ギャンブルによる借金は自己破産できないのか?
借金の原因がギャンブルの場合、自己破産手続で借金が帳消しにならない「免責不許可事由」に当たります。しかし、現実には多くの人がギャンブルが原因の借金でも免責を許可されています。免責不許可事由と、裁量免責についてわかりやすく解説します。自己破産が認められなかった場合の対応についてもまとめました。
目次
ギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当するのか?
ギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当しますが、実際はほとんどのケースで免責が受けられ、ギャンブルによる借金から多くの人が解放されています。
「ギャンブルで作った借金は自己破産できない」という話を聞き、思い悩んでいる方もいらっしゃると思います。確かに、ギャンブルが原因の借金は法律が定める「免責不許可事由」に当てはまります。免責不許可事由に当てはまる借金は原則として、自己破産をしても免責されず、借金がなくなりません。
しかし、例外的に、裁判所の判断によって免責が認められることがあります。真摯な態度で自己破産手続を行い、人生をやり直す決意を裁判所に認めてもらえれば、実際にはほとんどのケースで免責による借金の帳消しが許可されるのです。
ただし、ギャンブルが原因の借金の場合、一般的に、破産管財人が選任されて「裁量免責」の可否について調査を受けるなど、やや難しい破産手続となり、破産管財人に支払う費用がかかります。
ギャンブルが原因の借金で自己破産をする際に知っておきたいポイントをまとめました。
免責不許可事由とは?
免責不許可事由とは、破産法252条に定めがある、免責が許可されない事情のことをいいます。免責は、自己破産手続の中で最も重要な制度で、裁判所が免責を許可すると全ての借金がなくなります。逆に言うと、免責が許可されないと自己破産手続をしても借金がなくなりません。
「ギャンブルが原因の借金」は免責不許可事由の代表的な例です。法律には以下のように規定されています。
破産法 第252条第1項第4号
浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
競馬や競輪、競艇、パチンコ、宝くじの購入などは「賭博」に当たります。また、株や暗号資産取引、FX取引といった投資への過剰な支出もギャンブルとされることがあります。
とはいえ、ギャンブルをしていれば自動的に免責不許可事由となるわけではなく、ギャンブルによって「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担」をしていることが条件です。生活に無理のない範囲、例えば、年に2回、5,000円程度宝くじを購入しているといった場合には免責不許可事由にはなりません。
どのくらいの金額をギャンブルに費やせば免責不許可事由となるかは、収入や支出、資産額、生活の状況、そのほかの負債の状況などから具体的に判断されます。
ギャンブル以外に「浪費」も免責不許可になります。キャバクラやホストクラブなどでの高額の飲食、風俗での多額の支出、エステ、ショッピング、オンラインゲームなどへの課金も、「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担」した場合は免責不許可事由になります。
ギャンブルや浪費以外の免責不許可事由としては、主に、自己破産手続きの際に、裁判所や債権者に対して不誠実な言動をとることが挙げられます。以下に代表的な例を挙げます。
- 財産隠しや財産の破壊、もしくは財産を知人に不当に安く売るなどの行為
- 返済できない状況なのに、特定の債権者にだけ弁済すること
- クレジットカードの現金化
- 裁判所に嘘の説明をすること、調査に協力しないこと
また、一度自己破産してから7年間は自己破産が出来ないというルールがあるため、7年経つ前に手続きをした場合は免責不許可事由に当たります。
ギャンブルによる借金が免責許可される場合
ギャンブルが原因の借金で、免責不許可事由に当たるケースでも、実際は多くの人が裁判所により免責を許可されています。破産法252条の免責不許可事由に当てはまっても、自動的にすべてのケースで免責が不許可になるわけではなく、裁判所の「裁量免責」という制度で免責が認められることがあるからです。
破産法252条2項には、免責不許可事由に当たる場合でも、「裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」と規定しています。これを裁量免責と言い、多くの人が裁量免責により借金から解放されています。
現実の自己破産では、ギャンブルによる借金の額が何千万円にも及ぶ、あるいはほかの免責不許可事由に当てはまるなどの特殊なケースを除いて、ギャンブルによる借金も免責されるケースがほとんどです。しかしながら、「本来は免責されないケースである」ということも念頭に置き、同じことを繰り替えさないという強い気持ちを持って手続きすることが望まれます。
裁量免責が認められる場合
ギャンブルが原因の借金があり、裁判所に裁量免責により借金を帳消しにしてもらうためには、ギャンブルの内容や借金をするに至った流れ、生活の状況や持っている財産などを嘘をつかずに申告し、裁判所が選任した破産管財人の調査には真摯に対応し、書面と面談(免責審尋)の双方で、やり直したいという気持ちを汲んでもらう必要があります。
裁量免責を得るためのポイントは以下の5つです。
- ギャンブルを完全にやめること
- 申立書類において、ギャンブルの内容や経緯、現在の家計の状況を具体的に説明すること
- 反省文の提出
- 免責審尋では、今後はきちんと収支を管理して生活を立て直すとの意欲をアピールすること
- 破産管財人による調査には誠実に協力すること
まず大切なのは、借金に苦しむ原因となったギャンブルを完全にやめることです。問題の原因を根本的に解決する気がなければ、同じことを繰り返してしまいますし、書面や審尋を通して、裁判所に「生活再建のための努力や意欲がない」と判断され、免責を受けられなくなってしまいます。
医療機関等で「ギャンブル依存症」と診断された場合には、必要なカウンセリングや治療等を受けるほか、家族に支援をお願いするなど、今後はギャンブルをしないように具体的な対策を講じていきましょう。
また、ギャンブルが原因の借金ですと、後ろ暗さや免責されないことへの不安から、具体的な経緯を説明したくないと思ったり、財産や家計の状況などをぼかしておきたいと思ったりするかもしれません。しかし、こうした態度をとると逆に免責を得にくくなります。
裁判所が求めるのは、自分の過去や現在の状況を正直に打ち明け、きちんと現実と向き合ったうえで、今後はこのようなことがないようにするという真剣な態度です。申立書類や反省文は、裁判官や破産管財人が法律家の目で見て理解し納得できる文章でなくてはなりません。また、裁判官との面談(審尋)では、本当に生活再建が可能な人か見極めるために、あえて厳しい質問をされることもあります。
こうした状況に一人で対応するのは精神的な負担が大きく、大変なことです。専門家によるアドバイスやサポートが必要でしょう。また、免責不許可事由がある自己破産の場合は「管財事件」と言って、やや難しい手続となります。事前に弁護士に依頼することが望ましい手続きとなります。
そのため、ギャンブルが原因で自己破産をする場合は、事前に債務整理に強い弁護士に相談されることをお勧めします。
免責不許可事由がある場合の「管財事件」とはなにか?
自己破産の手続きには2種類あり、財産がない人向けの手続きである「同時廃止」と、財産がある人や、免責不許可事由がある人向けの手続きである「管財事件」があります。どちらになるかは裁判所が決定します。
処分すべき財産がなく、免責不許可事由もない人の場合は、「同時廃止」と言って、簡易でスピーディな手続きとなり、費用も安く抑えられます。
しかし、処分すべき財産があったり、免責不許可事由があったりする場合は、「管財事件」と言って、裁判所が「破産管財人」という自己破産の専門家を手続きに関与させ、財産の処分や借金をするに至った事情の調査を行います。
管財事件は、破産管財人が関与する分、手続き期間が長くなり、費用も多くかかります。
しかし、自己破産手続の前にあらかじめ弁護士に依頼しておくと、裁判所によっては、管財事件の中でも「少額管財」と言って、比較的費用のかからない手続きで済ますことができる場合があります。また、書類作成の際や審尋の際にも、専門家のサポートが受けられるので、確実に免責が受けやすくなります。
弁護士に頼むお金がないというケースでも、弁護士事務所によっては積み立てなど、無理なく支払える制度を設けている場合があります。心配しすぎずに、まずは無料相談を受け付けている法律事務所に相談してみましょう。
自己破産が認められなかった場合の対応
万が一、ギャンブルが原因の借金で免責が認められなかった場合でも、「即時抗告」及び「自己破産以外の債務整理手続をとる」という手段があります。
即時抗告とは
即時抗告とは、自己破産を申し立てた裁判所が免責不許可を出したことが本当に正しかったのかどうか、免責不許可を決定した地方裁判所を管轄する高等裁判所に判断してもらう手続きです。
破産法252条5項には、「免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。」と定められています。
即時抗告は、免責不許可決定の公告が効力を生じてから2週間以内に行う必要があります。抗告状の提出先は、免責不許可を決定した地方裁判所になります。
ただし、地方裁判所は自己破産手続において、借金の経緯や免責不許可事由について十分に調査を行ってから免責不許可決定を出しているので、即時抗告を行っても免責不許可は覆らない可能性が高いでしょう。
自己破産以外の債務整理とは
借金を法的に解決する手続きを「債務整理」と言います。借金の法的解決というと、真っ先に自己破産を思い浮かべる方も多いと思いますが、他にも「任意整理」や「個人再生」といった債務整理があります。
まずは自己破産手続で確実に借金を帳消しにできるよう準備をすることが大切ですが、深刻な免責不許可事由がある場合でも、他の債務整理によって借金負担を軽減できる可能性があります。
ただし、任意整理や個人再生をする条件として、今後3~5年にわたって減額された支払いを続けなければなりません。それだけの収入がない場合や、借金の金額が高すぎる場合は、免責不許可になるリスクがあっても、自己破産手続をとることになるでしょう。
任意整理
比較的借金額が少ない人向けの手続きで、弁護士が金融機関や貸金業者等の債権者と私的な交渉をして、利息や遅延損害金のカットやリスケジュールを行う債務整理です。裁判所を通さないので複雑な手続きがなく、同居の家族にも秘密で行うことが可能など、デメリットの少ない債務整理として多くの人が手続きをしています。
ただし、任意整理では基本的に借金の元本は減額されず、3~5年かけて返済しなくてはなりません。また、債権者との交渉がうまくいかなかった場合は、個人再生や自己破産といった裁判所を通した手続きをとることになります。
個人再生
裁判所を通した手続きで、借金の元本を5分の1程度に大幅に減額することができます。(減額される割合は借金の金額によります。)また、借金の金額も5,000万円以下であれば手続きが可能です。
個人再生のメリットは、自己破産と違って基本的には財産を処分しなくて済み、手元に残すことができます。また、住宅ローンが残っている家を手放したくない場合は、住宅ローン特則という制度を利用して、家に住み続けながら借金を減額できます。
デメリットとしては、裁判所を通すため手続きが複雑で、1~2年という長い時間がかかることがあります。
ギャンブルによる自己破産の場合は弁護士に相談を
ギャンブルが原因の借金でも自己破産ができますが、免責不許可事由に当てはまるため、確実に免責が下りるよう、事前に法律の専門家に相談してアドバイスやサポートを受けることを強くお勧めします。
また、繰り返してしまいがちなギャンブルが原因の場合、誰かに相談することが悪癖を断ち、人生を変えるきっかけになることがあります。
債務整理については多くの法律事務所が無料で相談を受け付けており、複数の法律事務所に相談して、対応の良かった事務所を選んで依頼することも可能です。また、相談した結果、自己破産をせずに任意整理や個人再生で解決した方がよいと判断されるケースもあります。
借金の問題は一人で抱え込まずに、まずは相談をされることをお勧めします。
この記事の監修者
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中央大学大学院法学研究科⺠事法専攻博士前期課 程修了
前東京地方裁判所鑑定委員、東京簡易裁判所⺠事 調停委員
東京弁護士会公害環境特別委員会前委員⻑