025年6月1日まで完成しません。

民法の改正による消滅時効期間の変更点

2020年4月1日以降の新民法では、企業や商人、個人のお金の貸し借りに関係なく、借金の債権の消滅時効は原則として5年、例外的なケースにおいては10年となりました。

新民法では、債権の消滅時効は166条に以下のように定められています。

【民法第166条(債権等の消滅時効)】
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

「一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。」が民法改正で新たに加わった条文で、「主観的起算点」と呼ばれています。「二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。」は「客観的起算点」と呼ばれます。

【主観的起算点とは】

一般的な債権の場合、主観的起算点とは、「債権者が債務者に対し、債権を請求できることを知った日」のことを指します。借金の契約においては、返済の期日を設定し、それに双方が合意していれば、その返済を約束した日が「請求できることを知った日」です。時効はその翌日からスタートします。

借金の場合、通常は、債権者も債務者も返済の期日を知っているため、時効期間は民法166条1項に従って5年間となります。

例えば、AさんがBさんから2021年4月1日に10万円を借り、「1年後の2022年4月1日までに返す」と約束したとします。時効は2022年4月2日からスタートし、民法の定めに従い、2027年4月1日に期間満了となります。

【期限の定めのない債務】

それでは、約束の日が「Aさんにお金が出来たら返す」と言った、あいまいなものであった場合はどうなるのでしょうか。

こような場合は、法律上「期限の定めのない債務」と呼ばれており、民法412条3項に定めがあります。「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」つまり、Bさんが「お金を返してよ」と言った時から時効期間がスタートします。

もしも、Bさんが一度も催促をしていなかったらどうなるのでしょうか。Bさんは、いつでも「お金を返して」と言える立場のため、「債権者が権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」とは同じ時点になります。つまり、契約の時点から5年経過すると消滅時効が完成することになります。

ただし、借金の場合は、民法591条1項「当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。」という規定がありますので、正確には「相当の期間」が経過しなければ5年の時効は完成しません。相当の期間とは、大体1週間程度とされています。

借金の時効を中断させるための方法

自分が債権者側で、時効が迫っている場合、まず、債務者に借金を支払うように催告を行いましょう。債務者に「お金を返して」と求めることを法律上「催告」と言います。口頭で言うだけも催告にはなりますが、後で言った言わないの問題となる可能性があるため、内容証明郵便で、文書で証拠の残る形にして通知します。

催告は、時効を完全に中断する効果は生じません。催告の後6カ月以内に、訴訟や差押え、仮差押え及び仮処分といった、裁判所が関与する手続きを行うと、時効が中断します。このような、時効の中断事由としての、裁判所が関与する手続きのことを法律上「請求」と言います。

また、請求まで行かなくとも、相手が債務を「承認」した場合は、時効が中断します。承認とは、借金の場合、債務者が「1万円借りています」と認めることを言います。

債務者が明確に「確かに1万円借りていた」などと言わなくとも、例えば、「今金がないからちょっと待ってくれ」と支払いの猶予を求めるとか、黙って5,000円だけ弁済するといった行為も承認にあたります。

時効期間が既に経過している債権であっても、債務者の側が承認を行えば、一度行った承認を撤回することは認められないとされています。

そのため、債権者の側が「あの時貸したお金、5年経っちゃってるから、もう時効だよなぁ…」などと諦めてしまわずに、債務者側に催告を行ってみましょう。債務者が債務の存在を認めたり、返済についての相談や交渉をしてきたりしたら、時効の問題を気にせずに話を進めることができます。

特に、2020年4月以降に個人間で貸したお金については、実質的に時効が10年から5年に短縮されましたので、時効が完成しないうちに早めに催告や請求を行うことをお勧めします。

借金の時効に関して不明な点があれば弁護士に相談を

2020年4月の民法改正により、時効のルールが大きく変わりました。一般的には「2020年4月以降にした借金の契約は原則として5年で消滅時効になる」という理解でよいのですが、事案によっては不明な点、わかりにくい点もあることでしょう。ご自身の債権や債務につき、疑問や不安がある場合は、法律のプロである弁護士のアドバイスを受けられることをお勧めします。

催告の際の内容証明郵便の書き方や、時効の援用を行う際の通知は、法律家が関与することにより、確実に法的効果を発生させることができます。

この記事の監修者

弁護士 河東宗文
弁護士 河東宗文
中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑